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夜、おとうさんとおかあさんが寝てしまったあとに、目がさめてしまうことがあります。うちの中も、外も、なんの音も聞こえません。まっくらなのに、へやのようすがぼんやりと見えます。でも、昼間とぜんぜん違って見えるのです。すこし怖いので、ふとんに深くもぐりこんで、また寝ようとおもいます。そんなときです。夜のカーニバルが、あなたをまねくのは... 「い、お、り、くーん。い、お、り、くーん」 とおい遠いどこかで、伊織を呼ぶ声が聞こえます。伊織ははっとして、眠ろうとして閉じていた目をあけました。 「はやくおいでよ。いおりくーん。」 また声がきこえます。 《いかなくちゃ》 伊織はねどこからおきあがって、おとうさんとおかあさんを起こさないようにそっと部屋を出ました。うちじゅうまっくらなのに、伊織は怖いなんて少しも思わずに、ひとりで1階におりていきました。電気をつけるとみんな起きてしまうので、電気もつけないでです。伊織は服をきがえて、いちばん早く走れるくつをはいて、音を立てないように、そっと玄関から外に出ました。 外はやっぱり、なんの音もしません。ポツンポツンと街灯がついていますが、夜があまり深いので、街灯のまわりが明るくなっているだけです。それどころか、街灯がついているために、そのまわりの闇はいっそう深くなっているように見えます。 「い、お、り、くーん」 声が聞こえます。伊織は山のほうの空が白くひかっているのを見つけました。伊織は走りだしました。光のほうにまっすぐ進み、左にまがって、まっすぐ走り、右にまがってすぐまた左にまがり、光のほうに走ります。 《あれ?ここは幼稚園に行く道だぞ?》 あたりは夜の闇のために、昼間とぜんぜん違う場所にしか見えません。でも、たしかにこの道は、幼稚園に行くときにとおる道です。伊織は白い光のほうにどんどん走っていきます。夜の、まっくらな道なのに、ぜんぜんこわくありません。伊織はどんどん、どんどん走っていきます。 そして、また角をまがると、空地に大きなテントが張られています。ときどきひるがえるテントのすそから、こどもたちの声が聞こえます。おおぜいこどもたちが集まっているようです。伊織は、入口の布をくぐって中に入りました。 テントの中は光の洪水のようです。伊織はまぶしくて、手を前にかざしました。まわりをみわたすと、やっぱりこどもばかりです。おとなはひとりもいません。こんなに大きなカーニバルなのに、こども以外はぜんぜん来ていないようなのです。まだあまりことばもしゃべれないような小さい子や、伊織よりも大きい、学校に行っているような子もいます。なんでこんな小さい子が、おとうさんやおかあさんといっしょでなくいるのでしょう。伊織はふしぎな気持ちがしました。 いっぱいかと思ったテントの中は、よく見るとうしろのほうが空いています。そのあたりは少し薄暗く、さみしい感じなので、伊織はなるべくそちらを見ないことにしました。幼稚園で知っている子がいるかもしれないと思ってさがしてみましたが、知っている子はみあたりません。こまっていると、前のほうの席で、手をあげて合図している子がいます。男の子と女の子がならんで伊織のほうをふりかえっているのです。伊織はそのふたりを見たとき、どこかであったことがあると思いました。 ふたりのそばにいくと、ふたりはあいだを空けて伊織のすわれる場所をつくってくれました。ちかくでみると、やっぱりふたりともどこかで会ったことがあります。でも、どうしても思い出せないのです。 「いおりくん、だよね。」 男の子がいいました。 「うん。でもどうして知ってるの?」 伊織がたずねると、男の子はそれにはこたえず、ひっそりと笑いました。 「もうすぐはじまるわよ。」 女の子がいいました。そのとおり、電気がきえて、まっくらになったかとおもうと、まんなかの舞台にひかりがあたり、すらりと背の高い男の人がたちました。 「本日は、当カーニバルにおいでいただき、まことにありがとうございます。きょう、はじめてお見えのお客様も、いっぱいお出でいただいているようです。団員一同、いっしょうけんめい演じますので、どうぞ、最後までごゆっくりごらんください。」 男の人がひっこみ、いれかわりに一輪車にのった、きらきら光るきれいな服をきた女の人が何人もでてきました。女の人たちは、一輪車にのったまま、舞台の上をくるくるまわったり、後ろ向きにはしりまわったりしました。こどもたちは大喜びです。そして、さいごは細い板の上を一輪車にのったまま渡ってみせました。こどもたちの拍手が鳴りやまないうちに、手をふりながら、女の人たちは、一輪車にのったまま、舞台の向うがわの幕の中に入っていきました。 |
続きます... |
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