質屋 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!

神様、お願いっ!<2011時期はずし過ぎな大晦日小説>


「ちょっと! もめるんだったら他でやってよ」

 そう言われて俯いて黙り込む宮司とは対照的に、おっさんはまぁ何とも小憎ったらしい薄笑いを浮かべて言った。

「もめないしーってかもめてないしー。ミヤジくんが突っかかってくるだけだしー」
「語尾伸ばすな。まぁあんたはいいや……どうせ出てく気もないんだろうし。で、宮司は? ホント、あんたどうすんの?」
「どうすんの、って……」
「……だからぁ! 帰るのか、まだいるのか、どうすんのかって聞いてるの」

 どうも突っかかるみたいな言い方になっちゃうけど、そこはまぁ個人的感情ってことでカンベンしてもらうとして。さて、宮司はどうするんだろう。航はあいかわらず何だか楽しそうにしてるけど……ってかあいつらいったい玄関でこそこそ何喋ってた?

「……いていいんだったら、いる。まだ帰んねぇ」
「っそ。じゃー航の部屋行って上着脱いできなよ。おっさん! あんたも!!」
「え。なんで俺には怒って言うの?」
「怒ってない!」

 航がくすくすと笑いながら二人を部屋に連れていく。想像もつかなかった3ショット。なんでこうなった? まぁ……男手は多いと助かるし、って今年はもう掃除も終わってるからなぁ。さて、どうしたもんか。うん、そうだ。宮司が持ってきたケーキでまずはお茶でもするか!
 それまで使っていたマグカップや何かをとりあえず全部洗って、4人分のカップをまた並べる。見慣れた私と航のものと、それとあと二つ。これを出したのは、1年前のあの時以来だ。

「どうしてるかなぁ」

 そうつぶやいてから思い出した。そうだ。二人とも成仏しちゃったんだった。もう会えないんだったわ……でも、まぁいっか。思い残す事なく成仏してくれたんだったら、残された子どもとしても嬉しい限りだし。ただちょっと、やっぱりちょっと、寂しいけどね。でもそう思うくらいは許されるはず。
 4つ並んだマグカップを眺めてぼんやりと物思いに耽っていたら、航の方からまた微妙な空気が流れてきた。あぁ、そうね……上着脱いだくらいで空気変わるくらいなら苦労はしない。でもだいたいなんでこうなってんのよ。わかんないなぁ。いや、宮司を引き止めたのは誰でもない私なんだけど。

「宮司が持ってきたケーキ、食べていいんでしょ?」

 そう言うと、宮司が小さく頷いた。
 テーブルの方を見て航が小さく笑ったのは、たぶん私と同じ事を思い出してるんだろうな。

「じゃ、食べましょ。あーでもどれ食べるか被ったらジャンケンとかで決めてね。もうもめ事はカンベンだわ。だいたいあんた達、もめ事の次元が低いのよ」
「ケーキ選ぶくらいでもめねーだろ。ガキじゃねぇんだから」
「あんたが一番大人気なく拗ねるから言ってるのよ、おっさん!」
「俺かよー」
「あんたよ。全く……あ、何か飲むならこれ使って。淹れるのはセルフで。宮司、あんたも遠慮しないでいいから。冷蔵庫とか、勝手に開けちゃって構わないし。中に入ってるもんは好きに飲み食いして」

 そう言いながら、自分のカフェオレを淹れるべく立ち上がる。航は冷蔵庫を開けると信じられないって顔で振り向いた。

「姉ちゃん、炭酸。炭酸系が全然ない!」
「え? 嘘……やだ、ホントだ」
「マジかよ〜! 俺、炭酸ないと動けねぇのに、どーしてくれんだよ!」
「どっかの船大工か、あんたは!! だったら買いに行ってくればいいじゃない。ほら、お金!」

 椅子にかけてあったバッグから財布を出して航に投げて渡す。航は中身を覗いて溜息を吐いた。

「いい。自分で買うわ。っつか……うぇ〜、めんどくせー! この寒い中、コンビニ行くとかマジありえねー! 超めんどくせー!!」
「なくなったら自分で買い足しておくか、出なきゃ私に言えって言ったじゃない」
「そうだけどさ。そりゃそうだけどさぁ! 何だよ、買っといてくれたっていいじゃんさ」
「え。だって私普段そんなの飲まないんだもん」
「でもさぁ……」
「……俺、買ってきてやろうか?」

 グダグダな航を見かねたのか、そう言ったのは宮司。そして次に口を開いたおっさんの言葉に驚いた。

「あ〜、じゃ俺も行くわ。ちょっと……うん」
「えっ?」

 思わず皆しておっさんを見る。おっさんはといえば涼しげな顔。宮司は舌打ちとかしてるよ、オイオイ……またもめる気? 穏やかな大晦日の始まりはいったいどこへ行った!?

「なんで俺があんたなんかと……」
「なんか、とか言うなよな。お前、俺のこと知らねーべよ」
「知らねーけどどう見たってアヤシイだろ。何でそんなチャレぇんだよ? おっさん、何モンだ!?」
「何モンでもいいでしょ。っつかチャラい言うなよ。俺の勝負服だぞ!」

 それかアロハしかないんでしょうが……いつから勝負服になったのよ。まぁいいけどさ。

「勝負服だぁ? 誰と、いったい何の勝負だっつの」
「何って……帆波と……愛の?」
「は?」
「ぎゃはははははは!!!!!」
「ぬぁっ!!」

 楽しげなおっさんと、笑い転げる航。逃げてしまいたい私と、石化する宮司。ってか冗談に決まってるのになぜそこで石化するの、宮司! 航も何かフォローしなさいよ、もうっ!!

「何言ってんだよ、てめぇ……」

 ふるふるしながら、宮司がおっさんの胸ぐら掴んでる。あぁもうっ!

「そんなわけないでしょっ! 宮司、本気にしない! おっさんも、馬鹿な嘘つかないで!!」
「えー、いいじゃなーい。お茶目なおじさんのー、かわいいイタズラ心じゃなーい」
「……かわいくないっ!!」
「ちぇっ。おい、ミヤジくん。おじさんと一緒に買い物行くぞ」

 そう言ってコートを取りに航の部屋に向かうおっさんを宮司が目で追う。何かもういたたまれなくって、さすがに声をかけた。

「宮司、いいよ。航行かせるし」
「えぇっ! 俺かよ!」
「あんたの炭酸でしょ」
「ちぇーっ、そりゃそうだけどぉ」

 不満そうにふくれっ面を見せる航の頭を小突く。あぁ、ちょっとかわいいとか思ったのはナイショ。航は文句を言いながらも、ふっと何かを思いついたようで宮司を見て、おもむろに立ち上がった。

「まったく……しゃーねぇなぁ」

 伸びを一つしてそう言った航が、擦れ違い際に宮司にぼそっと言ったのが聞こえた。

「俺、行ってくるから。先輩は妙な誤解、ちゃんと解いちゃって下さいよ?」
「それはお前……」
「だーめ。ちゃんと姉ちゃんと話をして? だっておかしいっしょー。良くないッスよ、そういうの」

 まるでどっちが先輩何だかってな口っぷりで、航は宮司の肩をぽんと叩いて自分の部屋から出てきたおっさんと一緒に玄関から出て行った。あれ、なんだ。こうなるってわかってのか、おっさん。ちゃんと航の上着を持って部屋から出てきてんじゃない。
 あ、あれ……やだ。この家、私と宮司の二人になっちゃった。ちょっと考えなしだったか?

「……ーキ」
「えっ? 何!?」

 いきなり宮司に何か言われて思わず硬直する。そんな私を見て宮司がくしゃっと顔を歪める。

 あ……。

 私知ってる。宮司がこの顔する時は本当に悔しかったり悲しかったりする時だわ。
 って、あれ……私、何かしたかな。