言われてみればあまりにも尤もな疑問だった。
ユウヒがどう答えたものかと言葉を探していると、すぐ横にいた朱雀が言葉を継いだ。
「そこを全て話すとなるとまた長くなるのですが、一つ言えるのは現在のクジャが本来の姿ではないという事です。もう大昔のことになりますが、私達四神は友でもある黄龍という者と決別して、王として蒼月を立てました」
「黄龍?」
スマルが首から提げた勾玉を思わず握り締めてつぶやいた。
「はい、その黄龍です。私達は黄龍を失うことで、同時に五行のうちの一つ『土』の力をも失うことになりました。蒼月は人間です。そのような力を持とうはずもなく…ですがその頃から不思議な事に王の出る郷、つまりあなた達のホムラ郷ですね。そこから蒼月となる者とは別に、生まれつき大地と対話でき、大地の力を操ることのできる者が出るようになったのです」
それを聞いてまたスマルが口を開く。
「その土使いだって人間だ。王として立ち、土使いとしても生きていく…この二つの運命、一人の人間が背負うには大きすぎるって事ですか?」
「それは何ともわかりかねます。蒼月はともかく、土使いの出生に関しては、私達からの働きかけがあったわけではありませんから。ですが、蒼月と我々四神、そしてその土使いの者が力を貸してくれることにより、この国はどうにかこれまで続いてることができたのです。この国の『大いなる意思の力』がそうさせたのだろうと我々は考えています」
そう付け加えたのは青龍だった。
「大いなる意思の力、ですか?」
スマルが不思議そうに訊ねると、青龍が頷き、そのまま続けた。
「この国でそれがどう言われているのかは存じませんが、このクジャがあり続けるために存在する何かがあるように思うのです。あの…そういうの、わかりますか?」
不安そうに聞き返す青龍に、スマルはゆっくりと頷いた。
青龍はホッとしたような顔をして、また口を開いた。
「これはあくまで仮定なのですが、この国を護っていくために必要だから、土を司り、大地を操る力を受け継いだ者が、王を支える者として生まれ出るのではないかと、そう思っています」
「なるほどな…でも聞けば聞くほど到底俺に務まるとは思えないな…ユウヒ、お前どう思う?」
いきなりスマルに話を振られてユウヒがビクッと体を硬直させた。
「…ユウヒ? どうかしましたか?」
心配そうに朱雀が覗き込むと、ユウヒは赤い顔をして両手を顔の前でぶんぶんと振った。
「あぁ…な、何でもない、何でもないよ。続けて…って、あれ?」
要領を得ない返事にスマルの眉が一方だけぴくりと動く。
「おい、ユウヒ。お前また…」
「あぁぁぁぁぁ、いいからいいから。で、ごめん。なんだっけ?」
慌てて聞きなおすユウヒを不思議そうに四神が見ている。
スマルは呆れたように溜息をつき、先ほどの問いをもう一度繰り返した。
「俺にそんな土使いなんて大それたもんが務まるのかって、お前はどう思うかって聞いたんだよ」
「あぁ、そっかそっか。えっと、そればっかりは私にもわかんないな。だってスマル、その黄龍の涙を持ったからって、何も起こらないって、そう言ってたよね?」
ぎこちなく何かをごまかすようにユウヒが言うと、スマルが溜息混じりに答えた。
「あぁそうだ。いったい俺に何ができるんだかって疑問しか浮かばないな」
「それだったら…」
今度は玄武が口を挟んだ。
「問題ないでしょう。生まれつき与えられた力とは言っても封印されていますからね。我々の手によって解放しない限りは何も起こらなくても不思議はない」
「そう…いうことか…」
「そういうことです」
納得したように言うスマルの言葉に玄武が答えて笑みを浮かべた。
「封印の解放はまたの機会にするとして…ユウヒ、話の先を…」
玄武に促されてユウヒが頷き、スマルの方に向き直ってまた口を開いた。
「土使いの力とやらに関しては四人にまかせておけば問題なさそうだね。さて、五行の話はしたし…あとは…」
「…あとは?」
少し言い淀み、言葉を呑みかけたユウヒに気付き、スマルが先を促した。
「ほら、同じとこで詰まってんなよ。それ聞くために俺はここまで来たんだ」
スマルはそう言って腕組みをすると、ユウヒから視線をはずすことなく話を続けた。
「さっきからずっとそうやって一人で考えてるよな。けど俺がどう思うかなんて、伝える前から勝手にいろいろ考えんな、ユウヒ。四神と並ぶ一角ってだけでも、もう十分驚いてんだ。今さらもう何でも来いだろ、ほら…」