男の凶暴性はどこからきたか

リチャード・ランガム/デイル・ピーターセン
(山下篤子 訳、三田出版会、1998)

 

暴力や戦争のない平和な社会は、人類の永遠の理想です。

高等動物の中でも同種内で殺し合いをするのは人間だけだ。農耕以前の原始的社会には戦争はなかった。食料が豊富にある孤立した(文明を知らない)社会では、今日でも人々は争いのない平和な暮らしを送っている。組織的暴力は富の蓄積とともに発生した。いや、男が暴力的なのは父権的な宗教の影響である。――人間社会の「暴力」の起源については、このようないくつかのもっともらしい「定説」がありますが、いずれも実証されているわけではなく、誰もがただ何となくそう思っているだけのようです。背景には、文明の発達とともに私たちが凶暴さと残虐さを増してきた(ように思える)ことに対する、罪責感があるのでしょうか。

著者たちは生態学、動物行動学、霊長類学、文化人類学、考古学、地理学、歴史学、社会学(フェミニズム)などさまざまな学問領域の成果を総動員して、これらの「定説」の一つ一つを丁寧に検証し、常識を次々と覆しながら、次第に問題の核心に迫ります。もつれた糸を一本ずつほどいていくその論理にはスキがなく、手に汗握る推理小説のようで、しかも強い説得力があります。そして、明らかにされた暴力の起源は……

ヒト(とくにオス)の凶暴性は、はたして霊長類進化の必然か? 読み進むうちに出口のない絶望感にとらわれそうになりますが、しかし、本書の最後には一条の希望の陽が射しています。ヒントは意外にも、人間を別にすれば最も凶暴な哺乳動物であるチンパンジーの近縁種で、つい最近その存在が知られるようになったボノボ(ピグミーチンパンジー)の社会にありました。彼らの社会にも暴力は存在しますが、彼らはそれを実に巧みなやり方でコントロールしているのです。もっとも、彼ら自身がその方法を考え出したのではなく、偶然の環境条件が彼らにそのようなシステムを選択させたと考えられます。

さて、私たちが彼らに学び、自らの内なる暴力性を克服することはできるのでしょうか。

 

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