雑記帳


イギリスの山を歩いて part3
「ペンキマークがない」と書いた"part2"で触れるべきだったが、まずはイギリスの山には見た限り「鎖・梯子にロープもボルトもない」ということも付け加えておこう。


日本ではとくに有名山岳だと過剰なまでに設置されているこれらがないというのは、ひとつには全ての土地が基本的に私有されており、個人財産の侵害はどんな理由であれ基本的に許容されない文化に理由があると思う。たとえ安全のためといえど、他人の土地に勝手に鎖やら梯子を設置することはできないのだろう。
一方で、以前にも書いたことだが、危険地域への自発的訪問者は危険回避も自己責任でという考え方が国民のコンセンサスにあるに違いない。日本でのように地元の観光協会なり山岳団体が安全対策をほどこすということもないのだろう。そもそも地元の観光協会なり山岳団体なりがあるかどうかもわからないのだが。
とはいえ自然環境に対してまったく何もなされていなわけでもなく、牧草地や湿地帯のなかを通る道筋には踏み跡周辺を保護するために平石が敷かれている(part2の写真参照)。しかし日本でよくみかける木道はない。資源として木より石のほうが豊富にあるからだろう。放牧地のなかを流れる小川にかかる橋もすべて石造りだし、その牧草地を区切るのは最近こそ杭を打って鉄条網を渡しているものもあるが、昔ながらのものは石積みの壁(ドライストーン・ウォール)なのだった。
いずれにせよ、保護されているのは人間ではなく環境のほうだという現況は、イギリス人の自然に対する考え方を表しているようで興味を惹かれるところだ。人間は自分で自分のことをなんとかできるはずだ、という哲学を感じる。


さて、あらためて現地でみかけなかったものを整理すれば、次のようになる。
さらに次のものも目にとまらなかった。
ウィンダミア湖を見晴らすベンチ
ウィンダミア湖を見晴らすベンチ。
西岸中央、Rawlinson Nab付近。
正面から恐ろしく強い風が吹きつけていた。
(Lake Windermere, Lake District)
山中で目立った人工的なものといえば、以下のものくらいだ。
要するにイギリスの山中では、人工的なものが極端に少ない。踏み跡を除けば、日本で慣れきった「心のよりどころ(これにしたがって行けば大丈夫)」がないため、多少なりとも息が詰まるような圧迫感につきまとわれる。砂防ダムや不要に見える護岸工事などは目に入らず清々する心持ちになるが、文字通り「自然のまま」に見える流れが生き物のようでもあり怖い気もする。護岸のまったくされていない湖の脇を通るトレースを歩くときなど、とつぜん増水したらどうなるのだろう、と不安にかられる。しかしこれが本当に自然が身近であるということなのだろう。


しかし当然ながらイギリスのひとたちはこういう環境のなかを平気で歩いたりよじ登ったりしている。歩くのはともかく鎖がほしいところで鎖が無く、ルート表示もないところを自分たちでコースを見きわめながら進んでいく。歩くにしてもぜんたいにかなり速いペースで歩いている。よくも分岐を間違えないものだと感心してしまうが、再訪再々訪しているのか、よほど事前に地図を熟読しているのか、かすかな踏み跡の分岐もみのがさないほど自分たちの国の山に慣れているのか、これらのどれかの組み合わせなのだろう。
さてこのあたりでイギリスの山を歩く人たちについて気づいたことを書くべきなのだろう。しかしそれは、またの機会に。
(つづく)
2003/6/28 記

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