データ復旧 HDD復旧 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!

神様、お願いっ!<2010遅すぎ新年突発企画小説>


「ちょっと! 大丈夫なの!?」
「あぁ……も、問題ねぇよ。帆波、悪ぃがちょっとあそこのベンチまで連れてってもらえるか?」

 心配よりも好奇心に満ち溢れた視線が私達を刺し、人の波が私達のところで割れる。私はおっさんを支えるようにして立たせると、そのままゆっくりと参道を逸れて、小さな祠のある一角のベンチにおっさんを座らせた。

「大丈夫? お酒はそんなに飲んでなかったわよねぇ? えっと……何か飲む? 買ってくるわよ?」

 おっさんに言ったけど、おっさんはベンチの背もたれに体を預けて項垂れている。私はネクタイを緩めて襟元を少しだけ寛げてあげた。どうしたんだろう、人酔いでもしたのかな?

「情けねぇなぁ……もうちょっといけると思ったんだけど……」

 そうポツンとつぶやいたおっさんは、背もたれに両腕をのせて空を仰いだ。

「もうちょっとって……ひょっとして人ゴミとかダメだった? 人酔い、しちゃったのかな……ごめんね。そういや初詣、嫌がってたもんね。それなのに、本当にごめん……」

 私が謝ると、おっさんはとぼけた顔で私の方を向いて、そのまま力なく笑って言った。

「いや、俺が行くって言ったんだから気にすることはねぇよ」
「でも……ずっと嫌がってたのはこういう事だったんでしょ?」
「……まぁな。いや、ちょっと違うか」
「……?」

 私が首を傾げると、おっさんは自嘲するように静かに笑って言った。

「言ったろ? 藁やんのも大変だって……」

 それって……あ、そうだよ。ここにいる人達、みんな参拝に来てるんだもの。おっさんが神様なら、受け取るのはその願い。藁掴もうと必死になってる人間達の思いが一気に一本の藁にいったら……

「……ご、ごめん」
「だからいいって。謝んな、帆波」

 おっさんがそう言った時だった。おっさんと向かい合って立ってる私の背後に人の気配がした。

「おやおやぁ? 着物なんか着ちゃって誰かと思ったら……帆波じゃん。何、もう新しい男? もう別れ話? っつーか、お前……男の趣味変わった?」

 こ、こいつ!! どの面下げて私の前に現れてんの? よくもまぁしゃぁしゃぁと私に顔見せられたもんだわ。

「あら、久しぶり。そちらは……えっと、カナコさんだったかしら?」

 我ながら呆れる。動揺してる自分に腹が立つ! 二股かけるような男、こっちから願い下げだわって思ってるのに、ちくしょう、ちくしょうちくしょう!
 怒りのせいか、悲しいのか、震えが来る。声が出なくなる。せっかく楽しかったのに、この男のせいで!!!

「あ、あれ? 君? 君が噂の二股くん? あぁ、はじめまして。帆波がずいぶん世話になったみたいで」

 ぐったりしてたハズのおっさんがいきなり立ち上がって私の横に並ぶ。ちょっとおっさん! あんた、まだ座ってないと!!

「へぇぇ、そっか。コンビニ帰りの気配、アレ、君だったんだねぇ。つけてみたり、わざわざちょっかい出しに寄ってきたり。何なの、君」

 おっさん、喋り方はふざけてるけど、笑ってない。たぶんおっさん、すっごく怒ってる。え? でもなんで!?

「なんだよ、おっさん。関係ねぇだろ? って、あ、あの汚いツレ、あれはお前か!?」
「あぁ、やっぱりコンビニのストーカー男はあんたか」
「関係ねぇっつってんだろうが! なんだよ、ヤキモチ妬いてんのか? いいじゃねぇか、話くらい」
「へぇぇ、なるほどな。そういう人間なわけか、二股くん」

 やっぱりおっさん怒ってる、ような……

「いったい帆波に何のようだ? 偶然、っとか言うなよ? わざわざ参道外れてまで追っかけてきてんだ」
「気まずいカンジでその場の勢いで別れちゃった元カノ見かけたんだぜ? どうしたかなって声かけてやんのがそんなに悪ぃかよ」
「そんな気になるならコンビニん時にどうして声かけてやんねぇんだよ。いや、それより別れた夜に電話の一つも入れてやんねぇんだよ」
「は? 俺がなんでそこまでやってやんねぇといけねぇわけ」
「ぁあ? そりゃお前……あ、そうか。なるほどな。お前、ひょっとしてアレだろ。好きな子にはいじわるして泣かせるタイプだろ」
「……なっ!?」

 は? おっさん、何言ってんの? っつーか、あんたもなんて顔してんのよ……って、まさか図星?

「ハッ! マジかよ。お前、ガキだな。いや、まぁ好きな子泣かせたくなるっていうのはおじさんもわからんでも……って、いやいやその話じゃねぇ。なぁ……どういう経緯かは知らねぇけど、やり方下手過ぎ、全然伝わってねぇんだよ。帆波泣かせやがって」

 いや、泣いてないんだけど……

「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ、おっさん。それじゃまるで俺が帆波のこと……」
「あら違うの? 二股チラつかせて別れて、その後何の連絡もなくて、久々にあったら思いっきりあやしい普段着のおっさんとコンビニに買出し行ってるし、アパート入ってくし? あげくにめかしこんで初詣と来たら、そりゃー何か言いたくもなるわなぁ?」

 ちょっと! あんたもなんか言い返しなさいよ!! 何をキョドッてんの……って、え? ホントに図星なの!?

「お前、帆波引き受けるには器が小せぇんだよ」
「何だとっ!?」
「もっとでけぇ男になって出直してこいや。でなきゃ帆波は渡せねぇな」

 ちょぉぉぉぉおおっっっとぉぉぉっっ!!!!! 本人無視で二人で話を進めないでよ! なんかおかしいよ? 新旧彼氏対決か、元カレ、バーサス親父みたいになってんよ? 本人が置いてきぼりってどーゆーコトよっ!?
 って、あ……あら? なんかさがってる、退いてるよ、あいつ。あ、行っちゃった。

「何だよ。もうちょっと食い下がってくるかと思ったのに、コトのほか根性なかったな。おじさん、がっかり」

 あ! いつもの口調。って、おっさん!? 何膝から落ちてるの?

「あぁ、何でもねぇよ。ちょっと頑張っちゃったからね。ただの立ちくらみ?」

 ま、まったく……何なのよこのおっさんは。

「……ねぇ。さっきの話、ホント?」

 おっさんを支えてベンチに座らせて、今度は私もその隣に座った。

「何が?」
「何がって、その……好きな子にはいじわるとか何とか……」
「あぁ、それか。さぁ、どうだかなぁ」

 おっさんはそう言って煙草を取り出した。

「ストップ、境内。っつか確か敷地内禁煙よ、ココ」
「マジでか? うわぁ……昨今のおっさんは定期的にニコチン摂取しないといけねぇんだよ。あー、ちょっとエネルギーなくなってきたよ、やべぇよ……」

 そう言いながらもちゃんと胸ポケットに煙草仕舞ってる。今日はもうお参りやめて帰ろうかな?