第23回 : ラファエル前派展(安田火災東郷青児美術館)

5月13日(土)から7月9日(日)までを会期として「ラファエル前派展」がスタートしました。新宿の安田火災ビル42階にある東郷青児美術館での展覧会です。休館日は毎週月曜で、入館料は一般が1,000円です。

今回の展覧会は、イギリスのマンチェスター市立美術館から借り出した絵画を中心に約90点の油彩が会場に集められました。展示の仕方は、全体を五つの主題に分けて、それぞれに関わる作品を見せてくれました。いいアイデアだ、と思いました。主題を具体的に挙げると、
1.宗教と神話
2.文学と寓意
3.女性と恋
4.風景画 −− 陸と海、都会と田園
5.水と妖精
ただ惜しむらくは、会場の仕切りの関係で順路表示が不充分な箇所があり、2.と3.が見ているうちにごやごちゃになったこと。私の場合で言えば、2.前半 ⇒ 3.前半 ⇒ 2.後半 ⇒ 3.後半という順序で見ちゃいました(もう少し言わせてもらうと、私一人ではなく、何人もだったと思います・・・)。

1848年のこと、イギリスの若い画家たちが、ひとつの同盟を結成しました。その主張は、ルネサンスの画家・ラファエッロの完璧さよりも、それ以前の中世末期からルネサンス初期の自然で素朴な味わいこそ好ましいというもので、「ラファエル前派」と名づけられたといいます。今回の展示を見ると、作品の制作年は19世紀半ば前後よりも、1870年代から1890年代が多いように思われ、さらに20世紀前半に至る広がりを見せています。この種の絵画をまとめて見る機会が少なかった私には、新鮮な驚きでしたね。それだけ、影響力が大きかったということにもつながるのでしょう。

全体的には緻密な細部描写に特徴をもつ作品が並んでいます。そうした絵が好きだという人向きの展覧会といえますね。

印象に残った作品をいくつか挙げておきます。
@アーサー・ヒューズ『オフィーリア』
  タイトルから分かるとおり、シュークスピアの『ハムレット』に取材した絵画です。画面中央にいるオフィーリア  は、ほっそりとして小柄です。周りのグリーンと背景の薄い青とは対照的に衣装もオフィーリア自身も白さが  映えています。1852年の作。
Aダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ『あずまやのある草原』
  背景に草原。中ほどに踊る2人の女性がいます。画面前面に楽器を持った2人の女性がいて、この2人こそ  が主人公なのでしょう。ロセッティって、いつも四角い縦長の、目の大きい女性を描くようですね。今回も然り  です。私には、この2人がホントに無気力に見えます。楽器を持ってはいますが、とても爪弾いているとは思  えません。
Bチャールズ・エドワード・ペルギーニ『読書する少女』
  今回、一番印象に残ったのは、この絵かもしれません。一瞬、明治時代に黒田清輝が描いた『読書』を思い  出しました。黒田の作品はページをめくろうとしている瞬間の、目の動きや口元の表情がなんともいえず、   読書している最中はこうしたことを皆、多かれ少なかれしているのだろうと思わせたものでした。ペルギーニ  の作品は白いドレスに見をまとった少女が、庭のベンチで読書しているといった作品です。全体としては黒  田の作品よりずっとおとなしいにもかかわらず、活字を追っていく視線がとても活き活きしていて記憶に残り  ました。
【2000年5月19日記】


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