南八幡平・葛根田川〜玉川大深沢八瀬沢下降〜大深沢北ノ又沢


1989.8.11〜15 佐々木(単独)

 8月11日(晴れのち曇り) 葛根田川への入渓は、雫石から網張温泉行きの一番バス(7:30発)に乗って滝上分かれで下車し、滝上温泉まで約1時間半歩くのが普通だ。しかし、この一番バスに乗るには前夜発夜行で来なければならない。準備もギリギリまでしていなかったので、東北新幹線の始発(6:00)を利用。雫石からもタクシーを利用してアプローチを一気に省略してしまうことにした。

葛根田川のお函 雫石に着くとちょうどタクシーが1台待っており、ほかの観光客につかまる前に乗ることができた。2日前にすごい雷雨があり葛根田川も増水したそうだが、平水以下に減水してしまっていた。今年の秋田方面は7月中は異常渇水に見舞われていた。地熱発電所を過ぎ、松沢を過ぎたあたりで下ろしてもらう。10時50分。県境方面はガスに包まれているが、青空のもと沢を歩けそうだ。すぐ下流に砂防堰堤が見える。大抵はこのあたりから入渓しているらしい。沢に下り遡行開始。しばらくは単調な河原歩きを、膝までの徒渉をまじえつつ進む。アキトリ(大ベコ)沢を過ぎると岩盤が出てくる。両岸からの枝沢は滝となって注ぎ込み、景観を楽しめる。

 本流が左へ曲がると深い淵が現れて左から越す。再び小滝のある瀞となっているが左から簡単に通過。明るい岩盤まじりの河原を行くと、U字型のお函となる(写真)。ほぼ左岸を通過できる。廊下が終わろうとするあたりで下ってくる釣り師2人と会う。「沢登りですか」「ええ」「気をつけて、上に2人ほどいますよ」。水量の多い大石沢が右岸から合流する。12時40分。良い天場があり、たき火跡があった。本流はぐっと水量が減る。沼の沢の手前で3mほどの滝が現れ、左から難なく越す。中の沢出合で先の釣り師がいっていた2人に出会う。ここにも良い天場がある。

 本流は中の沢より水量が少ないくらい。流れはやや活気が出てきて、小滝、ナメを連ねると穏やかになった。左岸からの二段20m滝を見ると葛根田川大滝二段15mが落ちている。下段は右から登り、上段は右手の傾斜の強い草付からリッジを右に避けて巻く。広河原を過ぎ、深いブナ林の中を進む。滝ノ又沢が右岸から出合う。付近に天場は見あたらなかった。目指す八瀬森からの支流は8mの斜滝で出合う。地図上の滝記号の滝だが変哲のないもので難なく登れる。傾斜が出てきて小滝、急なゴーロと続く。ここまで来るとやや源流の感があり、そろそろ今日の天場が気になる。

 平坦になって蛇行する中、両岸笹ヤブになっていてたき火の跡がありツエルトも張れそうな所を見つける。15時5分。ザックを置き、もっと条件の良い所があるかどうか偵察してみるが、この先は樹林帯で暗いので敬遠する。さっそくフキの葉を敷いてツエルトを張る。カマドをつくり、流木を集める。明るい開放的な感じのするいい場所だ。沢の流れもせせらぎとなってうるさい瀬音がしない。虫もほとんどおらず、たき火も豪勢に燃えた。

 8月12日(晴れ) きっかり6時出発。ラジオの天気予報は曇り一時雨だったが、昨日より青空が広がっている。蛇行する流れをたどるとほどなく八瀬森湿原へ至る沢(沢床低い)と分かれる。五万図で目星をつけていた1040m付近で合流する枝沢に着く。入り口はヤブっぽく八瀬森へ至る本流をそのまま詰めたい気がする。しかし稜線へ最もヤブコギの労力が少ない地形を考えるとこの枝沢が一番良いし、八瀬森への下降もすぐ反対側へ下ればいい。連続する7m、5m滝を越えさらに5m滝を左から巻くと、いよいよ詰めが近くなる。水が涸れ、溝状をたどる。いよいよヤブこぎかと思いきやそのままスッと縦走路に出た。7時15分。笹ヤブをほんのふたかきしただけの絶妙の詰めだった。30分のヤブこぎを覚悟していただけにうれしくなってしまう。

 下降は西へ50mほど登山道を緩く下り、平坦になったあたりから八瀬沢へ。夏の日差しを浴びての沢下りだ。ブナ林の広がる山々の深さを感じながら、今歩いているのはもう秋田の山なんだなあとしみじみ思う。この沢は水がきれいだ。イワナが多く足下から逃げ出していく。岩床が目立つようになり、両岸も迫ってくると、きれいなナメと岩床の連続だ。右岸には小規模な柱状節理が見られる。大釜を持つ二段4m滝は左岸を下り、釜の縁をへつる。続く7m滝は左岸の岩場をクライムダウン。これが地図上の滝らしい。こんな程度かとがっかりもし、これくらいで良かったとホッとする。きれいな二段8m滝は左岸下降も試みたが、無理せず右岸から高巻く。ゴルジュ状はなお続き、5m、3m滝と下ると二段5m滝。左岸からクライムダウン。左岸に高さ300m程の柱状節理を見るとようやく開放的となる。

 右岸の側壁というより斜面がはるか高みから崩壊し、大岩がなお急傾斜にへばりついている。ゴロタ石で埋まった中を冷や冷やしながら下る。いつ落ちてきても不思議でない光景だ。再び岩盤とナメとなりピッチが上がる。樹林帯の左岸から注ぐ滝ノ沢は大きな枝沢だが、確認できないまま通過したようだ。早く大深沢出合に着きたいばかりに黙々と下る。しっかり地図を見ておけば良かった。沢幅が広くなり川原状となる。左の崩壊壁と滝で合流する枝沢を過ぎるとすぐ本流なのだが、下を向いて左岸を歩いていたので大深沢が合流したのを気がつかずそのままさらに下ってしまった。気づいたのは徒渉が深くなったことと、ゴルジュ状になってきたためだった。1カ所左岸を巻く所もあり、その辺で気づくべきだった。20分くらい戻ると左から本流と八瀬沢の二俣だった。11時20分。30分のロスとなる。釣り屋が1人本流から下ってきて全然釣れないとボヤくので八瀬沢はウジャウジャいるよと教えてやった。

大深沢大滝 本流はすぐ淵と小滝が連続する。1カ所ツルツルの右岸に赤いロープがフィックスしてある。15m滝をかける枝沢が右岸から合流、まもなく本流にも10m滝が架かる。左から巻くと岩盤とナメ滝となっている。明るく開けてくると5mの迫力ある滝となり、左の枝沢3m滝から越す。ここから左側に赤土の壁が延々と続く。単調な河原なので時間が長く感じる。わりとイワナが目に付くようになった。

 障子倉沢を過ぎると驚くべき光景が広がっていた。沢が分流して森林の中を流れており、いったい本流はどこへ行ってしまったのかと思いつつ小滝を右から巻いてみてびっくり。左岸いっぱいに幅50mはあろうかという自然湖になっている。左岸の斜面が抜けて土石と倒木で本流をせき止めてしまったのである。おそらく3日ほど前の雷雨の際の出来事だろうか。プールは深く、そのまま左端に沿って上流に向かう。次の大雨でたぶんダムは決壊して鉄砲水となるだろう。

 関東沢出合では、3人の釣り師がいた。ここまで来ると今日のサイト地である三俣も近い。6m滝と12m大滝(写真)を控えているが気は楽だ。その6mくの字滝は、左から落ち口までは登れるが大岩がかぶさっているようにあり、どうしても滝の中に入ることになるが水勢が強く、あっさり諦めて左から巻く。大滝は豪快に沢幅いっぱいに数条になって落ちていた。中央を快適にシャワークライムする。上はそのままナメ滝となって50mほども続いており、1日の終点にふさわしいフィナーレとなって三俣に導かれていく。14時55分、三俣着。全く気持のいいところだ。右岸の天場には3〜4張りのスペースが開かれており、一番沢に近い方にツエルトを張る。岩にもたれかかって谷間の空を眺めていると、うたた寝でもしたくなってしまう。赤トンボが高く低く飛ぶのを目で追い、予定通りここまで来られたことに充実感を感じる。明日以降下り坂の天候だが、ここまで来れば大雨でも大丈夫だ。気が楽になったぶん比較的ぐっすり眠れた。

 8月13日(曇りのち雨) 今日は最後の沢登り。ゴッツイやぶこぎは避けられないので楽しみながら登ることにする。6時25分、三俣の中央にナメとなっている北ノ又沢に入る。数段のナメとなっている。右岸から美しい大スラブ滝が落ち、本流も右から6m滝となっている。左からシャワーをちょっと浴びて直登。続くナメ滝も右から越える。ナメや岩床が断続的に現れる。淵にはイワナの影が濃い。周囲が開けてきて源流の様相となるとガスがかかり始め雨も近いのかと思う。ゴーロの中の石積み8m滝を最後に滝もなくなる。笹と灌木の中を蛇行し、両側から笹が覆い被さる。水流が消えたあと溝をしばらく行ってヤブに入る。

 早めに縦走路に出るようにやや左手上部をめがけてヤブをこぐ。30分も背丈を超えるヤブを格闘しているとウンザリしてくる。登り気味に進んで、ちょっと下り気味にというのを何回か繰り返す。ヤブの背丈が低くなってきたと思ったら登山道に出た。10時10分。15分で源太森(約1600m)との分岐、11時5分、ガスのなか大深岳(1541m)着。小畚山(1465m)へ向かう頃からガスが上がり、展望が出てきた。岩手山や乳頭山方面はモヤッていて良く見えないが、小畚山はいい展望台だ。歩きやすい道を下る。三ツ石山の下りから三ツ石山荘の赤い屋根が見えたので、ゆっくりのんびりと下る。14時15分着。湿原の中に立つ山荘のベランダにハイカーが数人、中には先着者一人がいるのみ。痛んでいるがこぎれいにしてあり感じの良い小屋だ。15時すぎより雷鳴が響き雨となる。コッフェルを出して雨水を溜め、ポリタンいっぱいに補給できた。クマゲラの生息調査に来た人たちが来ていて、クマが指導標を壊した証拠に毛がついていたという。そういいえば乳頭山方面への分岐で見た指導標がかなりの力で折れていたっけ。雨の中、次々に小屋に避難して来る人でいっぱいになった。

 8月14日(雨のち曇り) 霧雨が降っている中、5時45分出発。展望がないので黙々と先を急ぐ。網張分岐の先で、小屋から先行した3人パーティーに追いつく。鬼が城の登りになると風雨が強くなる。晴れていればさぞ快適だろうに。部分的に岩場があるが問題ない。御神坂尾根の分岐から5分も下ると不動小屋だった。11時35分。ガッチリした造りだが寒々としている。岩手山頂上方面は風が強く、明日があるからと思い昼寝をしたりでのんびり過ごす。夕方になって雨が上がり展望が開ける。チャンスとばかり、カメラ片手に小屋を飛び出す。一気に頂上へ駆け登り、ついでにお鉢巡りをして戻る。16時50分、小屋に戻ったら再び雨。これで明日は楽になった。

 8月15日(晴れ) 晴れ上がり穏やかな朝を迎える。岩手山小屋のアルバイトの管理人にバスの時間を教えてもらう。柳沢からのバスは休日のみなので、御神坂へ下山することにする。6時出発。3時間はかかると見ていた御神坂の岩尾根を快調に下り、7時40分、バス停着。バスの発車時間まで1時間以上あるので洗い物や着替えを済ませることができた。

 【コースタイム】 (8/11)松沢先10:50 アキトリ沢出合11:20 大石沢出合12:40 滝ノ又沢出合14:20〜35 B.P15:05〜(8/12)6:00発 稜線7:15〜20 大深沢出合11:20〜45 関東沢出合13:55〜14:10 三俣14:55〜(8/13)6:25発 稜線10:10 大深岳11:05〜10 三ツ石山荘14:15〜(8/14)5:45発 犬倉山8:15 不動小屋11:35〜16:00 岩手山16:20〜30 不動小屋16:50〜(8/15)6:00発 御神坂7:40


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