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*「戸板康二ダイジェスト」制作ノート・更新メモ、2006年4月更新分(046)を当時のまま載せています。リンク切れはご容赦。




#046
最近の購入本のこと(14, April. 2006)


生誕九十年の去年12月14日から4ヶ月、年が明け、季節はめぐり、桜も散って、早くも晩春なのだった。ああ、おまえはなにをして来たのだと、吹き来る風が私に云う……。

さて、この四ヶ月もの間、なにをしていたのかというと、いろいろと本を入手していたのだった。List【戸板康二の仕事・全著書リスト】に新たに以下の書誌を追加。
去年12月の五反田古書展の目録に載っているのをみて気が向いて注文したのが、『芝居名所一幕見』の「東京篇」[*] と「諸国篇」[*] のセット(3000円)。目当ては「東京篇」の方で、すでに持っていた「諸国篇」の方はさる忘年会で引き取っていただいて、めでたしめでたし、だった。

同じ古書展で、『歌舞伎輪講』[*] の初出誌の「クエスト」の揃い(全13冊)が安かったので思わず買ってしまって、思わず買ってしまったあとで、実はずっと買い損ねていた『歌舞伎輪講』をあわてて買いに行ったりも。いままでなんとなく食指が動かなかったのだけど、いざ手にとると、戸板さんによるまえがきがいろいろな意味で読みごたえたっぷりで感激だった。雑誌では「戸板かぶきスクール」というタイトルで連載されていて(まえがきでご本人困惑)、このネーミングがまずは味わい深い。「クエスト」は向坂隆一郎(さきさか・りゅういちろう)が編集していた雑誌。『回想の向坂隆一郎』(向坂隆一郎追悼集編集会、1984.年12月刊)という本を入手して以来、向坂隆一郎と戸板康二の交わりについて興味津々で、いずれ自分なりにまとめたいものだと思っている。『歌舞伎輪講』の本文そのものも読む価値大いにありで、コナー氏の率直すぎる発言にあちこちでクスクスしたり、小泉喜美子の発言がなかなか気持ちよかったり、戸板康二の「大人」ぶりにあらためて惚れ惚れしたりり。戸板康二がまえがきで書くところの「若い俳優の人気がもりあがりつつある時期」だったという昭和歌舞伎の一時代(昭和52年3月より翌年3月まで)があって、その翌年に大病を経験し、単行本はふたたび執筆に脂がのるという頃に刊行されているというその一連の年月、小泉喜美子との交流という点など、なにかと注目点が多いのだったが、一番心に残ったのは、「座談の人としての戸板康二」ということ。なにかと思うところ多々ありなのだった。『歌舞伎輪講』にまつわるあれこれについては、これから少しずつ書きとめていければと思う。

昭和55年初版の『歌舞伎輪講』の帯には、《女流推理作家とイギリス青年をきき手にひらかれた戸板かぶきスクール――そのウィットとユーモアにあふれた語らいのなかにちりばめられた <歌舞伎ちょっといい話> 》とある。奇しくも「歌舞伎ちょっといい話」という言葉がすでに登場しているわけで、戸板康二の『ちょっといい話』が多くの読者を獲得し、当時、「ちょっといい話」がおなじみの言い回しになっていたことを伺わせている。

そして、年が明けて2006年。岩波現代文庫の戸板康二の3冊目、『歌舞伎ちょっといい話』[*] が刊行され、新年早々、大感激。本のつくりとして完璧で、典型的「頬擦り本」、とにかく嬉しくてたまらなかった。このたび岩波現代文庫になったことで、ますます輝きを放ったというか、この書物自体の価値、戸板康二の晩年の円熟に目を見開かされた思い。とても一言では言い尽くせない。この本についてはまたいずれ少しずつ書き足していけたらと思う。岩波文庫といえば、去年夏に三宅周太郎の『文楽の研究』2冊が刊行されて、これもなんともすばらしいことであった。解題や解説が校訂が加わることで本自体の価値が高まり、かつ現代に復刊されることの意義が見えてくるすばらしい仕事ぶり。一連の岩波文庫化に携わるすべての人々の仕事にひたすら敬意を、と思う。わたしもせめてサイトの更新を、とわが身を振り返り、小さくなるばかりなのだった。

『泣きどころ人物誌』[*] は安く売っていたので。『ちょっといい話』シリーズの親本と同じ造本(ソフトカバーでスピン付き)で、坪内祐三著『シブい本』(文藝春秋、1997年)もたぶん同じ造本だったかと思う。この手ざわりの文藝春秋刊行の単行本がかもしだすある種の雰囲気というものが確実に存在するような気がする。一番最近の本だと、松浦寿輝著『散歩のあいまにこんなことを考えていた』(2006年4月刊)になるのかな。

戸板康二の著書を蒐集している過程で、入手困難度がもっとも高いもののひとつかしらと思っていたトクマノベルス版の『グリーン車の子供』[*] がひょいと「日本の古本屋」で売っていて、許容範囲内の価格だったので即注文、即注文したところで勢いにのって、何年も前から「日本の古本屋」に売っているなあと思いつつも深く気にとめていなかった、同じくトクマノベルス版、『松風の記憶』[*] も同時に注文。

そして、数年来の実感として、戸板康二蒐集における意外な難所とかねがね思っていた『歌舞伎人物入門』[*] もある日、ひょいと「日本の古本屋」で売っているのを発見し、これまた即注文。あんまり見ないものだから待ち切れずに演博で一度閲覧したことがあった。見た目は安っぽい新書本で、あまり見ないなあと思っていたのはあっても単に目に入らないからなのかなとも思った。いざ届いて、いざ読んでみると、なかなか読む価値ありで、これまた『歌舞伎輪講』と同じようにいろいろと考えさせられた。これまた、いずれ少しずつ書き留めていければと思う。

「戸板康二ダイジェスト」新年度にあたって、以上、かけあしでここ数カ月の購入本を振り返ってみた。旧年度はサボりっぱなしだった「戸板康二ダイジェスト」であるけれども、平成18年度はコンスタントに更新を重ねることができるだろう、と書いている本人はひとり勝手に確信しているのだった。先月末に東京宝塚劇場で初めて宝塚(『ベルサイユのばら フェルゼンとマリー・アントワネット編』)を観劇して、更新意欲が急に涌いてしまったらしい。宝塚のこともいずれまた書きとめよう。……などと、なにかと後日にまわしてばかりいる時点でさい先はあまりよろしくないような気が。


本日の画像:ステファン人形

ステファン人形

宝塚歌劇『ベルサイユのばら フェルゼンとマリー・アントワネット編』の小道具。「ステファン」という名称は戸板康二による。こちらから無断転載。



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