トラック買取 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!

神様、お願いっ!<2011半月遅れバレンタインデー小説>


「寒ぅぅぅううういっっ!!」

 思わず言ってしまった。いや、2月をなめちゃダメよね。本当に寒いんだけど!!

「なんか悪かったな、親父があれこれ」

 歩き出すと、隣の宮司が何だか申し訳無さそうに、いや、めんどくさそうに言った。

「え? あぁ……気にしてないけど。でもホントに昔からおじさんって私と宮司でどうにかなって欲しいんだねぇ」
「気にしてないって、お前……」

 あ、これはちょっと言わない方が良かったかも。だ、黙られたらどうしよう。気まずい。いやいや、いろいろあって大変だったのは私……って、あれ、待てよ? 二股は嘘だって言ってたっけな。えーっと、つまりは……どういうコトだ?

「……俺も」
「は?」
「俺も……どうにかなろうと思ってんですけどねぇ。わかってる?」

 え? え……っ、えぇぇぇぇええええええええ!!!??? そう来る? 宮司、そう来たか!
 えーっと、待て待て。ま、前に付き合うことになった時だって、何かもうちょっと逃げ場があったような。何? 何なのこの突然のエマージェンシー・コールは! きっ、緊急事態の大発生だわ!!

「ひ、開き直ったな」
「開き直ったっつーか……何つーんかなぁ。うちのバカ親父にしろ、お前んとこに来るおっさんにしろ、こっちのコトなんておかまいなしに勝手な事ばっか言うし」
「勝手なコト?」
「っそ。何? 俺そんなモノ欲しそうに見えんの!?」
「はあ? 何の話よ。普通じゃないの?」
「納得。お前がそんなんだから、俺、気の毒がられてんだわ」

 なんで? なんでこんな展開になっちゃったの? 普通にこれ、告られてるわよねぇ……あれぇ?

「そういやさ……あのおっさん、神様なんだろ?」
「ふぇええっ?」

 どっ、動揺が隠し切れんかった! いや、話があっちこっちに飛ぶせいもあって、こっちのメーターの振れ幅もハンパなくってついていききれないっていうか。宮司、なぜ今こんな話題だ!?

「……あのさぁ、この際聞くけど。お前、おっさんにどうして欲しいわけ?」
「え……」
「いや、だからさ、漠然と『今の状況をどうにかしろ』って言われて、お前できる?」

 なんだか説教じみてきたが、とりあえずちゃんと返事をしよう。私は首を横に振った。

「だろ? で、おっさんにどうして欲しいんかなぁって思ったわけ」
「えっと……」
「ん?」
「うん……その、わかるよ。だから、おっさんは私にちゃんと溺れろって言ったんだと思う」
「溺れる? 何それ!?」

 私は1年前、初詣の時におっさんに言われたあれこれを宮司に伝えた。ってか私は何を素直にいろいろ教えてんだか……でもまぁ、いいか。宮司相手にかっこつけても仕方ない。
 宮司は時々頷きながら黙って聞いてくれた。話終わった後はなんか考え込んだみたいにさらに黙っちゃって、なんだろって思ってたらまた舌打ち。これってクセなのかな。あんまり良くないなぁ……今度やったら文句言ってやろう。そんな事考えながら宮司の方を見てたら、いきなり立ち止まってこっち見た。なっ、何!?

「なんだよ……すげぇわかってんじゃん、あのジジイ。なんかムカつくな」
「は?」
「で?」
「で、って……何が?」

 腰に手をあてて、宮司ががっくりと肩を落とす。

「だからさ、おっさんが言ってた事だよ。今はどういう事だかわかったの?」
「うっ。ま、まぁ……少しはわかったような?」
「ふ〜ん……まぁ、いいけど」

 宮司はふっと小さく笑って、そしてまた歩き始めた。アパートはもうすぐそこ。帰ったらすぐお風呂わかして、暖房! あ、灯油まだあったかなぁ。エアコンだと電気代跳ね上がるんだよねぇ。
 あれっきり宮司は何も言わないから、私も何だか話しかけづらくって……。話題をあれこれ探しているうちにアパートの前に着いちゃった。

「送ってくれてありがとね」
「うん」
「じゃ……」

 そう言って、階段を上ろうとした私の腕を宮司がいきなり掴んで引き止めた。ちょ……っ。何? 今日の宮司はいったい何なの!?

「何ナチュラルに帰ろうとしてんの」
「え? だってうち着いたじゃない! 何、何かあんの?」

 あらららららら。宮司、ムッとしてますよ? ちょっと、私何か不手際ありました?
 掴まれた腕が妙に熱い。カンベンしてよ、こういうの!

「ほれ」

 宮司は腕を掴んだまま、もう一方の手をすっと伸ばしてこっちをまっすぐに見つめてきた。えっと……お、おひかえなすってのポーズ……ではないわよね。ないないないない、何テンパッてんの私。いやでもこりゃいったいどーしたもんなの???

「義理チョコもくんねーの?」
「はい?」

 なんですと!? 驚いたように宮司を見てると、ちょっと拗ねたような顔して手をこっちに突き出して、ほれほれっと言わんばかりに催促しまくっていやがりますよ? うわー、義理チョコかぁ……まいったなぁ。いろいろ考えた末にやめたんだけどな。ここはごまかしていいところ? ちゃんと言うべき?

「えぇ〜っと……」
「え? マジで何もねぇの?」

 なんてな事を言ってるけど、なんかあのカンジだと別に期待してたのにもらえないとか、そういうんじゃなさそっぽい。

「ないわよ」

 さて、どうする? 宮司!?

「……なんで?」

 ……え?

「なんで義理チョコすらくんねーの? あんなもん、挨拶まわりの粗品みてぇなもんだろ?」

 き、切り替えされた。っつーか何なのよ、もう……こっちはこっちで、あぁくそっ。なんか腹立ってきた!

「だからでしょ」
「はあ?」
「私がコレ言うのもどうかと思うけど、まぁいいわ。今までの話を全部ひっくるめて考えると……あんた、私のコト好きなんじゃないの?」
「……だったらなんだよ」
「自分のコトを好きだって思ってる人間に、義理チョコ平気で渡すような無神経なマネしろっての?」
「え……」

 あぁもう言っちゃったよ。っつか言わせんなよ、バカ宮司!!
 っつってもなぁ……確かに以前の私だったら、何も考えないでやったかもなぁ。って考えると、ここで私が怒ってるのもなんかオカシイか。だけど宮司がホントにそう思ってくれてんだったらさ、なんかヒドイじゃない。いや、でも何も渡さないっていうのも、絶対見込みなしってことになるのか……って、え?
 あれ、何!? まるでちょっとは可能性があるようなこの思考の展開っぷりはどうしたの、私??? でも実際、私の事を想っててくれてたんだなぁって、わかってみれば思い当たる節がさ……いっぱい思い浮かんでくるじゃない。そしたら何ていうか、わ、悪い気はしないじゃない!?

「そっか……」

 何を納得したんだか、宮司は急に穏やかな顔をしてこっちを向いた。

「え、何?」
「いや、今度はちゃんと考えてくれたんだなぁっとか、思って」
「今度は? どゆこと?」

 聞き返したら、なんか頭のうしろをくしゃくしゃっと掻いて宮司は言った。

「付き合ってくれっつった時なんてさ、なんかすげー軽くOK出されたじゃん」
「え、そうだっけ」
「そうだよ……っつっても、まぁ今回は考えてくれたおかげでさ、どうにも見込みなしってのもまたよくわかっちったんだけどさ」

 あれ? あれ? やっぱりそうなっちゃう? いやでもここで引き止めるのもおかしいっちゃーおかしいよね? いや、だけど、でも……。

「こ、これあげる!!」

 常備菓子じゃないけど、ポケットの中に仕事終わったら食べようと思ってたお菓子。思わずそれ握り締めて宮司の方に思いっきり差し出した。
 それがうっかりぐーパンチになってしまって、宮司はちょっとびっくりしてたけど、それよりやっぱり伸ばされた手に驚いているようで……いや、たぶん一番驚いてんのは私なんだけど。