ビューティーエッセイ.info 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!

神様、お願いっ!<2013梅雨だというのに花火大会小説>


 一面シートを敷き詰めてるようにも見えるほど、人でごった返すメイン会場を迂回するように遊歩道を進む。浩一さんが心配していた通り、双子のような『現地調達チーム』はかなり多く、浴衣パワーの効果か、私も何度か声をかけられた。

 メイン会場の端の方から人の熱気とはまた別の熱気が流れてくる。それにモーター音が加わった。
 ここから先は出店が続く。ちょっとした縁日である。いい匂いを辺りに振りまいているのはイカ焼きだろう。スイーツ系は匂いはないが客層ですぐわかる。定番のたこ焼きや焼きとうもろこし、こちらもいい匂いにまかれて困ってしまう。喉も渇いたし、ジュースでも……いや、ここはカキ氷だな。
 なぜにこれがこの値段っと思っても、それでも買ってしまうのが縁日の魔力。私は氷イチゴを手にのんびりと賑やかな人ゴミの中を進んだ。

「あれ? 望月? 望月さんじゃないの!?」

 と、突然声をかけられた。さっき通り過ぎたばかりの金魚すくいのコーナーで、大盛り上がりしていた集団の一人からどうやら声をかけられたようだけど……。

「あぁ。やっぱりそうだ。久しぶり、望月さん」

 声のする方を振り返ると……えーっと、これは確か……あ!

「北村くん?」
「アタリ! 嬉しいねー、覚えててくれたんだ」
「やだ、スゴい久しぶり! あ、でも覚えてたっていうか、今日ちょっと話題になったから」

 と言ってから気付く。待て待て、北村くんがいると言うことは、だよ?

「てめー。俺ら見つけても来んなっつっただろーが!」

 やはり! やはりいたかっ!

「え? 何よ。どういう事!?」

 北村くんが私と不機嫌大爆発の男を交互に見る。その不機嫌男はもちろんそう、宮司。
 うーん……なんでちゃんと出会っちゃうんだろうなぁ!

「こいつ、今うちでバイトしてんの」
「あぁ、ケーキ屋さん? へぇ……いいねぇ、望月さん」
「いいねぇ、じゃねーよ……つか帆波! お前、何一人でほっつき歩いてんだよ」
「え? え? どゆ事!? 望月さん、ひょっとして彼氏と来てんの?」

 あぁ……なぜそこまでってくらい金魚すくいに夢中になってた連中、おそらく元同級生とかそういうのらしきヤツらまでこっちに注目だよ。おいおい、どうしてこうなる!?

「あれー? 望月じゃん」
「浴衣浴衣ー」

 馬鹿の大合唱状態。もう何を言ってるんだか全然聞き取れない。意味わかんない。

「あーまぁ、ね。今ちょっと手が離せないらしくて、先に移動してるとこ」
「おやまぁ……浴衣の彼女を一人で野に放つとは。大胆な彼氏さんだねぇ」

 冷やかすように、でも真顔でそう言った北村くんが宮司を見る。なぜそこで宮司を見る?
 彼氏という言葉に反応したアホ共が大騒ぎになっている。
 宮司はさらに不機嫌な顔になって、北村くんはどこか含みのある笑顔で私に言った。

「まぁ冗談はさておき。気を付けなよー、望月さん。けっこう今日はあっちこっちで派手にやってるから」
「そうね。私みたいのでも何回か声かかったよ」
「ほらねー。アブナイアブナイ」

 北村くんの言いように宮司がまた舌打ちをした。まぁ接客中じゃないからいいけど。

「どこらへんまで行くの? 一人で大丈夫?」
「大丈夫だよー。平気平気」
「そうかぁ? 俺ら、ついていこうか? なぁ、諒太郎」
「余計なことすんなよ。どうせすぐ彼氏来んだろ?」

 来るよ、以外の返事を許さない宮司の視線。こえーぞ、馬鹿!

「まぁ、そうね」
「ほら。変な気ぃまわすな、真咲」
「へいへい……」
「ほら、早く行けよ」
「言われなくても行くわよ。じゃーまたね、北村くん」
「またね。今度はクラス会でも開いてさ、ゆっくり話そ」
「その時は連絡して。アドレスはそいつが知ってるから」
「りょ〜か〜い!!」

 ふざけて敬礼の真似をする北村くんに、宮司が蹴りを入れている。北村くんが気の毒過ぎるよ、もう。
 金魚と戦ってる連中とも手を振って別れ、しばらく歩くと池に出た。いつもはライトアップされている池の周辺も、今日は花火を楽しむためにとほんのり暗い。縁日の灯が水面に揺れている。
 緩やかなアーチを描いている中橋をゆっくりと渡り始めたところで、ヒューッという音の後に辺りがパッと明るくなった。続けてドドンっと大きな音。私も含め、周りの人達も皆一斉に足を止めて空を見上げる。
 パチパチという火の粉の弾ける音の残る中、一つ、また一つと暗い夜空に大きな音を伴って大輪の花が咲き始める。歓声が沸きあがり、拍手をする人も中にはいた。
 私は足を止め、そのまま橋の欄干に手を置いて空を見上げた。

 うわぁ……スゴい。
 それ以外の言葉を失ってしまう。音と光がほとんど同時なんて、こんな花火はいつぶりだろう。
 メイン会場の方からスポンサーの名前や花火の説明などのアナウンスが聞こえてくる。ほとんど何を言っているのか聞き取れないそれをBGMに、花火が次々に夜空を彩っていく。
 その様をぼんやりと眺めていると、誰かが横にふっと自然に並んだ。
 浩一さ……じゃない。こ、こいつは……っ!!