☆ ピエロ
3人のピエロは思い思いの方を向いて、ふかぶかとおじぎをしました。でも、ひとりは背中のつっぱりが邪魔になっているのでうまく身体をまげられず、ななめを向いておじぎをしています。おじぎをし終わった一人が入り口の幕のところにおいてある荷物を持ち上げ、まわりを見回してまん中のあたりに持っていこうとしました。急いで行こうとして、まだおじぎをしている一人にぶつかっってしまいました。ぶつかられた方は3回転して起き上がり、指をつきつけておこっています。ぶつかった方はぺこぺこ頭を下げるのですが、そのたびに持っている荷物を落としてしまいます。荷物はどうやら木の板のようです。怒っていたほうがいっしょに拾ってあげていると、残りのひとりもようやくおじぎが終わってかけよってきました。と、ゆかの何かにつまづいてぶつかってしまい、せっかく拾い終わりかけていた板がまたばらまかれてしまいました。
3人は拾いながら後ずさり、またおしりをぶつけてころがってしまいます。うまくいかないのに愉快なのは、3人とも失敗してもぜんぜん気にしていないからです。3人は慎重に確認し合って、ひとりずつひろい集め始めました。ようやく板がぜんぶ集まって、まん中に積み上げられます。
ひとりが板を立てて、もうひとりが横に当て木をしてみます。うまく組み合わさって、手をはなしても立ったままになっています。3人はお互いに顔を見合い、拍手をしあいました。もちろん、子供たちも大喜びで手をたたいています。一人がささえて、もう一人が次の板を立て、また次の板を立てる。あきれるほどの速さで木の板が組みあがっていきます。子供たちは感心して見つめています。みるみる見えてくる形によると、どうやら四角い箱ができあがるようです。
ひとりだけ組み立てに入れなくて、つまらなそうにしているピエロが板を一枚持って遊び始めました。板を投げ上げて受けとめています。さらに高く投げ上げて、受けとめます。それから板を両手で持ち、しゃがみこんで、ためにためて飛び上がりながら投げ上げました。その板は高い高いテントの上にあたりそうなほど飛んで、それから落ちてきました。子供たちは一生懸命板を組み上げている二人にあたる、と首をすくめましたが、落ちてきた板は投げあげたピエロの手の中に吸い込まれるように落ちてきました。テント中にほうっというため息が満ちます。
板を受け止めたピエロは得意そうに板をひらひらと振り回しました。と、板がピエロの肩にあたり、ぽうんとはねて最後の一枚をはめ込もうとしていたもう一人の頭に当たりました。そのピエロはぴんと伸びたかと思うとそのまま倒れ、完成しかかっていた箱はみごとにバラバラになってしまいました。みんなは「あー」という残念そうな声をあげました。板を飛ばしたピエロはしばらく固まって二人の様子を見ていましたが、はっと飛び上がってあわてて二人のところにかけよりました。
ぺこぺこと頭を下げるひとりに、ほかの二人は気にするなというように手をふります。そして腕をくんで考え始めました。ひとりが腕をふりました。何か思いついたようです。箱のそこの部分を組み立て始めました。残りの二人は首をかしげたり、両手をあげてわからないという様子です。底の部分がまたたく間に組みあがりました。そしてその出来あがった底の部分を自分の頭の上にのせたのです。
それを見たひとりはぽんと手をたたき、もうひとりは自分の頭をたたきました。そしてあぐらをかいて座りこんだピエロの頭の上の底に、板をどんどん組みあげはじめました。頭の上にはみるみる箱の形ができあがっていきます。組み上げ中のひとりが大きなくしゃみをしますが、頭をそらしてこわれないようにしています。もうひとりが足をすべらせると、大きくからだを動かしてよけています。こんどはうまくいきそうです。
その時、らくだが幕の向こうからしずしずと出てきました。背中にはとてもきれいなおねえさんが乗っています。らくだは舞台のまわりをゆっくりと回ります。ちょうど3人の正面にきたときに、おねえさんは3人に東洋風のおじぎをしました。3人はつられておじぎを返します。と、頭の上から箱が滑り落ちて、やっぱりバラバラにこわれてしまいました
おねえさんはらくだから降りて、3人のようすを見にきました。どうやらお詫びをしているようです。3人はいっせいに左手をふり、気にするなといっているようです。そしていっせいに腕をくみ、左に頭をかしげました。考えているようです。そして今度はいっせいに手をぽんとたたき、また底の部分を組み上げ始めました。組み立てはさらに早くなり、手の動きが見えないほどです。あっという間に組みあがった底を下に置き、おねえさんにそこに立てとうながしました。
おねえさんは底の上に立ちます。おねえさんをそこに立たせたまま、3人はまたすごい勢いで組み立て始めました。ひとりがとんとんと箱をたたいてみましたが、大丈夫です。もうひとりがくしゃみをして頭をぶつけましたが、箱はぜんぜん大丈夫。でも、ぶつけたひとりはかなり痛そうです。別のひとりがすべって箱にぶつかりましたが、お姉さんが入っているので箱は動きません。今度はどうやら大丈夫のようです。箱はついに組みあがりました。そしておねえさんを箱の中に座らせて、背中が変に突っ張っていた一人が、服の中から枠のようなものを引っぱり出しました。そして、それを箱の上からがぽっとかぶせました。これがふたのようです。
3人はそれぞれ箱をけとばしたり、たたいたりしましたが、手や足が痛くなるだけで箱はもうバラバラになることはありません。3人はぜんぶの手を使ってがっちりと握手をしました。そして箱に足をかけ、思い切りけとばすと、箱はすべって幕の中に消えて行きました。
「あれ?」
「おねえさんは?」
二人は意気ようようと手を振りながら幕の中に入っていきました。残った一人はしばらく腕をくんで考えていましたが、やがて自分の頭をぽんとたたいて、おねえさんが乗ってきたらくだの口ひもをひいて、いっしょに幕の中に入って行きました。
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