おじさんたちの道東旅日記

二月十四日(日) 旅のフィナーレ 国後の夜明け

 四日という短い日程で望んだ今回の旅も、あっという間に最終日の朝を迎えてしまった。
午前五時、トイレに起きたついでに淡い期待をもちながら、防寒具も着ないまま外に出てみた。

 何という光景だ! 前日は沖合にあった流氷が、足下の海岸にまでびっしり押し寄せている。頭上には星が輝き、対岸の東の空は赤く染まり始め、国後の島影が黒いシルエットをつくっている。さらに、伊藤さんがコッタロの展望台で見たという「暁の三日月」が端正な光で全景のアクセントとなっている。夢に見た国後の黎明だ。
 眠気は一気にすっとんだ。急いで部屋に戻り、身支度を整え、カメラ一式を抱えて再び外に出た。またとない圧倒的な光景を前に、レンズの選択、構図、絞り、シャッタースピード、乏しい知識をフル稼働して、何としてもフィルムに定着させたいと、テンションを上げる。氷点下一〇度を下回る環境では、私の機材の測光は必ずしもあてにならない。シャッターが切れないことを想定して調達した機械式カメラも測光用の電池切れで露出時間は感に頼るしかない。何段階もの露出を試み、そのうちの一カットさえうまく写っていればと願うだけだ。
 国後の空は次第に明るさを増し、厳冬の澄み切った冷気の中で黄金に輝く太陽が顔を出した。暁の空を映していた流氷の海も、その黄金の光を反射させて輝き出す。その上をゴメたちが啼きながら飛び交う。

夜明けのドラマが展開された一時間あまりの時間は、あっという間に過ぎた。意識の中では本当に僅かな時間だ。ただ、撮影中はわからなっかたが、手袋もしないで冷気にさらしていた指先は、その後、相当長い時間しびれが残った。

真っ青な空と純白の氷海を背に、後ろ髪を引かれるような思で羅臼をあとにした。僅か四日間、伊藤さんは六日間の旅であったが、今回もまた、密度の濃い贅を尽くした道東紀行となった。

中標津空港を離陸した飛行機は、まもなく広大な屈斜路湖と神秘の摩周湖に見送られて羽田へと向かった。


2月10日(水)2月12日(金)2月13日(土)|2月14日(日)|

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