第43回 : アメリカが創った英雄たち(国立西洋美術館)

今回の展覧会は、国立西洋美術館のHPによれば「肖像が語るアメリカ史 スミソニアン・ナショナル・ポートレート・ギャラリー所蔵作品による」と「アメリカン・ヒロイズム」という2つの企画展を同時開催していると紹介されています。しかし2つの展覧会といっても、同じ会場で行なわれていて、別の展示室に入るわけでもありません。ですから、ここでは同館のHPにも展覧会のチラシにも見出せる「アメリカが創った英雄たち」というタイトルを展覧会名として採りました。

会期は2001年10月14日(日)までで、休館日は月曜日(ただし9月24日と10月8日は開館し、かわりに翌日の火曜日が休館となります)。観覧料は一般(当日)が830円となっています。

「肖像が語るアメリカ史」は、1727年に描かれた《ジョージ・バークリー》(ジョン・スマイバート)から1991年の《M・F・K・フィッシャー》(ギニー・スタンフォード)までの75点で、先に触れたとおりワシントンD.C.にあるスミソニアン・ナショナル・ポートレート・ギャラリー所蔵の作品が展示されています(なお、ここでは構成の細分化はなされていなせんでした)。ただ、古典古代の神話の登場人物や、ヨーロッパで生まれ育った歴史上の人物などはありませんでした。75点いずれも、アメリカと関係のある実在の人物という共通点があり、会場に置かれている「作品目録」には、作品名(=人物名)−職業−作者−制作年が記されています。会場はほぼ制作年代順に作品が配置されていましたが、私は職業の欄に注目して見て歩きました。聖職者、政治家、軍人、作家、ジャーナリスト、役者などのほかに奴隷制廃止論者、メキシコ戦争将校などという記述を目にして「ああ、アメリカだあ〜」と思いながら見られたのですから、そうした意味では収穫といえるでしょう。

私にとっては、肖像画ばかりまとめて見たのは初めての経験になります。これまでは、たとえば18世紀頃の貴族や軍人の肖像画を見ると、肖像画=その人物のステータスの自慢(まあ、平たい表現になりますが・・・)という要素が強く、きっと実際以上に偉そうに、あるいは強そうに、そして格好よく(女性ならば、よりきれいに)描かれているに違いないという疑いが拭えませんでした。今回の展覧会でも、どこまで「似ているか」、いやもっと言うと実際以上に良く描かれている人物はいないのかという疑いは、どうしても残ってしまいましたが、これは私の性分とでもいうかどうにも仕方がないみたいです。ただ、1727年〜1991年という時間の広がりは、単に貴族や王族のステータス自慢の延長線で捉えるのはちょっとマズイかなと感じたりもしました。描く側と描かれる側の信頼関係が先にあって作品が世に出たものもあるようですし、雑誌の表紙絵に採用された作品まで展示されていて、話題性のある人物をさらに広く紹介する役割まで負うわけでしょうから。

見た作品で特に印象に残ったのは(作者−作品名−制作年−職業の順)、
  ジョゼフ・シフレッド・デュプレッシス《ベンジャミン・フランクリン》1785年(作家、政治家、科学者、外交官)
  サミュエル・F・B・モース《サミュエル・F・B・モース[自画像]》1812年(画家、発明家)
  エドガー・ドガ《メアリー・カサット》1880-1884年頃(画家)
  ジョン・ホワイト・アレグザンダー《サミュエル・L・クレメンズ(マーク・トウェイン)》1902年頃(作家)
  アーサー・カウフマン《ジョージ・ガーシュウィン》1936年(作曲家)
  ポール・メルツナー《マーサ・グレアム》1940年頃(舞踏家、振付師)
  ベツィー・グレイヴズ・レイノー《ジョージ・ワシントン・カーヴァナー》1942年(科学者)
  エレーヌ・デ・クーニング《ハロルド・ローゼンバーグ》1956年(文筆家、批評家)
といったところですが、とりわけ奴隷の子として生まれ、科学者として大成したというジョージ・ワシントン・カーヴァナーの穏やかな表情をたたえた作品は、強烈に記憶に残りました。

「アメリカン・ヒロイズム」の方は
  1― 歴史画における英雄
  2― アメリカの英雄的風景
  3― 帝国の進路を西に取れ
  4― 自由を求める闘い
  5― 現代生活の英雄性
と、構成が細分化されていました。「1― 歴史画における英雄」にはジョン・トランブルの《独立宣言,1776年7月4日》などが含まれます。風景は飛ばして、「3― 帝国の進路を西に取れ」では西部開拓期の英雄やインディアンが描かれ、「4― 自由を求める闘い」では奴隷制にかかわる作品が展示されています。この中でイーストマン・ジョンソンの《野戦病院》は、木陰に置かれたベッドに怪我人(あるいは病人)が寝ていて、すぐ傍らで女性が看護しているという作品です。それだけといえばそれだけの絵ですが、妙に印象に残りました。

ちょっと変わった展覧会だということもできると思います。とはいえ、アメリカのもつ負の部分も含めての展示で、まずまずといったところでしょうか。
【2001年8月21日】


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