J. J. Johnson
(Sony Family Club FCPA 608 ―The Great Jazz Collection― 70年代半ばの編集盤)

Side―A
1. ティー・ポット
2. わが恋はここに
3. ソー・ソリー・プリーズ
4. イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン
5. コミュテイション
Side―B
1. ブルー・トロンボーン
2. ケブ
3. 風と共に去りぬ

いまでこそいろいろなタイプのトロンボーン奏者が、さまざまな編成のレコーディングに参加しているが、40年代の半ば以降の一時期、モダン・トロンボーンといえば、文字通りJ.J.ジョンソンがその代名詞的存在であったし、またそれ以後の30年間も、実質的には彼のプレイが、この分野の最高の指標をであったことには変わりがなかった。今日J.J.ジョンソンの名前が、ともすると過去のものであるかの如き印象を与えるのは、彼自身が第1線で演奏することにさほどの情熱を感じていないらしいことと、ジャズ界のファッションそのものが、いまでは本当の意味でのユニークな個性を要求しなくなって来たからであろう。
トロンボーン奏者としてのJ.J.ジョンソンが、40年代後半のジャズ・シーンに持ち込んできた最大の驚異は、彼が従来のこの楽器の特色であった音色の変化やスラーをかけたフレーズといったものにはほとんど関心を示さず、当時流行のジャズ・スタイルであったビ・バップの複雑なメロディーを淀みのない音色で正確に吹き続けるというところにあった。もちろん、一口で言ってしまえばただそれだけのことになるが、こうした斬新なアプローチは、彼以前のトロンボーン奏者達のテクニックを以ってしては、まったく夢想だに出来なかった革新的なもので、ためにそれ以後長くJ.J.とテクニックとは同義語となって、彼の演奏に対する評価を、善悪両様の意味で支配したのであった。
しかし、その出現の波紋が大きかった割には、40年代に吹込まれたJ.J.ジョンソンの作品は少なく、商業的な見地から見た彼の成功は、54年に結成された同じトロンボーンのカイ・ウィンディングとの双頭コンボJ&Kの好評によって、はじめて確立された。そしてこのコンビは、やがてメジャー・レベルのコロンビアに迎えられて、チームが円満裡に解散したのちも、2人のリーダーは共に自身の名を冠したグループを率いて録音を続けることになったのだが、このLPは、そのころ吹込まれたJ.J.名義の3枚のアルバムの中から、ジャズ・ファンにはすでにお馴染みの佳演8曲を選りすぐったまとめたもので、J.J.ジョンソンという偉大なトロンボーン奏者の、いわば円熟の頂点にあったころの作品集として楽しむことが出来る。
本アルバムに収録された演奏は、すべて57年の1月から5月までのあいだに録音されているが、A面のはじめに収められた3曲は、「ダイヤルJ.J.5」と題するLPからピック・アップされた、当時のレギュラー・グループによるもので、他の5曲は、トミー・フラナガン〜ポール・チェンバース〜マックス・ローチといった、これまた理想のリズム・セクションとの共演によるものである。J.J.ジョンソンが、レギュラー・グループを率いるかたわら、こうした臨時編成のブローイング・セッションを試みることにした真意はわからないが、傘下のドラマーであるエルビン・ジョーンズのプレイとは、また一味違ったクリーンなローチのリズム・ワークに、改めて興趣を覚えたのかも知れない。
だがいずれにせよ、この期のJ.J.ジョンソンの演奏は、J&Kのあとに結成したレギュラー・コンボが、音楽的な面でも編成の上でも、きわめて安定した状態にあっただけに、一際自信に満ちて堂々としており、抜群のテクニックをもって、あらゆる楽想を易々として音にしているといった感が深い。それだけに、あまりにソツがなさ過ぎて、かえって全体の印象を弱めているといった批判が出ないでもないのだが、ヴァーブに吹込まれた「オペラ・ハウスのゲッツとJ.J.」やブルーノートの「ソニー・ロリンズ 第2集」に聞かれるような激情的なJ.J.のプレイを知る者にとっては、そうして理性の勝った演奏も、これまた彼の持っている幅広い表現力の一面として充分に理解することが出来よう。
さて演奏の方だが、1面冒頭の3曲は、レギュラー・クインテットによるものとは言っても、5人のフル・メンバーが顔を揃えるのは1曲目の<ティー・ポット>だけで、あとはひとりずつメンバーが減って、<ソー・ソリー・ブルース>では、ピアノ〜ベース〜ドラムスの編成から成るトリオとなっている。このピアノ・トリオは、57年の夏にJ.J.クインテットがスエーデンに楽旅に出かけた際、該地で「オーバーシーズ」(メトロノーム/プレスティッジ)と題する小傑作を吹込んで、一躍有名になった(特にわが国おいて……)。
上記3曲以外の演奏は、先にも述べたごとく、レコーディングのために特に集められた第1級のミュージシャン同士の組合わせによるもので、9分にわたるJ.J.のオリジナル・ブルース<ブルー・トロンボーン>の快演を筆頭に、融通自在のJ.J.の名人芸が、たっぷりと楽しめる構成になっている。
(校註;文中「選りすぐって」は、原文「送りすぐって」)


→粟村政昭
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