SEO 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!

神様、お願いっ!<2011時期はずし過ぎな大晦日小説>


「あんた、何の話してんのよ」
「え? ん〜、ちょっとくらい不器用なくらいの方が……って、あれ?」
「まったく……エスプレッソ・マシンだもん。でも普通にコーヒーも落とせるようにもなってるでしょ。ポイント交換でやっと手に入れたんだからね、文句言うな」

 ぼそりと言い返すとそれだけで場の空気が少し変わる。それがおっさんの計算なのかどうなのかはわかんないんだけど……何でもいいよ、この妙な空気がどうにかなるなら!

「なんだ、やっぱマシーンなんじゃねーか! っつかエスプレッソってあんなん使うのか?」
「……好きならそれくらい知ってなさい」

 なんか話がおかしくなってきた……ちょっと、この会話の着地点ってドコ? 収拾つかなくなってない?
 ほら、宮司が困ってる。航がまた笑いを堪えてる。あぁ、もう……やっぱりここは私がいくしかないってことね!?

「はぁ……なんかもういいわ」
「あぁ? 何がよ!?」

 あぁぁぁぁぁぁああもう、おっさんは黙れ! そう心の中で叫びながら、私は玄関先に顔を出したおっさんを家の中に押し込める。航に目配せでおっさんを頼んで、私もドアのノブに手をかけた。その途端に宮司の顔が曇る……え? なんで!?

「なんて顔してんのよ。で、どうすんの?」

 視線は固定。家に上がってくかどうかって宮司に訊く。我ながら態度が悪いけど、まぁこれくらいはいいよね? ってゆーか、今のとこ、別にドア閉めちゃっても良かったんじゃないの? ケーキのお礼だけ言ってさ。あぁでももう遅い。
 当の宮司はと言うと、ちょっと迷ってるみたいだったけど、いきなり頭をシャカシャカって掻き毟った後にぺこりっと頭を下げて一歩踏み出す。

「お、お邪魔します……」
「はい、どぉぞ〜……」

 航とおっさんが脱ぎ散らかした靴を避けるようにして宮司が見慣れたブーツを脱ぎ、肩越しにちらりと私を振り返る。

「何?」

 怪訝そうに私が聞き返すと宮司はまた小さく頭を下げて、聞こえないくらいの小さな声でもう一度お邪魔しますと言ってそろりそろりと家の中に入っていった。
 何なの、あいつ。別れたとはいえ元カノの家でしょ? そんな恐縮しなくて……も? あれ? そういやあいつをこの家に呼んだ事ってあったっけ? あらら、ないかも。やだ。付き合ってる時にすら呼んだことなかった男を家に上げちゃったってこと? 何やってんだか、私!!

「はぁ……」

 盛大に溜息を吐いて玄関に鍵をかけてチェーンロックをする。あっちこっち向いている靴をささっと揃えてから、私は皆の待つリビングへ。ダイニングテーブルには当然のように座っているおっさんと、その隣に宮司。その向かいには航が座って不思議そうにこっちを見ていた。

「どうかした?」

 私が航に声をかけると、弟パワーなんだろうけど、ずばっと核心をついてきた。

「諒先輩と姉ちゃんって……別れたんじゃなかったっけ?」

 あぁ……この空気の中でこれを言ってのける航ってすごい。いや、私は全然平気だけど、宮司が顔色変えて俯いちゃった。そして隣のおっさんは……何、涼しい顔しちゃってんのかね? いったい何を考えているんだか。

「そうだけど……ケーキについて来たみたいだからね。一応」
「何それ。あぁ、それがさっき言ってた『フタマタくん』とかいう? 何、どういうキャラクターなんさ、それ」

 あぁぁぁぁああああああ、もうもうもう! どうして航って、航ってこうなの!?
 どうにかなりかけてた空気が一気にフリーズする。うわぁぁぁあ、酸素もなくなってきたカンジ。息苦しい、息苦すぃ〜っ! どうにかしろとばかりに宮司を見ると、ばつが悪そうに俯いて小さくなってる。まぁ、そりゃそうか。無理もない。やっぱりここは私、か?

「ちょっと去年ゴタゴタしてね。おっさんが妙なあだ名をつけたのよ」
「ゴタゴタ? え、何? それって諒先輩が二股かけたってコト!?」

 航が驚いたように私と宮司を交互に見る。あぁもう、どうしてこいつは……なんでこんなヤツに彼女ができるのか、不思議だわ。空気読めってのよ、愚弟! もろにそれ言っちゃうことないじゃ……。

「ありえねー……」

 ……は? 何なの、あの脱力した態度。呆れ果てたようなあの視線……で、なぜ私を見る?

「諒先輩が姉ちゃんと誰かを二股とか、ねぇっしょ? だって、諒先ぱ……」
「わぁぁぁあああ、航っ! お前、ちょっとこっち来いっ」

 そうでかい声で言ったのは宮司。何? 何なの、こいつら!?
 おっさんは我関せずってカンジで、宮司は立ち上がると航を連れて玄関の方に行っちゃった。

「何なのよ、もう」

 私は溜息を吐いて椅子に腰を下ろした。あーあ、こいつら来る前って何してたんだっけ? え〜っと……あぁ、そうだ。肉、漫画肉の話をしてたんだわ。じゃない、食べ物どうしようかって思ってたんだった。あぁでもケーキもらったか。いや、ケーキだけじゃ航の腹はいっぱいになんないし……やっぱりどうにかしなくちゃ。

「んー? どしたー、帆波ぃ?」

 頬杖をついたおっさんが、首を傾げて聞いてきた。あれ、私何かおかしかったかな?

「どしたって、何が?」
「いや、何つーかさ。まぁ、何でもねぇならいいんだけど。なぁ、フタマタくんと航って、いったいどういった……」
「どういったって、妙な顔して聞かないでよ、馬鹿。部活が同じ、だったのかな? 何だっけ。先輩後輩とか、そういうのよ」
「ふ〜ん」

 そう言っておっさんが玄関の方をちらりと見る。何だろう、意味ありげな視線。

「なんで?」

 ちょっと何かありそうで聞いてみたら、何だか溜息吐かれちゃった。え、なんで?

「いや、何かいろいろ知ってそうな……航がさ」
「何のこと?」
「んー、べぇっつにぃ〜」
「何よ、それ……まぁいいや。ねぇ、おっさん。何食べたい?」

 本題が逸れまくってるから、とりあえず無理矢理話を私が戻すと、おっさんが人差し指をチッチッチッと振って何やら得意げな顔。ってか、そのリアクション、古くない?
 残念な人って思って見てたら、おっさんがケータイ出してどっかにかけて……あれ、こっち見てる? ケータイをテーブルに置いてって、これまだ通話中じゃない!

「何? まだ通話中じゃないの」
「まぁ、そうなんだけどさ。出前っての?」
「デリバリー?」
「馬鹿にしてんのか、帆波! おじさん相手と思って何でもカタカナでかっこよく言えば勝てると思ってんだろ。いいんだよ、そんな洒落た言い方じゃなくても! いいんだよ、おじさんはお料理を持ってきてもらう手配をしようと思っているんです!! 出前なんです!!」

 何をムキになってんだか。でもまぁ、何だかわかんないけど、作らないで料理がどうにかなるなら……あやしいけど頼んでみるかな。

「食べたいものを言えばいいの?」
「言えばいいの」
「何でも?」
「何でも」

 オウム返しにおっさんが答える。なんだなんだ? 素直さが逆にコワイけど……でもまぁ、いいか!

「そうねぇ。どうせだらだら過ごしてだらだら食べたり何だりってなるんだろうから、サンドイッチとか? こう……摘まめるカンジのっていうのかな。オードブルとか、そんな高尚なものじゃなくって。あ、おっさんもいるから酒の肴になりそうなものもあるといいかも。あとは煙草は? どうする?」
「ほ、帆波ぃぃぃ」
「懐かない! あとはねぇ……あ、そうそう、航のリクエスト。漫画肉。わかるかしら……骨が付いててこう、塊で、ん〜、漫画とかに出てくるあんなの。甘いものはいいや、宮司がケーキたくさん持ってきてくれたから。あれ、そういえば……」

 ふと静まり返っている玄関の方に目をやる。航と宮司、何話してんのかしら?

「おい、帆波」

 おっさんが私を呼ぶ。振り返ると、携帯を指先で摘まんでふらふらと振ってる。

「何よ」
「ご注文の品は以上ですか?」

 ファミレスのバイトみたいな口調でおっさんが言う。ほんっとに……去年のあれがなかったら、絶対に神様だなんて信じられない。他が見たら、いったい私達ってどんな風に見えるのかしらね……って、どう見てもチャラいおっさんに騙されてる可哀想な女だわ!

「おい、もういいのかって聞いてんの」

 おっさんに念を押されて、私はちょっとだけ考えて答えた。

「和洋折衷なカンジでよろしく。あと年越し蕎麦もね……んーっと、何人前にしたらいいの? 宮司、どうするつもりなんだろう」
「ケーキのオマケ君だからな。ケーキなくなれば帰んじゃね?」
「そうだけど……っていうか、あいついったい何しに来たのよ?」
「だからケーキの……」
「おっさんは黙る! いいわ、蕎麦は四人前でお願い」

 そう言ったら、おっさんがちょっと笑ったような気がした。何よ……何かおかしい?
 おっさんが摘まんだ携帯をそのまま耳元にあて、テキトーなカンジで「じゃ、頼むわ」と言って通話を終えた。

「で、相手は誰? まさかまた……」

 ほんの少し期待を込めて言ったんだけど、おっさんは肩を竦めて首を横に振った。

「バーカ。フタマタくんいるのに呼べるわけないだろうが。俺の正体だって、あいつは知らねぇんだし」
「正体だのってここででかい声で話してたら、不審に思って聞かれるんじゃないの?」
「そんなもん……し、親戚のおじさん的なアレです、って答えりゃいいだろ?」

 ちょっと照れたカンジで横を向く。いや、おっさん、それは宮司には通じないよ。

「付き合い長いんだから……あんたが親戚のおっさん的なアレじゃないことぐらい、あいつはとっくに気付いてるわよ」
「え? そうなの? やだぁ……おじさん困っちゃったな。帆波とのカンケーは誰にもナイショなのにぃっ」

 そこへお約束どおりに宮司と航が戻ってくる。宮司は何とも言えない不機嫌そうな顔でおっさんの事を睨みつけてる。ほら、言わんこっちゃない。またわけのわかんない方向に捻じ曲がったわよ、これ。

「前にも会ったよな。誰? 帆波とのカンケーって……何?」

 あからさまに喧嘩売ってる口調じゃない。でもその横で航はどう見ても笑い堪えてるのよね……さて、私はどうすりゃいい?

「なんだよ? 気になるってか、フタマタくん!?」
「宮司!」
「あぁ、ミヤジくん」
「……くっそ、ふざけやがって……」

 わけのわからない険悪なムード。そして笑いをさらに堪えて変な顔をしている航。状況を読めず、空気も読めてない私……あぁ、いったい何が起こってるのよ!!