SEO 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!

神様、お願いっ!<2011時期はずし過ぎな大晦日小説>


「初詣の時にも言ったよな、俺。覚えてるか?」
「…………少しは」
「そっか。まぁいい。あれから俺なりにお前の事を見させてもらってたわけだが……お前、俺が思ってたのとちょっと違うな」
「見させてって、何? あんた、ストーカー? 俺なんかストーキングしてどうすんの?」
「ストーカーじゃねぇよ、俺は。あ、そっか。お前は俺が何者か知らなかったな」

 おいおい、また神様て名乗るんかよ。

「神様、なんだってな」

 そう言ったのは先輩の方。え? 何、それ。おっさんはそれ聞いてにやりと笑った。

「帆波から聞いたのか?」
「……言えないならそう言やぁいいのにとは思ったけど」
「要するに信じてはいないってわけか。まぁ……そりゃそうだろうな。この見てくれですぐに信じるヤツなんてのは、航くれぇなもんだ」

 こっちをチラッと見るもんだから、思わずにかっと笑ったけど……諒先輩のことだから、姉ちゃんとおっさんが示し合わせて嘘ついてる、くらいに思っててもまぁ仕方ないか。実際ないよな、神様とか。さて、どうなるんだか……。

「それでだ。俺はどうも思い違いをしていたようだから……謝らないとな。悪かったな、好き放題言い放ってさ。ごめんなさい」

 ちょ……っ、ご、ごめんなさいって。ごめんなさいってなんだ、おっさん。そこは謝るっつったってさ、何か渋くがつんといくとこなんじゃねーの? ごめんなさいってなんだよ。俺、噴出しそうになったっつーの。ってか、そのまんまうやむやにしないで謝るのはまぁ、かっこいいかもな。っとか、まぁそんな風に密かにおっさんを見直したりしてたわけなんだけど……正直、何言い出すのかってのは怖い。ややこしくすんなよー、頼むから。

「なぁ、おっさん……ちょっと、大丈夫なん?」
「ぁあ?」
「いったい何言おうとしてんか知んねーけど、でも……」

 あ、笑った。おっさん笑ったぞ? なんでそんな顔で……

「大丈夫。心配すんな、航。これでも神様だぞ、俺。ちったぁ信用してくれよ」

 ……そんな顔で言われちゃーさ、そんなん黙って頷くしかねーじゃんか!

「なぁ、ミヤジくん? 俺が神様とか何とか、そりゃまぁこの際おいといて、だ。おじさんはさ、ただ帆波に幸せになって欲しい、そんだけなんだよな。それはたぶん、ミヤジくん。あんたもそうなんだろ?」

 先輩からの返事はない。おっさんは煙草に火を点けた。どうやら最後の一本だったらしく、空になったパックをぐしゃっと握り潰したおっさんは、そのまま手をポケットに突っ込んで若干猫背の姿勢になった。

「まぁいい。ただどうしてもわからない……そのお前がなんで帆波を傷つけるような事をした?」

 それは俺も聞きたい。結局さっきは何を言っても先輩は口を割らなかったんだよな。
 諒先輩の方を見ると、やっぱなんか怒ってるカンジ。それを見てるおっさんは、何ともムカつく顔、だな、アレ。ん? 眉がピクッとか動いたぞ……おっさん、別に気にしてねぇって顔してめっさ先輩の方窺ってる。先輩、何か言うつもりか?

「べぇっつに……傷付いちゃいねぇよ、あいつ」
「は?」

 先輩の一言にたぶんおっさんちょっと怒った。俺は……黙っとくか、まだ。

「バカな事したよなって思っちゃいるけど、あの事で傷付いたヤツがいたとしたら、それ、たぶんあいつよりか俺だって、今は……そう思ってる」

 わからんっ。何かわからんぞ、俺には!!

「ただ、あんたが初詣ん時に言ってたコトもわかんなくもねぇからあいつには謝ったけど。でもあいつ、顔色一つ変えなかったんだぜ?」

 おっさんはただ聞いてる。先輩ももう全部話そうとしちゃってるカンジ。

「俺がどんだけ待ったと思ってんだよ……わかってもらえたんだって、最初はそう思ったよ? けどさ、俺が何を言おうが何をしようが、な〜んか全然、何にも感じないって顔しててさ。確かめたくなんじゃん! ホントに俺の事好きで一緒にいんのかよって、そうなっちゃうじゃん」
「お前……」
「くそっ……」
「お前……な、何をした?」

 オォォォォオオオオオイッッッ! おっさん、そこじゃねぇっ! そこ喰い付くとこじゃねぇよ、今! 空気読めーっ! 頼むからおっさん、空気読んでくれーっ!!
 あ、先輩まだ何か言いそう……。

「こっちばっか浮かれてて、ばっかじゃねぇのって思ってさ。ヤケになったっつーか何つーか。ちったぁ俺の事好きだって、好きでいてくれるって俺が思えるようなリアクション見てみたいって……そう思っちゃったらさ、しゃーねぇじゃん。他にどうすりゃ良かったんだよ……なぁ?」

 先輩、別にブチ切れそうな気配はないな。っつーか、ほんっとに先輩、うちの姉ちゃん大好きだよな、昔っから。

「そりゃお前、ストレートに聞きゃいいんじゃねぇの? 俺の事好きかって」
「照れた様子も何もせずに好きだってサラッと言ってくれんだろ。好きじゃなきゃこんな事しないって、平然と言ってのけるよ」
「こっ……こんな事、ですか?」
「だぁぁからおっさん! そこ喰い付かない! 掘り下げるとこじゃねーだろ!」
「航? あぁ……そ、そっか。そうだよな」
「そう! おっさん、しっかりしろ!?」
「お、おぅ」

 だぁ〜いじょうぶかなぁ、おっさん。しっかりしてくれよなー? いいとこ突いてんだと思うんだよ、この会話。あーでもこれは、俺が入った方が良さそうだな。たぶんおっさんじゃーわかんねぇ。

「あ、あんさぁ、諒先輩」
「ん?」

 あぁ、なんか気まずいぞ、オイ。喋りづれぇぇぇえええ! 空気重ぇぇぇぇえええええ!!

「いや、姉ちゃんの事なんだけど……」
「うん」
「なんだ? 航、なんかあんのか?」
「あ? うん……ちょっと、な」

 そうだ。ここは俺だ、俺の出番だ。頑張れ、俺ェ! 負けんな、俺っ!!

「姉ちゃんはさ、ほら。何つーか……いっぱいいっぱいなわけよ。何に対してかわかんねーけどさ、いっつも両足で踏ん張って、頑張って立ってんさ。わかる?」
「……知ってる」

 だよな、先輩は知ってる。ずっと見てたんだから。
 おっさんは……たぶん気付いてんだよな。なにげに見てんだ、この人。

「だからってわけじゃねぇんだけど……いつも平静でいたいっつーか何つーか。自分で処理しきんねぇ事、ダメなんだよ。心に波風立てたくねぇっていうかさ、わかる? 気持ちのさ、振れ幅っての? でかいとさ、疲れんじゃん。しんどいじゃん。そこまで余裕ねぇから、どんな事でも『なんてこたぁねぇよ』って平然としてんの。心を揺らさなければ、何か起きた時にだって立ってられるだろ?」
「そりゃそうだろうが……それじゃ人生つまんねーんじゃねぇの?」

 あぁ、おっさんが言うことも尤もだよ。でもたぶん……俺を守るためには、自分の事は自分で片を付けなくちゃなんなかったから、きっと姉ちゃん小さい頃からずっとそうだったから、もう無意識にそうなっちゃうんだ。っつーか、これを口に出して言うってのは、俺的にもきっついなぁ。

「どうした、航」

 おっさんがそう言って、空に向かって煙をふぅっと吐き出した。
 それを目で追いながら俺は、やっぱ言うべきだよなって口を開いた。

「周りに心配かけたくなかったから。俺を、弟を守らなきゃって思ってたから。自分が折れないようにってずっとしてきて、きっともう姉ちゃんそんな風にすんのがクセになってんだ」

 そう。たぶんそれがアタリなんだと俺は思う。そうだよな、言わなきゃ。

「手に入らなかった時、失くした時、最初からそういうもんだったんだって思うようにすれば諦めもつくから。そんなにひどく傷付かずにやり過ごせるからって、姉ちゃんって人は全てにおいて基本がそれなの。だから姉ちゃん、あんなんなの」
「そりゃ、重症だな」
「……たぶん本人は意識してねぇんさ。でもそういう意味じゃ、諒先輩には悪いけど本気で誰か好きになったりとかってのも、姉ちゃんないんかもしんない。さっき話聞いてそう思っちった。ついてねぇとかいろいろ言ってっけど、だからってすっげぇ泣いたのって見たことも……あ、あるか、1回だけ」

 俺は去年の事を思い出した。そうだよ、父ちゃんと母ちゃんに会えた時、いなくなっちゃった時、人相変わるくらい姉ちゃん泣いたよな。あんなん、初めて見たからマジで俺びびったし、びびってる事にも自分でびびったんだっけな。
 そうだよ。あれで俺、いろいろ気付いたんだもんな……。あぁ、そうか、おっさんもそれ知ってんのか。

「おっさん、何か言いたいんなら言えば? 先輩にあんだけ言わせておいて、おっさんだけ黙ってんのってどうよ」
「んー? まぁ……そうだな」

 おっさんが煙草の灰をとんっと指で弾いて落とす。さて、どう出る!?

「ミヤジくんは、今の話……あんま驚いてないねぇ」
「……そりゃそうだろ」

 お、先輩さすが。って事は、二股とか何とか、よっぽど追い詰められていっぱいいっぱいだったって事か。くぅぅうう、姉ちゃんひでぇ。先輩、マジでうちの姉ちゃんがごめん!!

「ふぅ〜ん?」

 なんか意味ありげにそう言って、おっさんが先輩に近付いてく。

「じゃ、帆波を引っ張り上げられんのは……やっぱお前くらいしかなさそうだな、諒太郎」
「りょっ……てめぇ、何言って……」
「なんだよ、昇格だよ、昇格。お前しかいねぇって、そう言ってんのよ、おじさんは……わかってる?」
「あんたに決められても仕方ねぇし……だいたい、なんであんたが決めてんの! それに……あんた、神様なんだろ? 自分で幸せにしてやろうって方が筋じゃねぇの? 本職だろ?」

 先輩がそう言うと、おっさん何だかすげぇ寂しそうに笑うの。何その顔、俺見たことねぇぞ?

「神様だって万能じゃねぇの。ホントは助かりたいなんて思ってねぇような人間、助けるの、大変だろ? それと似てんだ……幸せにしてやろうにもさ、あいつはそれ以前の問題なわけ。お前ならそれ、どういう事かわかると思うんだけどな。違うか、諒太郎」
「だから諒太郎って……あぁ、そうか」

 あれ、何? 何先輩納得してんの? え、和解しちゃったの、あの二人?
 先輩はちょっとおっさんの方見て固まってる。何かすっげいろいろ考えてんだろうな。なんかめんどくせぇ姉ちゃんでホント、悪ぃな、先輩……。

「俺しかいねぇかどうかはわかんねぇけど、でもあんたの言ってる事はわかった。あと、諒太郎はやめろ」
「いいじゃんか諒太郎。頼んだぞ、諒太郎。お前次第だぞ、諒太郎!」
「……好きにしろ」

 先輩は何かもう諦めムードで、溜息混じりにそう言った。

「なぁ。話終わったんなら部屋戻んねぇ? 俺、マジ寒ぃんですけど! 姉ちゃんも待ってるし。戻ろ?」
「おぉ、そうだな。帆波も待ってるし、そろそろ料理も届くんじゃねぇか?」
「マジマジ? いや、俺なんか腹すっげ減ってきたし! 先輩のケーキもまだ食ってねぇし!」
 まずおっさんが、それについて俺が階段をドタバタと駆け上がる。
 諒先輩はまだいろいろ考えてるみたいで、俺達がドアのところまで来た時にもまだ、階段の手すりに手をかけただけでそのまま物思いに耽っていた。

「先輩? 俺ら先に中入ってんよ?」
「あ? あぁ……わかった」

 そう答えたのを確認してから、俺は玄関のドアを閉めた。