第12回 : オルセー美術館展(国立西洋美術館)

1996年に東京都美術館で行なわれた「オルセー美術館展」に行ったときには、19世紀後半の数回にわたるパリ万博を軸に、多くの印象派の絵画が展示されていて記憶に残ったものです。
今年の秋、上野の国立西洋美術館を会場に再び「「オルセー美術館展」が開かれています(会期は12月12日<日>まで)。今回のテーマは"19世紀の夢と現実"。前回と比べてずいぶん趣が異なりました。
約200点の作品が展示されていますが、会場内部は次のとおり5つのセクションに分かれ、さらに小区分がされていました。

Section T.人間と物語(神話|宗教|文学)
Section U.人間と歴史(戦争/共和国)
Section V.人間と現代生活(家族|労働|余暇|都市)
Section W.人間と自然(人体|風景|植物誌、動物誌)
Section X.孤独な人間(憂鬱な監視兵)

会場で配布されたチラシによれば、現実社会の欲望や苦悩から離れて、神話や宗教、文学といった理念的な世界に憧れる人々がいたというのですが、Section T.人間と物語を見る限り、そうした解説と直接結びつくのかどうかわかりませんでした。ただ一点、テーマとは関係なく、ジョルジュ・ロシュグロッス「花の騎士(ワグナー作楽劇『パルジファル』より)」の前で足が止まりました(ちょっと安手に見えましたが)。
Section U.人間と歴史は展示作品が12点と少なく、普仏戦争や共和制を題材にした作品が並びます。なかで異彩を放っているのがギュスターヴ・ドレ「謎」(1871年)でした。
普仏戦争が終わった年の作品のようです。死体の山が描かれています。生き残った人間が画面のほぼ中央にいるスフィンクスに問いかけているような絵なのです。その余韻は奥深いものがあるように思いました。
Section V.人間と現代生活は、都市における産業の発展、ブルジョアと労働者など、私には今回の展覧会の中でもっとも興味をひかれたセクションでした。労働のコーナーは、農業と都市労働の両方がありますが、中でもレオン・フレデリック「労働者の一生」という作品は、ちょっとした見物です。少し飛躍しますが、これからミュージカル『レ・ミゼラブル』に足を運ぼうかなと思っている人などにお奨め。当時の貧しい子どもたちの服装や表情について、あるいは大人の労働者になってからの無気力な表情などについてイマジネーションが少し膨らみます(ただし、絵画を見て、それが歴史の真実だと早とちりするのは避けたいものですね)。家族の肖像を残したり余暇を楽しんだりするブルジョアたちとの対照は、実に鮮やかだと思います。
Section W.人間と自然は、絵画のほかに人体の写真がいくつか展示されていました。なるほど、写真が発明されたのは1839年のことでした。このセクションでもっとも強烈な印象を与えてくれたのは、ゴッホ「星降る夜、アルル」(1888−1889年)。
Section V.孤独な人間では、特に強い感銘を受けた作品はなく、「ふーん、なるほど」という感じで見終わりました。

今回はテーマ自体に漠とした面があるように思われます。ですから、展覧会全体を見終わったときの充実感は、残念ながらいま一つでした。

(~_~)(~_~) この文章で取り上げた作品から、次の2つがインターネットで見られます(~_~)(~_~)

◇ドレ「謎」。下のURLをクリックして、The Enigmaを探してクリックしてください。
http://metalab.unc.edu/wm/paint/auth/dore/
◇ ゴッホ「星降る夜、アルル」。下のURLをクリックして、Starry Night, Arletを探してクリックしてください。
http://www.bc.edu/bc_org/avp/cas/fnart/art/vangogh.html
【1999年10月6日記】


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