第24回 : 池袋モンパルナス展(練馬区立美術館)

西武池袋線の中村橋で下車し、約3分ほど歩くと練馬区立美術館があります。去る4月29日(土)に始まり、6月11日(日)までを会期として、今回の展覧会が開催されています。観覧料は、一般が500円。休館日が毎週曜日です。
   月曜休館の美術館が多いなかで、ここは違いますから、お間違いのないように・・・

池袋モンパルナスってなんだ?? という方へ。ある本から、少し引用させていただきましょう。
パリのセーヌ左岸、モンパルナス駅からさして遠くないところに、citeシテ あるいは colonieコロニ と呼ばれる芸術家の集落がいくつかあったように、ここ池袋でも、停車場から歩いておよそ二十分の範囲の麦畑や大根畑や、葦や芒がおいしげる湿地に、貸アトリエの集落があった。大きいものだけでその数五つ。
(宇佐美承『池袋モンパルナス』集英社文庫 1995 p.110)
それらは、1930年ころから建てられていきました。パリと池袋をいっしょにする気かと考える方もおいででしょうが、そこは目くじらを立てないでください。いいじゃあないですか!!

さて会場の中ですが、次の5つのブロックに分かれていました。
T  長谷川利行、小熊秀雄
      長谷川はアトリエ街に住むことはなかったが、池袋界隈に頻繁に出没。小熊は「池袋モンパルナスの命名者と紹介されている。
U  熊谷守一、名井万亀、丸木位里、丸木俊、北川民次、野田英夫、春日部たすく、峰村リツ   子、田中佐一郎
      共通項はないが、アトリエ村の住人の中では若干世代が上で、独自の歩みをみせた画家たち
V  福沢一郎、古沢岩美、靉光、松本竣介、糸園和三郎、寺田政明、井上長三郎、大野五郎   、麻生三郎、柿手春三、吉井忠、難波田龍起
      駒込に住む福沢一郎を軸に、アトリエ村に住む画家たち前衛的な絵画を描いたり、シュールレアリズムを主とする美術文化協会に参画したりしていく。
W  小川原脩、真鍋英雄、浜松小源太、和泉美雄、伊藤久三郎、我孫子真人、桑原実、藤田   鶴夫、高松甚ニ郎、斎藤長三、中尾彰、鳥居敏文、斎藤求、佐田勝、槫松正利、浜田知   明、野見山暁治
      アトリエ村住人の若手で、主にシュールレアリズム傾向を示した画家たち。
X  入江比呂、大塚睦、高山良策、山下菊ニ、桂川寛、中村宏
      戦後、左翼芸術運動を視座に置いた新たなリアリズム表現を模索した画家たち。
ひとくちに「池袋モンパルナス」といっても、多くの画家がいて、さまざまなテーマで絵を描き、しかも時代によって傾向も異なることが見てとれる展覧会になっています。私が面白いと思ったのは、戦前の池袋や東長崎(これも西武池袋線の駅にあります)あたりを描いた作品で、たとえば次のような作品があります。
小熊秀雄: 夕陽の立教大学 1935
小熊秀雄: 巣鴨拘置所 1930年代
小熊秀雄: 池袋駅(仮称) 1930年代
春日部たすく: 東長崎付近 1927年3月
春日部たすく: 池袋駅前豊島師範通り 1928年
田中佐一郎: 立教遠望 1926年
田中佐一郎: アトリエ村への径 1935年頃
柿手春三: 滝野川中里雪 1933年
高山良作: 池袋駅東口 1947年
全体から見れば池袋近辺を扱った作品数はごく僅かですが、これらの作品、特に私は春日部作品に趣を感じて、見入ってしまいました。いま、東京芸術劇場の近辺(に豊島師範があったらしいです)を通っても、上の絵画にみられるような風景にはお目にかかれませんし、東長崎近辺にしても然りです。しかも、どこかメルヘンティックなところが、またいいのです。

それと、福沢一郎、古沢岩美、靉光らが登場するVのコーナーは、前衛的なあるいはシュールレアリスティックな作品の一端が見られて興味深いものがありました。時あたかも文化統制の時期にさしかかり、福沢が逮捕されるに至ります。その後、ますます状況は厳しくなったようですが、しかしたとえば井上長三郎の「トリオ」(1943年)など、野外に三人の奏者が相当の距離をとって演奏している、およそ現実的ではない作品があり、気骨を示した作品なのかなと思わせました(あくまでも主観ですけど)。

惜しむらくは、たとえば駒込に住んでいた福沢一郎と池袋周辺のアトリエ村に住んでいた画家たちの結びつきがどうやってできたのか(できていたのか、というほうが正確のようです・・・)といった説明がないことでしょう。先ほどの宇佐美承氏によれば、池袋周辺のアトリエ村の野人たちも、もともとは駒込の谷地に住んでいたそうです。それが貸アトリエができたので、池袋や長崎町に移り住み、福沢邸まで通ったというわけです(『池袋モンパルナス』p.424)。こうした説明がないと、なぜ福沢一郎が池袋モンパルナスの一人として展示されているのか、はじめ私にはわかりませんでした。
解説の多すぎる展覧会も作品そっちのけで文章を読むようになって本末転倒ですし、しかしある程度の情報がないと展示の趣旨が伝わってきづらいような気もしますし。ま、難しいことではありますね。
【2000年5月23日記】


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