雑記帳


イギリスの山を歩いて part2
前回、イギリスでは見た限り山中に道標も山頂標識もないと書いたが、「ペンキマーク」というものもなかった。


ペンキマーク。日本では、立木や岩に黄色や赤のペンキで●印をつけ、進む方向を指示したり、「キケン」とか書いて進入を禁止したりする。濃いガスの中、くろがね小屋から安達多良山の山頂をめざしたときなど、これのおかげでかなり安心して歩けたものだ。しかし今回イギリスにて似たような状況を歩いたときに、「日本ならこういうところには必ずペンキマークがあるな」と気づいたのだった。どこにもそういうマーキングなどなかったのである。
日本の山歩きに慣れた身としては、道筋がよくわからないところで、意識するにせよしないにせよ、ペンキマークを探そうとしてしまう。または、わかりにくい分岐には必ずそれなりの印がついているはずだ、という日本の山でのみ通用する無意識の信念で歩いていってしまう。しかしそんなものはないので、たとえガイドブックを事前に読んでいたとしても、明瞭な踏み跡があればどこまでもそれに従い、踏み跡がなくなれば途方に暮れる。地図を開く手間を惜しめば、場合によっては道を間違えたり、迷ったりする。
まさに「勝手が違う」というところだ。日本での自分の山行はほとんどが単独行で、他人について行く山歩きをしていないつもりでいたが、じっさいには山道の整備者の指示に従って歩いていたことが多かったらしい。本来なら地図を開いて現在地と歩く方向を確認すべきところを他人任せにしていたのである。これには正直言ってかなり居心地の悪さを感じた。井の中の蛙でいたことがわかったという気分である。
ペナイン・ウェイ、牧草地のなかを行く開始部分
周辺土壌保護の目的もあり、平石が敷かれているルートも多い。
左は、初めての公式長距離フットパス”Footpath”であるペナイン・ウェイのピーク・ディストリクト側における最初の部分。
私有地である牧草地のなかを行く。
(Pennine way, Peak District, Edale)
また、日本の山では立木の枝に付けられたテープ類をよく目にする。探検家気分を味わいたい向きにはじゃまかもしれないが、晴れていてさえも樹林帯の中で道に迷う危険性のある場所では最低限のテープはあったほうがよいと思う。しかしイギリスではついぞ見かけなかった。低いものの木々のない山ばかりで付ける理由もないからだろう。


道標、山頂標識、ペンキマーク、テープ類。日本の山は、じつはよく考えると道しるべだらけだとわかる。なにもイギリスで誰も行かないようなところばかりを選んで歩いてきたのではない。その逆で、だからこそ違いが際だって感じられるのだった。
補足:イギリスの山にもケルンはある。胸から肩くらいの高さのをいくつか、あちこちで見た。しかしなぜそこにケルンがあるのかわからなければ、あまり意味がない。なかにはガイドブックで言及されているものもあり、その意味では存在位置の確認手段になり得ていた。(日本の場合であれば、なにかのモニュメントの場合もあれば、久住山は北千里浜にあるもののように、進行方向を示すものもある。)
つづく
2003/6/14 記

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