理数生物授業日誌 6月

6月3日(火) 実習

コイの胚,赤ちゃんの観察

「魚はどうやって黒くなるか」

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今日は授業で動物の組織のまとめをする予定でした。が,昨日突然,生物科のS先生が,家の池からいままさに孵化のピークを迎えている状態のコイの卵を多数持ってきてくれました。顕微鏡で見ると,心臓が動いている様子,体液が流れている様子,色素胞が観察されました。今日は急きょこれを観察することにしました。生まれたばかりの赤ちゃんは,体が透きとおっています。そのため,色素胞が良く見えるのです。

左上は,白いバットの中に入れておいた個体,右上は,黒いビニールで袋おおった水槽に入れておいた個体です。肉眼でも,右の個体がくっきりと黒っぽく見えるのですが,顕微鏡で拡大してみると。色素胞に色素が拡がっている様子が良く見えます。

右下の図はその拡大図。白い個体は,皮膚の表面を顕微鏡の絞りを解放にしてみると,色素の見えない色素胞らしき構造が見えます。(写真にはとれませんでした。)

魚は,色素胞と言う細胞内に,色素顆粒を拡散させ体色を暗くし,色素顆粒を集中させることで体色を明るくします。

「暗いところから取り出した稚魚を見ていると,色素が色素胞内でだんだん小さくなっていく様子がみらレました」(数人のレポートから) よく観察できるようになりました(B:うれし涙)

6月4日(水) 授業

動物の器官系・無性生殖

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*今週は高校総体のため,授業はこれで終わり。

動物の器官系は10に分けられます。だいたい,病院の診療科を思い浮かべれば,それと対応します。

生殖とは,命に限りのある生物が,この世に自らのコピーを残相として行なうものです。生殖には一個体でできる「無性生殖」と,2個体が必要な「優性生殖」があります。そのうち無性生殖にはおもに単細胞生物に見られる「(ニ)分裂」,いびつな分裂である「出芽」,主に植物に見られる「栄養生殖」があります。

「栄養生殖のために作られるヤマノイモのむかご御飯はとてもおいしい」(B)

6月10日(火) 授業

有性生殖

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無性生殖は親が1個体で子ができます。子は親と同じ遺伝子を持ついわゆる「クローン」です。

一方有性生殖とは別々の個体に生じた「配偶子」と呼ばれる細胞が二つ「接合」して一つの「接合子」ができ,それが新しい個体になることです。配偶子に栄養貯蔵性と運動性と言う二型が見られるものを,「卵」「精子」とよび,その接合は「受精」と呼びます。有性生殖によって生じた子は両親の遺伝子を半分ずつ持ちます。それを可能にするのが,先月観察した「減数分裂」です。

「一見雌雄の別のない配偶子の接合にも,ちゃんと性別があるそうです。例えば大腸菌には7つの性があるとか。オス,メス,カマ,ナベ,ヤカン,・・・・?????」(B)

6月12日(水) 授業

減数分裂

「相同染色体はどのようにして正確に別れるのか」

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有性生殖で接合する配偶子は,「減数分裂」によって作られます。「体細胞分裂」とはどこが違うのでしょうか?

減数分裂では将来接合する配偶子を作るのですから,あらかじめ染色体数が半減していなければなりません。しかも,ただ半減ではなく,二本ずつある相同染色体が,正確に一本ずつ一個の配偶子に入らなくてはならないのです。それを可能にするのが,「対合」です。対合は相同染色体が一旦対になることでお互いを確かめているのです。また,対になるための装置により「キアズマ」が生じ,染色体の乗り換えがおこります。これが,遺伝的多様性をもたらし,生物の適応や進化を可能にしているのです。

「3時間,座学(授業)が続くと,目や手を動かしたくなります。ご心配なく,明日は実習」(B)

6月13日(金)実習

植物の無性生殖と有性生殖

「ボルボックスを観察しよう」

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今日は植物の無性生殖と有性生殖に関する観察と言うことでしたが,実は,金津高校のO先生もらったボルボックスが実習教諭F先生の技術で,大量に増殖したので,これを見ることにしました。計画では,シャジクモの造卵器と造性器(写真右上)見る予定でしたが,確かに2週間前はあったのですが,今日は見つかりませんでした。今日はとにかくじっくりと観察して,ていねいなスケッチを心掛けました。

ボルボックス。個々の細胞のべん毛を動かして,クルクルまわっています

これはシャジクモの造卵器(大)と造性器(基部の小)です。(見る予定でした。)

ボルボックスを600倍で観察すると,細胞と細胞が細い糸のようなものでつながっているのが見えました。(もっとはっきり見えます)

「一生懸命見ていたら,酔ったようで気持ち悪くなりました。」(生徒数人),「みんなのスケッチは数歩離れるとうまく見えます。」(B)

6月17日(火)1限目授業

減数分裂によっってもたらされる遺伝的多様性

被子植物の生殖

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前々回の授業で有性生殖で接合する配偶子が減数分裂で作られることを学びました。減数分裂では,両親から受け継いだ遺伝子の乗った染色体がシャッフルされて次の世代をの元になる配偶子を作ります。単にnの二乗ばかりか,染色体の交叉によって,ほぼ無限の多様な遺伝子の組み合わせが次の世代に伝わるのです。これが,多様な環境に生物の生存を可能にし,また,たような生物を生む原動力になりました。

植物は減数分裂によって,花粉四分子と胚のう細胞を作ります。それらの中に配偶子ができるのです。

「普通減数分裂をする細胞には『母』という文字がつきます」(B)

6月17日(火)4限目実習

花粉管の伸びる様子を観察し,のびる速度を測定しよう。

*今日は曜日変更授業で,2時間「理数生物」がありました。

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スライドグラスの上に寒天をしき,その上にムラサキツユクサの花粉を落として,花粉管が伸長する様子と,その伸長速度を測定しました。

花粉の先端が少し膨らみました。
別の花粉です。寒天にまいて約5分後
左の写真を撮ってから約10分後。花粉管はさらに伸びました。

花粉管の伸長速度は10分当たり十数μmから40μmです。柱頭の長さが約1cmですから,受粉してから花粉管が伸びて受精するまでにおよそ半日から,2から3日かかることになります。(生徒の計算より)

「今日の観察では精細胞が良く見えませんでした,と,思ったら,レポートをよんでびっくり,多くの人がちゃんと観察できているじゃないですか。じっくり見たいのは分かったけど,ちゃんと教えてよ。」(B)

6月18日(水) 授業

植物の生殖

「重複受精」

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花粉管が伸びたその先には胚のうがあります。胚のうを守る珠皮にあいた穴,珠孔を見つけた花粉管は,そこから胚のう内に入り,二つの精細胞は卵細胞と,極核とニ箇所で受精をします。このような受精は「重複受精」と言い,被子植物に特有のものです。受精した卵はそのまま発生を開始し,子葉などをつくり,受精した極核は胚乳核となり,そのまま分裂して,胚乳になります。

子葉などの胚ができると,種子は休眠に入ります。種子は,多くの子をあちこちに広げる役割を持つとともに,休眠によって厳しい環境を生き抜くための手段でもあるのです。また,種子をなるべく広く散布するための様々なしくみも持っています。

「キイチゴの種子は動物の消化管を通ったものだけが発芽します。みんなもイチゴを食べたら,イチゴの気持ちになって・・・・。」(B)「お食事中の方失礼しました。」

6月19日(木) 授業

動物の配偶子形成

受精

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卵細胞は卵原細胞が分裂して卵母細胞になり,これが減数分裂して卵になります。ヒトの場合,卵母細胞の減数分裂第1分裂は胎児期に起るのですが,そのあと,短くても十数年,長いと50年もの間分裂を休止します。一方精原細胞は猛烈な勢いで細胞分裂をして増えて,精母細胞になります。精母細胞は引き続き減数分裂をし,四つの精細胞ができ,これが変形して精子になります。

まるでF1カーのような精子が,泳いで卵に到達し,先体の液体で卵の周囲をおおう物質を溶かし,卵の膜に到達します。最初に到達した精子が,受精する権利を得るのです。受精すると受精卵・胚を守るための受精膜が形成されます。

「理数生物とは全く関係ありませんが,1年理数科は,合唱コンクールの予選を見事通過しました。ウレシイ」(B)

6月24日(火)2時間実習

動物の発生の観察

「ニワトリ,ホヤ,アフリカツメガエル,ムラサキウニの初期発生を観察し,比較しよう」

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今日は福井県教育研究所の西出先生に生物実験室に来ていただいて,いろいろな生物の発生に関して実習授業をしていただきました。

はじめにニワトリの発生開始60時間後の胚を観察しました。卵殻を慎重にはずし,膜をやぶると,血管が卵黄の表面に拡がり,中心で心臓が動く様子が観察できました。

次にユウレイボヤのを観察し解体して卵巣と精巣から卵と精子を取り出しました。受精させるとやがて極体が放出されます。うまく観察できた人は少なかったようです。

アフリカツメガエルとウニは時間がなくて成体を観察するだけになりました。

西出先生の出張授業

卵殻を慎重にやぶります。

心臓が動いていました

ホヤを解体しました

ピンセットの右上の白い線が精巣です。


10日後ふ卵期の中で胚は生きていました。画像はこちら▼

坂東自身はじめての観察で,写真を撮るのを忘れてしまいました。

▼坂東が行なったユウレイボヤの発生の観察の記録はこちら

「西出先生ありがとうございました。理数科のためにけさ5時から海にもぐってきたとのこと,くれぐれも風邪などおひきにならないよう。」(B)

6月25日(水)1時限,実習

ムラサキウニの発生の観察

「受精するとどんな変化が起るか?」

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昨日西出先生がとってきたムラサキウニをいただき,今日は放卵放精,受精,卵割を観察するつもりでした。口器を取り除いた所に,KCl溶液を注射すると,見る見る卵・精子が出てきました。未受精卵を観察した後,精子を入れてやると,右の写真のように,たくさんの精子が運動しながら卵のまわりに集まります。

が,しかし,ついに受精卵を観察することはできませんでした。やはり,ムラサキウニにはまだ時期が早かったのでしょうか。卵が未成熟だったようです。

「他人がとった生物を利用しようなどと言う横着な考えが,こんな結果をもたらすことが痛いほど分かりました。試験がすんだら,私が海に行って新鮮なウニをとってきます。」(B)

6月25日(水)2時限,授業

ウニの発生

今日観察できるはずだった,ウニの初期発生

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ウニは,棘皮動物と言うグループに属し,我々脊椎を持つ動物と比較的近い関係にある生物です。卵は大きく,透明で,観察しやすいので,発生の過程やしくみを知る研究に,大変良く使われてきました。

ウニ卵は受精すること,受精膜が観察されます。受精膜に包まれて,2,4,8と細胞は増えます。やがて桑実胚期をを経て,胞胚腔と呼ばれる空所が発達した胞胚期になり,受精膜をやぶってふ化し,泳ぎ出します。でも,まだ,体が完成したわけではありません。

「本物を見てから,授業をしたかったなあ...。」(B)

6月27日(金)授業

ウニの発生,カエルの発生

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ウニは胞胚期の後,原口の陥入,原腸の形成が見られる原腸胚期に入ります。その後,プリズム期を経て,原腸の一端(原口の反対側)に口が開き,プルテウス幼生となります。

カエルは,ウニと同様,胞胚期を経て原腸胚期に原口が貫入しますが,その位置は,卵黄をさけて植物極の側面になります。

ウニもカエルも原腸胚期に3つの胚葉の分化が起ります。

「幼生から成体への変化を『変態』と言います。ヒトの場合,幼生期はありませんから『変態』という言葉は別の意味で使われます。」(B)

6月30日(月)授業

カエルの発生,器官形成

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カエルは,原腸胚期に3胚葉に分化した後,外胚葉から神経管が生じる神経胚期になります。この時期には,原腸が,内胚葉で包まれて腸管となり,中胚葉も3つの部分に別れます。その一つは「脊索」で幼生になる頃にはなくなってしまいますが,ホヤなどの原索動物と,脊椎動物だけがこれを持ちます。その点から,原索動物と脊椎動物は,現在の動物の分類では,我々ほ乳類も含め「脊索動物門」に分類されます。

脊椎動物の器官は,外胚葉から表皮と神経感覚器など体の表面,内胚葉からは消化器と呼吸器と言った,体の内面の外側,中胚葉からは外胚葉と内胚葉に挟まれた部分の多くが分化します。

「試験範囲終わり。今週は実習はありません。」(B)「えーーーーーっ」(生徒)


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