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Chapter:1
第4話 ウォームアップ
鈴追(すずおい)林道、ここは長年有名ドライバーを排出した有名な元林道。
昔ラリーをしていたっていうおっちゃんから教わって、ここで一人で練習してた事を思い出す。
未だに荒れた路面は左右設計されていない自然のままのうねりがあるんで、危ないけど良い練習コースとして後輩には教えてきてる。
もちろんうちにとっても大事なコース。むっちゃお久しで走る訳やから、初心に還ることは大事やろ。
そう考えてここを選んだ。
ここなら、うちがまたはじめからやり直すには最適だと思う。
途中に少し広い展望スペースがあって、そこまでは道も広く走りやすいのが特徴。
そこから先が、本当の山場になる、とうちは考える。
本当は棲み分けがあって、展望スペース用駐車場を境に下がグリップ、上がドリフトをやってた。
ま、うちが大学生になる前にはほとんどそんなのもいなくなって、全線使用しての走行が当たり前になってる。
時折見かけるけど、それでもかなり上の方にしか生息していないから、うちには関係ない。
それよりも一般車や。
すれ違いには気をつけな、いくら普通に道幅がある言うてもうねりと傾斜は限界に入ったタイヤでは挙動を制御しきれん。
一応ノーマルタイヤでもそこそこスポーツグレードのタイヤで、ちょうど1tを越えるくらいの軽量の車体に、この足であればほとんど問題はないねんけど。
きゃりきゃり、どのコーナーもタイヤは鳴きっぱなし。
トルコン付きCVTはトヨタのVitsと同じ奴だよー、って営業の人言うてたけど、ハンドルについたバタフライシフトでチェンジしている感じではしゃきっとしてるし、好感度高いんよ。
嫌いじゃない。
そう言えばこのシフトの部品、ロードスターとも共用やった。
ブレーキと同時にかちかちとシフトダウンをたたく。CVTのおかげで7速もあるのが逆にネックやなあ、と思う。
VTECならこのぐらいシフトがあっても悪くないと思う。
このエンジンはむっちゃ高回転を維持せんでええから4ATでもよかった。
小さく小刻みに右、左にタイヤをかきむしって登り切る。
頂上近くまで来ると、舗装が新しくなっていてすうっと広くなる。
ドリフトをやる連中が折り返すのはこのあたり。
もちろん、ここからは道も広いのもあるし、うちは減速して一息つく。
頂上までの短い距離を、流しながら登っていく。
ちょうどクルマも気分もアップを終えたぐらい。
ここからやったら、高天(たかま)スカイラインへ登るか、トンネルをくぐって下りへ入るか。
うちは広く長いこちらも嫌いちゃうけど、トンネルむこうの狭く曲がりくねった下りも好きやねん。
まだこの子では入った事はないから、一度は試しておこうか、と思った時、トンネルがくぐもった低音を反響させた。
うちの背筋がぴくん、と反応する。
これは。たかだか反響音だけでこんなに身体が反応するやなんて、この音はホンダに違いあらへん。
どくん、と心臓が一つ大きく高鳴る。
迷いなくステアリングを切り込んで、真っ暗なトンネルへと車を進める。
離れる。思いがけずうちはアクセルを踏み込み、勢いよく直角に曲がるとそのまま阿良裳峠の高天岳方面下りへとクルマをねじ込んでいった。