第22回 : ルーベンスとその時代展(東京都美術館)

ゴールデンウィーク中のある日、私は上野公園にある東京と美術館へ足を運びました。2000年4月15日(土)から始まった今回の展覧会は、この会場で7月2日(日)までを会期として、長期間にわたって開かれています(入場料は一般 1,250円)。

昨年の2月に、東京・新宿の伊勢丹美術館で「ルーベンスとバロック絵画の巨匠たち展」というのがあり、この時はイギリスのダリッチ美術館所蔵品から作品が借り出され、展示されていました。すでに、その時の具体的な記憶は相当に薄らいでしまいましたが、調べてみると8点のルーベンス作品が展示され、しかもいずれも日本初公開だったようです。意外なことに<ルーベンス>を冠につけた展覧会は比較的少ないらしいのです。

今回は、ウィーン美術アカデミー絵画館が所蔵するルーベンスの作品18点とフランドルおよびオランダの巨匠たちの作品、合計73点が紹介されています。この展覧会の意義はどこにあるのかと考えてみると、第一に、ルーベンスの作品をまとめて展示すること自体にあるといえるでしょう。第二に、全展示作品73点のうち1点だけを除いて、すべて日本初公開だという点にあります。第三に、オールドマスターといわれるこの時代の絵画は暗い色調と思われがちですが、展示する全作品を修復し、鮮やかな色彩に戻してもってきたこと。これらは、すべて展覧会のチラシの裏面に書いてあるのですが(^^ゞ 問題は宣伝文句ではなく、やはり作品の質でしょう。で、その辺の評価となると、私にはちょっと・・・というのが正直なところですm(__)m

今回の展示の構成はシンプルなものでした。
まず、ルーベンスの時代のフランドル絵画が展示されています。次に、オランダ絵画の黄金時代が続きます。これだけです。

フランドル(スペイン領ネーデルラント)は、ほぼ今日のベルギーにあたります。17世紀にはオランダ連邦共和国としてスタートした北ネーデルラントに経済的な覇権をとられてしまいます。この時期のフランドル絵画の最大のスポンサーはカトリック教会でした。展示される作品も、聖書に取材したものや、ギリシャ神話を取り上げたものが多く見られます。ルーベンスの『ポレアスとオレイテュイア』(1615頃)、『三美神』(1620〜24頃)、『十字架を担うキリスト』(1630年代初頭? これはルーベンスおよび工房の作)などが印象に残りました。

オランダ絵画のほうはフランドルと異なり、スペイン領から独立し、しかも宗教の上ではカルヴァン派主導でしたから祭壇画や祈念像が追放されました。こうして画家たちの最大のパトロンだった教会の後ろ盾がなくなってしまうのですが、新興市民層が主たる受容者としてパトロンの座にのし上がって来ます。そして宗教画や神話画などにかわって、平易で親しみやすい風景画、風俗画、静物画などの分野が自立を遂げてゆくさまが見てとれ、フランドル絵画との好対照を示していました。作品を挙げると、ピーテル・コッデ『楽しい集い』(1633)、アドリアーン・ファン・オスターデ『居酒屋で朗読する喜劇役者』(1635頃)、ヤコプ・ファン・ライスダール『池のある森の風景』(1650/51頃)など「ああ、いかにもオランダ絵画だな」と思わせてくれる作品が並んでいました。

余談になりますが、岩波文庫からフロマンタンという人の『オランダ・ベルギー絵画紀行』(上、下 2冊)が出ています。このうち、上巻の2章から8章までが、主としてルーベンス[当該図書では”リュベンス”と訳出されています。おそらく、それが本来の発音に近いのでしょう]を扱っています。読み応えがありますが、今回展示されている作品とは、この図書に触れられた作品に重複はないようで、興味を持って出かけました。18点、ルーベンス(工房も含む)の作品を見てくると、しっかりした構図と美しい色彩の配色、それに生き生きした(と思える)筆づかいなどが伝わってくるようで、満足しました。


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