21回:アンディ・ウォーホル展(ザ・ミュージアム)

アンディ・ウォーホルの作品が渋谷のザ・ミュージアムに来ています。ホセ・ムグラビ・コレクションから243点を借り出し展示しているのですが、この点数は半端ではありません。でも、不思議と疲れませんでしたね。会期5月21日(日)まで、その間無休です(入場料:一般1200円)。

例によって、ほぼ年代順に作品が展示されています。
1950年代の作品は、雑誌の挿絵として書かれたものが多いらしく、今回もその原画と思しき作品が随分ありました。ポートフォリオ『失われた靴を求めて』より、ポートフォリオ『カクテル・アワーの星占い』、絵本『ワイルド・ラズベリー』の原画より、これらはかなりまとまった作品群でした。展示点数が多い割には、さほど疲れずに済んだ原因の一つは、こういった作品が会場にガバッとまとまってあったからでしょう。

1960年代に入ると、「シュリッツ缶ビール」「コカコーラ瓶」「ケロッグ・コーンフレークの箱」など商業と深く結びついたものが展示されていましたし、さらに人物画の創作へと進んでいったようです。写真をもとに、人物にさまざまな色をつけたり、同じ人物のほとんど同じ構図の複数の作品に差異をもうけていったりします。人物の性格や心理が現われてくる絵画作品とは異なります。

1970年代には、『毛沢東』、『ミック・ジャガー』、『ジャンニ・ヴェルサーチ』、『マリリン ― 4つのマリリン(リヴァーサル・シリーズ)』などの人物画ほかが、1980年代の作品では『20世紀のユダヤ人10人の肖像』や膨大な『子どものための絵シリーズ』などが展示されています。

これらの作品の中には、人物画も含めて、美術館という場よりも街中にあったほうが、よりマッチしそうなものが結構見受けられました。そんな時、ふと考えついたのですが、私は美術作品というと無意識的に美術館に展示されるのが似合う、芸術性ゆたかな絵画や彫刻などを意識の中にもっているようです。美術というのは、それだけではないのダ!と言われているような気がしたものです。このことは頭では分かっているつもりでしたが、ウォーホルの作品ばかりを数多く直に見てみると、やはりまだまだだと痛感しました。でも、こればかりは美術と自然に付き合っていく中で変っていくほかないだろうな、と思います。

ジャッキーという作品を見たときに気付いたことも書き留めておきましょう。実は、同名の作品がいくつかあるのですが、確か同じ写真をもとに、背景色を変えたり、ある部分を他と変えたりしたもので、会場の同じ一角に他の作品といっしょに展示されていました。私の眼は、複数のジャクリーン・ケネディの肖像のあいだを行ったり来たりしていました。少し改まった表現で言えば、それらの差異と同一性を探る作業をしていたみたいですね。そして、その作業が終わると、肖像が描かれた人物が見始めた時と比べて、ずっと印象に深く刻み込まれているのです。複数の肖像の間に視線を走らせることは、なにか自然のなりゆきのように行っているわけですが、そうしなければいられない感じもありました。美術館の中だけでなく、普段からこうした作業をさんざんやっているんだろうな、と思った瞬間でした。
【2000年4月13日記】


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