ジュエリーネイル 札幌 中古住宅 5.漆黒の翼

漆黒の翼


「サク?」

「そうだ。サクだ」

 思わず聞き返したユウヒに、ジンが即答する。

「知ってるのか?」
 ジンが聞き返すと、ユウヒは目を逸らしたままで答えた。

「名前だけ…」

「そうか。サクは漆黒の翼を動かしてはいるが、俺達がそうだとは知らん。本来なら四本あるはずの翼も今は三本、うち一本は行方不明だ」

 ユウヒが詳しく聞いてきたわけでもないのに、ジンの話は止まらなかった。
 カロンが少し戸惑ったようにジンを後方から見つめていたが、ジンはその視線を気にする様子もなく話を続けた。

「翼は国内や周辺の国に信用のおける部下や情報屋を何人か持っている。それを俺達は羽根と呼んでる。カロンと一緒に来た女を覚えているか?」

 問われたユウヒが、少し考えてから頷く。
 ジンはまた話を続けた。

「あれは主にカロンが使ってるガジットの羽根だ。お前の郷のホムラにも羽根はいる。どれだけ俺達の行動に関わっているかって程度の差はあるにしろ、羽根ってのは俺達にとっちゃなくてはならねぇ重要な存在だ」

 そう言うと、ジンは何やら意味ありげな視線をカロンに送った。
 その視線に気付いたカロンは、照れたような顔をして慌てて下を向いた。

「何?」

 ユウヒが不思議に思ってジンに訊ねると、ジンは銜えていた煙草を炎の中に投げ入れ、より一層にやけた表情を見せて言った。

「カロンにとっちゃ、羽根は特に重要なもんだからな。なぁ!?」
「ちょ…っ、今はどうでもいいでしょう! 話を続けて下さい!」
 ジンが言った言葉にカロンはひどく動揺しているようだったが、ユウヒはとりあえずカロンの言うように話を進めようと思った。

「で、ジン?」

「んー?」

 声をかけたユウヒに、ジンがとぼけたような返事をする。
 ユウヒは苛々している自分を隠そうともせずに言葉を続けた。

「この炎の中の…」
「いや、先にお前が何者かを聞こう」

 ジンはユウヒの言葉を遮った。

「そういう約束だっただろう? 俺達の正体は明かしたんだ。いまいち嘘臭ぇってのは否定しないが、俺は嘘は言っちゃいねぇ。だから今度はお前の番だ、ユウヒ」

 そう言ってまっすぐ自分を見ているジンの視線を、ユウヒは真っ向から受け止めた。

「はぁ…わかったよ。どっから言ったらいいのかわかんないけど、正体から明かすなら、私はどうやら蒼月ってことになるらしい」

「…やっぱりな」

 ユウヒの言葉にジンはそうつぶやくと、カロンの方に視線を送った。
 カロンの表情は緊張で強張っていたが、それでもユウヒの方を見て一言言った。

「証拠は、ありますか?」

 ユウヒは驚いたようにカロンの方を振り返った。

「証拠?」

「はい、証拠です。我々は真の歴史を記した書物などで蒼月の存在については知っています。ただ、ユウヒがそうだという…それを証明する何かが欲しい」

「証明、ねぇ…」
 困ったようにユウヒが言うと、ジンが申し訳なさそうに付け加えた。

「悪ぃな、ユウヒ。俺はお前と初めてあった時に、肩から肘にかけての蒼い炎のような痣を見てる。ただそれもその時っきりでそれ以降は一度も見た事がねぇ。別に疑ってるわけじゃねぇんだが、お前が蒼月だっていう確固たる証拠が欲しいんだ」

 ユウヒは言葉に詰まり、二人の視線から逃げるように思わず目を閉じた。

 ――さて、どうしようか…?

 ユウヒが腕を組み、目を閉じて考え込んでいると、その内側から朱雀の声が聞こえた。

 ――ユウヒ、私達をお呼びになって下さい。

 ――え…でも……っ!

 もしもジンの話が嘘だったとしたらどうなるか、ユウヒは一瞬迷った。

 ――大丈夫ですから。

 ――……わかった…そうさせてもらうよ。

 ユウヒは意を決して目を開き、ジンとカロンを見つめた。

「わかった…証拠を見せるよ」

 ユウヒはそう言うと、炎から少し離れた場所に立った、
 その途端、ジンとカロンが緊張のせいか、身構えたように見えた。

「白虎! 朱雀! 青龍! 玄武! 皆、出てきて」

 その声に応えるかのように、炎を受けて伸びたユウヒの影の中から黒い塊のようなものが湧き上がり、その一つ一つがやがて人間の形をとり始めた。
 それぞれが放つ気のようなものが、夜の森では明るく光っているかのように見える。
 息を呑み、絶句するジンとカロンの前に、見目も美しい四人の人物が姿を現した。

「ここにいる四人が、私が蒼月であると証明してくれる」

 そう言って振り返ったユウヒの許に、呼び出された四神はすっと片膝をついて敬意を表す。
 目の前の主を見る目は信頼と愛情に満ちて、その絆の強さは疑う余地もない。
 立つようにと促された四人は指示通りに身体を起こし、ユウヒの背後に付き従った。

 国を守護する四神を従えて立つ姿は、まぎれもなくその者こそがこの国の真の王、唯一無二の存在「蒼月」である事を証明していた。

「これでいいかな? ジン。カロン」

 初めて目にする四神の姿にジンもカロンも言葉を失い立ち尽くしている。
 ユウヒは後ろに従えた四人の方を向き、お互いの気持ちを確認するように顔を見合わせて頷きあうと、ジンとカロンの方に向き直り、息を大きく吸い込んで言った。

「この者達、国を守護する四神は常に私と共にある。私はこのクジャの王、蒼月だ」