車椅子を壊したのはペーターかクララか?
「ハイジ公式サイト」の掲示板など様々な場所で多くの方々が
「あれ、アニメのハイジを久しぶりにみたけれど、車椅子を壊したのはクララだっけ? たしかペーターが壊したような気がしていたんだけど・・」
という、疑問がよせられることが多いです。
この疑問についてはハイジ大百科様の「FAQ」をごらんいただければ事実としては決着します。
それでも繰り返し、あちらこちらの掲示板に
「確かに『あのアニメのペーター』が壊していたような気がしたなあ」
とよせられることがあります。
実は私もその一人でして、どうも釈然としなかったのですが、少々調べて見ましたら、これにはちょっとした理由があったのです。
まずは原作と高畑ハイジの単純比較です。
原作・・
アルムの山にクララが来てからハイジはクララとばかりいて、一緒に山の牧場へはこなくなってしまいました。
ペーターはつまらなくなってしまいます。そして、車椅子がなくなればクララがフランクフルトへ帰ってしまうだろうと、ふとした思いつきで車イスをガケから落してしまいます。
最初は喜んだペーターでしたが、やがて高価な品物を壊した罪悪感で心配でたまらなくなります。そして・・
アニメ高畑ハイジ(テレビ版)・・
ハイジやおじいさんのはげましで、ようやくクララは自分で立てるようになり、何かにつかまりながら歩くこともできるようになりました。
クララはもう車椅子を使わないと自分でいいだして、おじいさんに道具部屋へしまってもらいます。
しかし一人で歩こうとしたときバランスを失って倒れてしまい、歩くことへの恐怖心がめばえてしまい、車椅子が欲しくなります。
そこで一人で道具部屋へいって自分で車イスを外に出そうとしたとき、誤って斜面の下へ落してしまうのでした。
クララは自分の弱さに泣いてしまい・・
と、まるで違う内容になっています。
その他にも高畑版は、原作を何箇所も大きく変更しています。
そして、どちらのエピソードも、その後の解決は印象深く、重要です。でも詳しい意味は、別の機会に触れたいと思います。
原作はもう変化しようがないです。
テレビアニメも後から手がくわえられていません。
ところがです。
その他ではいろいろ面白い現象がおきています。
まずは右をご覧ください。これは19 74/6(昭和46)のアニメ高畑ハイジが初めてテレビ放映されている最中に出版されたハイジ原作です。
出版は朝日ソノラマ。翻訳 辻真先。イラスト「ZUIYO」とあります。
見てのとおり、高畑ハイジの絵柄を全面的に使用した、テレビとのタイアップ出版です。
(訳者があとがきで『みなさんは、テレビの「ハイジ」を見ていますか。』と呼びかけているのです(^
^))
使用している絵柄は、公式のものばかりですが、実は初期設定、初期キャラクタ用絵柄、キャラクターデザインをした小田部氏に極めて近い絵柄など、さまざまなイラストレーターが書いたものが混在しています。
そして右が、その中のイラストのごく一部分です。
(掲載は非常に心苦しいです。)
服装からわかるとおり、車椅子を壊しているのはペーターです。
この本では、他にも「ハイジと教会へいくおんじ」、「アルムに移住するクラッセン医師」など原作にそったストーリーになっています。
そして別に興味深いのが、落されている車椅子です。
テレビ本編に出てくる車椅子とは違って、素朴な木でつくられたもので、車輪の形などもまったく違います。
(細かいツッコミはまだまだありますがこれ以上ふれません)
出版日付が6月になっていますので、出版業界の慣習により、この本が店頭に並んだのは4月ごろでしょうか?
だとするとこのイラストは、遅くともこの年の初め頃に描かれたはずです。原作と高畑ハイジがどれほど変化するか、まだ未知数の時期だったのではないでしょうか。
それにパイロットフィルムでは、ペーターが車椅子を壊すことにもなっていました。
これは、もともと原作の出版ですから、まだ放映されていない高畑ハイジの内容にそっていないのはあたりまえです。
もしアニメの場面の放送前のこの時点で、クララが車椅子を落していたら、それこそ原作を根拠なく改ざんしたと児童文学界から非難をあびたでしょう。
アニメ高畑ハイジは、その圧倒的な作劇で、原作からの変更点への非難を完封しました。
そして多くのハイジファンを生み出し、その人々が感動したアニメと同じ絵を使用している原作本を手に取るのは当然でしょう。
でも、テレビ放送は一回だけですが、本は何度でも読み返せます。
ハイジが好きになればなるほど、何回でも読まれたでしょう。
そして本の中では、アニメのペーターが「あんなこと」をしているんです。
こうして車イスをだれが壊したか?、混乱する原因になったのではないかと推測しています。
このカンチガイを補強するものもあります。
すべての出版物について調べたわけではありませんが、右の1981/11というかなり後になってから出版された低年齢向けの絵本でも、ペーターがやはり同じ事をしています。
また、テレビシリーズを編集した映画版が1979年に公開されましたが、時間の関係からか、車椅子のエピソードははぶかれています。
さらに1993年に再編集されたビデオ「ハイジとクララ」でも同様です。
アニメの車椅子の場面は、テレビの再放送を見るか、ずっと後になって発売された高価なテレビ版ビデオ以外に見ることはなかったのです。
それからアニメのキャラクターを使用した出版物で「クララが壊した」という取り上げ方をしているのも当然ありますが、確認できた範囲では1996年という遅い時期に、徳間書店から出版された絵本とフィルムコミックでした。
レコードの組曲でも原作にそった構成になっていますし、どうやら長い間、アニメの変更点を原作へ近づけようとする試みがあったようだ。とするのはいいすぎでしょうか?
ちなみにこんなのもあります。
1978年にイタリアで発行されたアニメコミックの一部分で、もう、見てのとおりです。
(ちゃんとブレーキレバーつき)(^ ^;)
イタリアでは放映してすぐにブレイクして高畑版に忠実なコミックがでたようです。
海外でのストーリー変更への反応はどうだったのでしょう?
2003/9/15 |