二月十三日(土) 朝の港 羅臼二日目は、港の出港の様子を見に行った。午前六時、曇天のためまだ暗い。だが、港の中は、漁船の漁り火で眩しいくらいだ。私たちは港のすぐ上にある潮風公園で、「海鮮らうす」のとうさんの船「春栄丸」もこの中にいるんだろうなと思いながら、活気に満ちた出港の様子をしばらくの間眺めていた。このとき、誰もが、その後の幸運な展開を予感してはいなかった。 港の近くにの海岸では、明るくなるとともにワシたちの活動も活発になり、海へ向かって勇壮に飛翔する姿をいくつも仰ぎ見ることができた。中には、既に"漁"を終え、高い木の上で朝食を摂っている者もいた。思いがけない誘い 宿に戻り、これまたおいしい朝食をいただくことになる。「いただきまーす」体を動かした後は健康的な空腹感が元気よい声を誘発する。高齢の伊藤さん(あくまで、比較・相対的に)の食べ振りが一番いい。昨夜温泉に入り、旨いものを食べ、ゆっくり休んだので、体調もすぐれているのだろう。 そんな雰囲気の中で食事が進んでいるとき、かあさんからの思わぬ一言。「先生たち、船乗る?」「・・・・・・!?」 みな、呆気にとられ、箸が止まる。「とうさんから連絡あってさ、氷で仕事にならねんだと。もし、乗るんだったら、乗っけてあげるよだってさ」 今日は、朝食を済ませたら、ルサ川沿いでクロカンをやる計画でいた。予期せぬ展開に一時頭が混乱するが、漁船に乗って流氷の中を分け入ることなど滅多にできない。願ってもないチャンスだ。二年前、臼井さんたちは「春栄丸」に乗船して、助宗漁の迫力とそれを追うオオワシ・オジロワシの本来の姿を見ている。今回は遊魚船としてだが、昨年の「まるみ」の観光船とは比べものにならないダイナミックな光景が期待できる。決断にたいした時間は要しなかった。 平野君が早速福田君に連絡する。彼と立川さんは標津で朝を迎えており、すぐにこちらに向かうという。彼らの到着を待っている間、コーヒータイムということになったが、臼井さんは、船に乗れば用足しができないからと言って好きなコーヒーを飲もうとしない。相当に気合いが入っているのだ。 「春栄丸」は羅臼港ではなく、近くの港で待っていてくれた。私にとっては初めての漁船乗船だ。漁の装備と魚の臭いが気分を高揚させる。流氷の周辺にいて箱ごと餌をばらまいてワシたちを引き寄せる観光船と違い、「春栄丸」は、こちらから氷の中に分け入り、彼らに接近することができる。既に満腹状態の彼らの姿は、プロの写真家の目からすれば被写体として必ずしも充分ではないかもしれない。だが、私たちアマチュアにとっては、ばらまかれた餌で汚されていない流氷の上で哲学者を気取るオジロワシや、それに対抗して氷上の王者は自分だと言い張るように背伸びをしてみせるオオワシの姿を存分に楽しむことができた。「おーい、終わりだー。仕事に切り替える」とうさんの声。網を仕掛けてあった場所が開けたのだろう。船は氷から離れると一気に港へ引き返した。港で私たちを降ろすと、待機していた乗組員が入れ替えに乗船し、再び仕事場を目指して港を出ていった。 今夜の晩餐の食卓を飾るであろう「たち」が捕れますようにと祈った。 ルサ川を遡る
「海鮮らうす」での昼食の定番は、みそラーメンだ。大きなすり鉢のような丼に具だくさんに盛られたボリュームには圧倒される。もちろん、味は満点。三日連続のラーメンとなったが、やはり、ここが一番だ。 うまいもの大賞の「たち」 前日の湯は「らうす第一ホテル」だったので、今日は「峰」で一日の疲れを癒すことにした。改装されたということで、気持ちのいい檜の露天風呂を楽しんだ。あがるころには、湯気の間から星も瞬き始め、密かに明朝の夜明けに期待をもった。
宿に戻ると、滝川から来ているという写真家の方がいて、一緒に盛大な晩餐となった。
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