第15回 : ゴッホ展(ザ・ミュージアム)

お知らせ(2005年8月28日) 本ページに挙げた“The Vincent van Gogh Information Gallery”の名称とURLが変更されましたので、関連する箇所のみ記述を現行のものに変更いたします。お知らせくださったDavid Brooks氏(当該サイトの管理者でいらっしゃいます)にお礼申し上げます。〕

去る11月19日(金)から、渋谷のザ・ミュージアムで「ゴッホ展」が始まりました。私は、11月21日(日)、上野の旧東京音楽学校奏楽堂で「作曲家群像」展を見たその足で移動し、見てきました。
会期は2000年1月23日(日)までで、1月1日を除いて休館日なしです(!)。

今回のゴッホ展は、オランダのオッテルローにあるクレラー=ミュラー美術館から70余点が来ています。会場の中は、ゴッホが過ごしたオランダ、パリ、アルル、サン=レミ、オーヴェル=シュル=オワーズと、ほぼ年代順に作品が展示されています。
オランダ時代は暗い色合いが特徴といえるでしょうか。1886年にパリに移ると、まず絵画の色彩が明るくなり、一時印象派の影響すら受けたようです。1888年にはアルルに移ります。見ていくと、このあたりからますます色彩の使い方や構図に自由さが増し、作品の一部に太い縁取りを描いたり、人物画の背景に花柄を入れてみたりといったことなどに気付かされます(こうした工夫がアルルに移ってからのことと言いきれるのかどうかは分かりません。少なくとも今回展示された作品を見た限りでは、そう思いました)。この地でゴーガンと仲違いし、自分の片耳を切り落とすといった事件も起こします。病院のあるサン=レミに移り、病とたたかいながら絵を描き続けます。最後はオーヴェル=シュル=オワーズ。
今回は、こうした色彩や構図、あるいは作品自体の構想の変化がコンパクトにまとめられていて、とてもわかりやすいことが私にとっての収穫でした。

いい具合に、ゴッホの作品をあつめたホームページがみつかりました。
The Vincent van Gogh Gallery
http://www.vggallery.com/
ここには絵画作品を制作した土地ごと(=年代順)に調べることができます。
今回見た印象について、少し具体的に確かめていきましょう。

まずオランダ時代です。印象に残った作品から『機を織る人』『日没』をとります。
http://www.vggallery.com/painting/by_period/nuenen.htm
を開いて出てくる一覧から、
前者は、Weaver, seen from the front, May 1884 (Otterlo, Kroler-Muler Museum)
後者は、Avenue of poplars at sunset, Oct.1884 (Otterlo, Kroler-Muler Museum)
を選びます(一覧は、制作年代順)。
ゴッホは、この時代『機を折る人』に限らず、労働する人間を数多く描いています。『日没』は、寂寥感が画面一杯に感じられる絵で、とても印象に残りました。余談ですが、音声ガイドによれば、中央に"農夫"(または農婦?)がいると言うのですが、私には農夫または農婦と決める理由がよくわかりませんでした。私の知識や常識等が欠けているだけかもしれないのですが、この種のことは、音声ガイドや解説文には時として起こります。

パリ時代に移ります。色彩が明るくなるパリ時代の制作からは、『モンマルトルノの丘』『レストランの内部』をとりましょう。
http://www.vggallery.com/painting/by_period/paris.htm
を開いて出てくる一覧から、
前者は、View of Montmartre with windmills, Autumn 1886 (Otterlo, Kroler-Muler Museum)
後者は、Interior of a restrant, June-July 1887 (Otterlo, Kroler-Muler Museum)
を選びます(一覧は、制作年代順)。
2点ともずいぶん色使いが明るくなっています。殊に『レストランの内部』は単に色彩が明るいというだけでなく、点描法を取り入れるなど、オランダ時代には考えられない新機軸が見うけられます。たった2、3年の時間がこれだけ大きな変化が見られるのですから驚きでした。

アルルに移ると、さらに変化の跡が見出せます。『種まく人』『郵便配達夫ルーラン』を見てみましょう。
http://www.vggallery.com/painting/by_period/arles.htm
を開いて出てくる一覧から、
前者は、The sower, June 1888 (Otterlo, Kroler-Muler Museum)
後者は、Portrait of the Postman Joseph Roulin, April 1889 (Otterlo, Kroler-Muler Museum)
を選びます(一覧は、制作年代順)。
『種まく人』はミレーを下敷きにこそしていますが、太陽や空など、ゴッホ独自の世界が描かれているといえるでしょう。『郵便配達夫ルーラン』の方は、帽子や衣服に黒く太い線で縁取りがしてあり、あれっと思いました。もっと驚いたのは、緑色の背景にいくつもの花模様がちりばめられていることです。平凡な感覚では、こうは描けないでしょうね。見る側も、日常感覚から離れないと絵と対話できないように思いました(ちょっとキザな表現だったでしょうか?)。

ゴッホ・ファンには見逃せない展覧会になりそうですね。
【1999年11月23日記 
2005年8月28日参照ウェブサイトの名称とURLを現行のそれに訂正】


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