無料着うた 6.歪み

歪み


「大丈夫ですか、ユウヒ」

 そう声をかけてきたのは青龍だった。

「うん。話は聞いてたでしょ? そういうわけだから出てきてもらったの。ありがとね」

 ユウヒは笑みを浮かべてそう言うと、四人に歩み寄って一人ずつ声をかけた。
 そしてぐっと顔を上げると、改めてジンとカロンの方を見た。

「紹介した方がいい?」

「い、いや。いい……」

 ジンはただそう言ってカロンと顔を見合わせると、剣をその場に置き、恭しく片膝をついた。

「数々の無礼な振る舞い、お許しください、蒼月。四神の方々におかれましても、お目にかかれぇっ…っ、いってぇぇっ!!!」

 最高の敬意を表し、頭を下げたまま下を向いて話すジンに、ユウヒはずいっと前に出て、次の瞬間その後頭部に向け、高くあげた手を思い切り振り下ろしていた。

「ユウヒッ!」

「お前、何やってんだよ!」

 驚いた玄武と白虎が、思わずユウヒの腕をつかんでそれを止めた。

 戸惑ったように叩かれた部分をさすりながらジンが顔を上げると、憤慨したようにユウヒがジンとカロンを見下ろしていた。

「何よ、それ。ジン、あんたずっと私が何者かって、ずっと…ずっとわかってたじゃない。なのになんで? なんで今さらそんな事すんのよ?」

「わかってたから何だ、全然違うだろう? 王だって確認した以上、敬意を表すのは当たり前だろうが! それにお前、四神も…」
 負けじと言い返すジンの目の前に、掴まれた腕をふりほどいてユウヒはしゃがみ込んだ。
 そして悔しそうにジンの胸倉をつかむと、懇願するように言った。

「もう絶対こういうのはやめて。そういうの受け入れなくちゃいけない時が来るのはわかってる。でも私はね、蒼月である前にユウヒなんだよ。こんなのされる筋合いはない」

「…言ってること、めちゃくちゃだぞ、お前……」
 呆れたように言ったジンの顔に、いつもの薄笑いが浮かんだ。

 それを見て安心したように一息ついたユウヒは、ジンを掴んだ腕を離し、後ろでうろたえる玄武と白虎に手を上げて大丈夫だと合図した。
 そしてまたジンとカロンの方に顔を向けると、ばつが悪そうに声をかけた。

「ごめん…でも本当にそういうのやめて。えっと、その…蒼月だって、信じてもらえた?」
 立ち上がりながらジンとカロンは頷き、立ちあがろうとするユウヒに手を貸した。
「信じるもなんも…あぁ、あといっぱいいっぱいなのはわかるが、いきなり叩くな。俺だって叩かれりゃ痛い」
 ジンがそう言ってにやりと笑うと、ユウヒが照れくさそうに笑って頭を下げた。

「ごめん。なんかもう敬意だか何だかわかんないけど、ジンが私に片膝つくの見たら本当に悲しいような、なんかすごく腹が立って…」
「もういいって…叩かなきゃもっと良かったんだが…」
 そう言うと、ジンは同情しきった表情で四神の方を向いた。

「あなた方も苦労しますね」

 ジンからそんな風に声をかけられると、四人は顔を見合わせて笑った。

「そんな事はありませんよ。私達は叩かれませんし…」
 そう言って笑う朱雀に青龍が頷いて口を開く。
「苦労どころか、楽しく過ごさせていただいてます」
「でもなぁ、最初会った時のユウヒは、すっげぇ怖かったよな!」
「白虎っ!」
 白虎の言葉を玄武が慌てて制し、朱雀と青龍がまた顔を見合わせて笑った。

「あぁ、もう。そういうのはいいから! ジン、話を戻すけど、いいかな?」

 ユウヒが言うと、笑いこらえて顔を歪めたジンが、ちょっと待てというように手を軽く上げた。

「先にこっちから一ついいか、ユウヒ。昨日店に来たお前の友達だが…あいつは…」
「あぁ、そうだ。スマルは土使いだよ、あいつにもそれは言ってある」
「そうか…わかった。じゃ、お前の質問に答えるとするか」

 その言葉に応えるようにカロンが頷き、ジンはあらためて燃え盛る炎の方に目をやった。

「あそこで荼毘に付されている者はなんだ? って、言ってたな」
 確認するかのようにユウヒをのぞき込むジンに、ユウヒは黙って頷いた。

「お前が今のこの国の状態をどこまで知っているのかはわからんが、質問の答えから言えば、こいつは生贄としてこの森の妖達に差し出されたもんだ」
「えっ?」
 その言葉に、ユウヒはジンから視線を逸らすことができなくなった。

「今、生贄って言ったの?」

 聞かされたばかりのその言葉を、ユウヒは頭の中で何度も何度も反芻する。
 戸惑うユウヒに向かって、ジンは追い討ちをかけるように再度口を開いた。

「…なぁ、ユウヒ。お前はこれだけ長い蒼月不在の間、なんであんなに虐げられてる妖達がおとなしくしてんのか、考えた事はあるか?」