第42回 : マネ展〜近代絵画の起源(府中市美術館)

去年の秋に開館したという府中市美術館へ初めて行ってきました。この展覧会に、あの有名な《笛を吹く少年》が来ているといいますし、ほかにも興味深そうな作品も見られそうだったので。府中市美術館は、新宿から京王線に乗って「東府中駅」で下車し、徒歩で約15分のところにある府中の森公園の一角にあります。徒歩15分という時間を長いと感じるか、そうでもないと感じるかは人それぞれでしょうが、美術館までの道のりは、軽い散歩をするノリで行きましょう。詳しいことは、同館のHPをご覧ください(こちらです)。

会期9月16日(日)までで、休館日は毎週月曜日(ただし9月10日は開館)です。入館料は一般1000円。そうそう、音声ガイドも用意されていました(300円)。入場券を買って、企画展示室のある2階へ行きます。

今回の展覧会は、ほとんどがマネの油彩画と版画で占められていますが、最後のセクションでマネ以外の、しかしマネ周辺で活躍していた画家たちの作品が展示される構成をとっています。
T マネの源泉―イタリア・スペインの巨匠たち
U ジャポニズム、そして新しい絵画へ
V ジャポニズムの版画
W 引用と反転―マネの版画
X 文学者との交流
Y 現代生活の画家―女性たち
Z マネ周辺の画家たち

最初のセクションでは、マネが若いころルーヴル美術館の模写生となったり、オランダ、ベルギー、イタリア、スペインを絵画旅行したりして、過去の大家たちの作品から多くを吸収したことが明らかにされていますが、今回の展示から感じることは、なかでもベラスケスには多大の影響を受けたのだろうな、ということでした(もっとも、会場に入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、油彩画では《ティントレットの自画像(模写)》(1854年)でしたけれど・・・)。こうして培った古典の要素は、やがて《草上の昼食》(1863/67年)のような作品に結実していきます。今回は、パリのオルセー美術館に収められている同名の作品よりやや小さい、コートールド美術研究所所蔵のものが来ていましたよ。

19世紀後半といえば、日本が鎖国を解き、美術の方面ではヨーロッパでジャポニズムと呼ばれる現象が起こります。2番目と3番目のセクションは、そうした影響を作品に反映したマネの作品が並びます。有名な《笛を吹く少年》(1866年 オルセー美術館蔵)も「ジャポニズム、そして新しい絵画へ」のセクションに展示されています。少年の着衣は黒、白、赤系の原色が思い切りよく使われ、背景の色は濃淡が付けられていて、どこか深みさえ感じさせます。足元から踝の上のほうまでの背景色は薄く、その上の方は、大雑把に言えば画面の端の方は濃い背景色になり、少年の身体に近い箇所には薄い色もある、といった具合です。絵画作品が、複製や絵葉書、チラシなどに印刷されると一般的に明るくシャープになってしまいますので、できることならば実物をご覧になるといいでしょう(せっかくの機会ですし・・・)。

「引用と反転」のセクションで印象に残ったのは《メキシコ皇帝マクシミリアンの処刑》(1867-68年 パリ国立図書館蔵)。この作品は、メキシコ皇帝マクシミリアンが革命軍に捕らえられて処刑―具体的に言うと銃殺です―されているところです。その構図を見ながら解説を読むと「なるほど」と思うのですが、スペインの画家ゴヤの《1808年5月3日の銃殺》の影響を受けているのだそうです。マネの作品では、銃殺する側が革命軍で銃殺される側が権力者だったマクシミリアン。歴史の皮肉とでも呼びたくなるような内容をもった作品ですね。

マネの「文学者との交流」は、ボードレール、ゾラ、マラルメなどの名前が挙がってきます。いずれもビッグネームですね。このセクションで私の注意を惹いたのは、《ステファヌ・マラルメの肖像》(1876年 オルセー美術館蔵)でした。髯をたくわえたアクの強い顔からは、強固な意志が感じられます。この人の手から、『牧神の午後』の詩が生まれ、それがもとになってドビュッシーの《牧神の午後への前奏曲》が生まれました。そういえば作曲家で指揮者のブーレーズが作った《プリ・スロン・プリ》という作品は、<マラルメの5つの肖像>というサブタイトルを持っています。このような要素も思い起こして、今回は、じ〜っとマラルメの肖像画を拝んできました。

「現代生活の画家―女性たち」のセクションで印象に残ったのは、私の場合はただ1点、《秋(メリー・ローラン)》(1881年 ナンシー美術館蔵)のみでしたが、見る人が見れば、違った魅力を見出すに違いありません。「マネ周辺の画家たち」も、うれしい配慮。これまでの文章には書きませんでしたが、印象派からも少なからぬ影響を受けつつ、しかし光と影のバランスを見つめて印象派そのものには加わらないなど、マネの個性といえるようです。また、海辺とか郊外の田園風景を相手にするよりは、都市の生活を機軸にした絵画を多く残しています。こうした要素も、展覧会に実際に足を運んでみれば、きっと体感できることでしょう。

最後に、マネの関連サイトを少しばかり挙げておきましょう。

    Web Museum: Manet, Edouard

    Artchive: Edouard Manet

ただし、これらのサイトは今回の展覧会と直接の関係はありません。念のため。
【2001年8月11日】


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