SEO 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!

神様、お願いっ!<2011時期はずし過ぎな大晦日小説>


「ケーキ、っつったの。食わねーの?」
「え、あぁ。食べる、食べます」
「ん……えっと、飲み物はセルフ、だっけ?」
「うん……」
「……何飲むの?」

 こっちを見もしないで自分の飲む紅茶を淹れてる。私はカフェオレを……って思ってたら牛乳渡された。お、わかってんじゃん。

「カフェオ『れ』な……お前ミルク、ってか牛乳、超多いし」
「う、うるっさいな。いいでしょ、その方が好きなんだから」

 あぁ、なんかこのカンジちょっと懐かしい。カレカノやってる時より、もっと前の……。

「なんか久々な、こういうの」
「え? うん……」

 び、びびったー。考えダダ漏れなのかと思ったー。ってか、同じ事を思ってたってことか。
 あー、なんだろう。妙に気恥ずかしいカンジになってきたんだけど。航達……は、まだだよなぁ、さすがに。まいったな、これ。さっきの険悪なムードはなくなったけど、今度はまたこれ微妙な空気が部屋を支配してて息苦しい。これはこれでまた何かちょっと……うぅ、どうしてこうなった!?

「えっと……ケーキ、もらおうかな」
「おぅ。あ、えっと……どれだっけな。絶対にお前に食ってもらって感想聞いてこいって。あーくそ、忘れちっ……」
「これ。あとは……これ、あぁ、これもかな? おじさん新しいの、いくつ作ったの?」

 自分んちの商品くらい覚えておきなさいよね、全く……あぁでもあいかわらずホントにおいしそう。それになんだろうな、センスがいいっていうか……かわいいけどゴテゴテしてなくって。見た事ないのは2つ、いや、3つかな。

「お前、わかんの?」
「あんたわかんないの?」
「……新しいのは2つつってた」
「2つ? あー、じゃぁこれは上のフルーツが季節のものになってるだけか。ってことはこのタルトと、このスフレっぽいヤツかな。違う?」

 そう聞いたんだけど、宮司はなんか私の方見て固まっちゃっててお話にならない。
 おいおい。こいつ、大丈夫か?

「宮司?」
「あ? あ、あぁ……うん。わかんねーけど、お前がそう言うならあってんじゃね? すげーな、望月」

 ――望月、か。

 昨年、私達は何だか付き合うことになって、宮司は私の事を名前で呼ぶようになった。それまではずっと望月って、名字で呼んでたんだよね……って、ここで黙るとまた微妙な空気が流れてきちゃうか。あれ、でもさっき航が何か言ってなかったっけ? 誤解がどうとか……ちょっと気が進まないけど聞いてみよっかな、一応。
 っとは思うものの……うぅ、なんか構えちゃうな。やりにくいな。こりゃいったいどうしたもんか……いや、無理にまた微妙なカンジをぶり返させるよりかもっと、あ、そうだ、とりあえずケーキ、ケーキよ!
 微妙な空気の中、私達は向かい合って座った。

「さっきの、なんだけど……」
「はいぃ?」

 やば。声裏返った。こっち身構えてるの超バレバレ、超かっこ悪い。
 宮司もちょっと緊張してるみたいで、紅茶冷ますみたいに息吹きかけながら、こっち見ないで話してる。な、何なのよいったい。

「あーくそ……俺、あいつみたいにうまいこと言うとか、無理っぽい」

 思わず口の中にあったスフレを丸呑みする。あぁ、もったいない! 喉越し、超うまかった! 味わって食いたかった!!

「な、何でもいいから言ったら? 航が言ってたヤツでしょ?」
「そう……」

 ……ぅぁぁああああああああ、そこで黙るな、宮司! っと言いたいが、そういう雰囲気でない事はさすがにわかる。宮司が紅茶を一口飲んで、こっち見た! 何!?

「その……悪かったよ。嫌な思いさせてさ」
「んーっと……何が?」

 思わず聞き返すと、宮司はちょっと驚いたような顔をして紅茶をもう一口。はぁぁぁぁああああっとやたら長い溜息も一つ。何を言われるやらと身構える私を一瞥して、今度はふぅっと小さく一息。

「去年。クリスマスん時のさ、アレ」
「あぁ、なるほど。アレね」
「そう……アレ」

 そしてまた溜息が一つ。言いづらいなら別にいいんだけど……っともやはり言える雰囲気ではない、よな? はぁぁぁぁあああ……今度は私が溜息を一つ。お? この溜息に宮司が反応。あっちもどうやら妙な緊張感ってのを感じてるらしい。

「さっき航も言ってたけど、アレ、違うから。その……そんなんじゃねんだわ」
「……っと言うと?」
「つまり……嘘。俺、なんて言ったか忘れたけど、そんなヤツ知らね。っつかそもそも二股とかかけたりしてねぇ」
「そうなの?」
「う……っ、うん。そうなんだよ」

 なんだ。そういう話か。それがさっき航の言ってた妙な誤解、ってこと?

「なんでそんなつまんない事したのよ」
「え、嘘って信じてくれんの?」
「……だって、航とのさっきのあんなの見てたらさ」
「航に感謝ってことか」

 あ、宮司ホッとしてる。でもやっぱり気になるし、聞きたいよな。聞いちゃだめな事か? 聞いたっていいでしょ、私、当事者だし、聞いていいハズ!

「で?」
「ぃあ……え?」
「だぁからぁ……なんでそんな事したのって聞いてるの」

 ここは逃がさないとばかりに宮司の方をじっと見る。さて、どうする?

「それ言えるくらいなら、そんなつまんねー嘘とかつかねぇ」
「それは……つまり、ナイショって事?」
「そっ、そういう事! はい、話終わり!!」

 って話を切って紅茶を飲み干す。そしてお替り淹れに席を立つ。
 あっそ、この話はこれでおしまいって事ね。何だか釈然としないけど、まぁ……いいか、っと盛大に溜息を吐いてカフェオレを一口。そして今度はタルトを一口、放り込む……と、あら、これ何? すっごいおいしい。

「……ごめんな。中途半端で悪ぃけど、でもホント、マジ二股とかねぇから」
「ふ〜ん……まぁ、はい。わかった……で、ねぇ。このタルト、すっごくおいしいんだけど……宮司あんた、これ食べた?」

 そう言った私の方を振り返った宮司と目が合うと、何だろう……目が合った途端、宮司はすごく苦しそうな顔をして、私はそれを見ちゃいけない気がして。慌てて俯いて、一人ごとみたいにぶつぶつ言いながら、ただ黙々とタルトを食べるしかなかったのよね。
 すっごいおいしいハズなのに、味わってる余裕がない。簡単においしいって言葉が頭に浮かんで、どんどん胃の中に落っこちていく。なんてもったいない食べ方してんの、私!

「あのさ、俺二つ……いや、一つ。聞きてぇ事あんだけど」

 何を思い付いたのか、これで全部終わったとケーキに専念できるはずが、宮司のバカがまたあの微妙な空気を呼び戻しやがった。あぁっ、もうっ! バカーッ!!

「ぬぁっ。な、何よ?」

 くぅっ、かんだ。超かっこ悪い。動揺まるわかりじゃない!

「あのおっさんって、誰?」

 あぁ、そうねー。確かに気になるわよねー。でもさ、本当の事を言ったところで、宮司が信じるとは到底思えないんだけど。私だって最初はただの胡散臭いおっさんと思ってたし。いやいや、この場合、そう言われてそうかって納得できる人の方が絶対に少数派よね。そう考えると、航って勇者だわ。

「なぁ、帆な……望月。あのおっさんいったい何モンだよ?」

 真剣な顔してるなぁ、宮司。うわぁ、言いづれぇ……でもごまかすネタなんてないわよ、私。仕方ないよね、ここは一番人を馬鹿にしたような、一番嘘くさい真実を正直に伝えるしかないわよね。
 そういえば、おっさんの正体って他の誰かに言っていいものなのかな、どうなんだろう。よくわかんないけど、宮司には言っても大丈夫なような……いや、根拠はないけど。大丈夫な気がする。さて。

「教えてもいいけど、あんた、絶対に信じないわよ?」

 ほら、眉間に皺寄せて訝しげな顔してる。さて、どう出る?

「信じるか信じねーかは聞いてみねぇとわかんねぇだろ? なぁ、あいつ誰? 言えよ」
「……わかった。本当の事を言うわ。先に断っておくけど、嘘とかないからね」
「当たり前だろ。で?」

 仕方がない。言うしかないか!

「あのおっさん、神様だって言ったら……あんた信じられる?」