第33回 : デ・キリコ展 ― 終わりなき記憶の旅 (ザ・ミュージアム)

年末に、渋谷で開催されている「デ・キリコ展」に行ってきました。会期は、2001年1月14日(日)までです。この展覧会には、なかなか行けなくて、残り期間が比較的短くなってからのご紹介となりました。入館料は、一般が1,200円で、会期終了日まで休館日はありません。なお、音声ガイド(オプションで500円)も用意されています。音声ガイドに頼りすぎるのも考えものですが(作品をじっくり見ないで、ガイドを聞いて「わかった」ような気になる恐れもあるので)、私は利用しました(笑)。

会場の構成は次のようになっていました。
    1910年代 1920年代 1930年代 間奏曲 −リトグラフ 1940〜50年代 1960〜70年代
このほかに、紙に書かれた作品があり、合計約100点の回顧的展示となっていました。

キリコ(1888年〜1978年)は、20世紀はじめに未来派とともにイタリアに生まれた「形而上絵画」を代表する作家です。もう少し丁寧に言うならば、1910年代に「形而上絵画」の旗手として登場したキリコは、20年代に入ると過去の画家、たとえばラファエロやルーベンス、ルノワール風の作風を示したといいます。1930年代半ばにはパリに居を構えていたようですが、経済危機を迎えていた彼の地で、アヴァンギャルドの波がひいてゆくのを感じ取り、むしろ美術館へ通うようにり、そして関心を寄せたのは、当時のイタリア人が気にとめなかったドラクロワだといいます。では1910年代の「形而上絵画」は捨て去ってしまったのかといえば、「新形而上絵画」と称するなどして当時の模倣作品を制作することもあったとか。主催者が用意したチラシには「彼の生涯と作品は不可解な変転の連続だった」とあります。そうか、作風に変化が富んでいるのかな、知らなかったぞ、と思って作品を見始めた私でしたが・・・

でも、この展覧会を見た限りでは、年代ごとの作風の変化は、私にはさほど大きなものとは感じられませんでした。少し具体的に書いていきましょう。

今回の展示では、1910年代の作品は僅か2つ。そのうち「終わりなき旅(The endless voyage)」(1914年)では、室内に室外の風景が描かれるなどの逆転と、画面中央にギリシャ彫刻風といえなくもないマネキン風の像が配置されているなどして、これ何なんだろうと考えさせられてしまいます。会場の解説には、すべて夢と記憶を主題に掲げていると書かれていましたが、たしかに中央の像などが”遠い過去”を容易に連想させてくれます。そして一目見て、人為的で無機質で「静」的な絵画だと印象付けられますが、これらの特徴は、展示作品すべてに一貫しているといえるでしょう。

20年代に入ると、「月桂樹とプラタナスのある月明りの自画像(Self-portrait in the moonlight, with laurel and plane tree)」(1922年頃)、「ホメロス(Homer)」(1925年)などの人物画がでてきますが、人物にマネキン臭さはなく、このあたりに作風の変化があったのかなと思いました。しかし、それ以上に印象に残ったのは、馬、剣闘士などが作品の中に多く登場するようになることです。剣闘士はマネキンもどきの描きかたがなされ、顔が具体的でないこともしばしばだったと記憶します。しかも、何を伝えたいのかな、という点はわからずじまいのものも多く残りました。

1950年代半ばに描かれた「ヴェネーツィア ― リアルト橋(Venice, Rinalto Bridge)」は、20世紀のカナレットかと思わせるような作品で、ちょっとビックリしました。形而上学からはほど遠く思えますが、いかがでしょうか? そして、幾多の作品の中に見出せる「影」。それも、けっこう長い影があり、これらは郷愁や過去の時代を連想させるのに一役買っているように思われました。それから、1970年代の作品には、意識的に1930年代の制作日時を作品に印しているものがありました(理由はわかりませんでしたけれど)。

なお、参考になるサイトを探してみたのですが、強いていえば
    http://www.artcyclopedia.com/artists/de_chirico_giorgio.html
が、一番まとまってキリコの作品を見られるといった程度でしょうか。ただし今回の展覧会に関連した作品は期待できません。ウェブ上の百科事典、Britannica.comも、美術関係の感想文をまとめるときの参考にするのですが、今回のキリコに関しては紹介されている関連サイトがパッとしませんでした。

まだ間に合うぞという方は、じかに会場に足を運んだらいかがでしょうか。
【2001年1月4日】


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