神の遣い


 ユウヒは何から話そうか迷っていた。

 この国を守護する四神の事。

 この国を支える五行の事。

 ――そして神の遣いが、スマルがいったい何者なのかという事。

 全て知ってもらった上で、これからユウヒ自身がしようとしている事を説明しなくてはならない。
 伝えなければならない事はあまりにも多かった。

「黄龍の涙を持つものは、大地の力を操ることができる。その所有者は土を司る、土使いなんだ」
 何の話をユウヒがしようとしているのか、スマルには全くわからなかった。
「土使いって…いったいそりゃどういう事だ?」
 苦しそうに言葉を搾り出すユウヒの意図を、どうにかして汲み取ろうとスマルは必死だった。

 その様子にユウヒは苦笑しながらも、話の順序を考えながら一つずつ伝えていこうとまた口を開いた。

「私には、私が蒼月という名前をもらってから出会った友人がいる。その人達から私はいろいろな事を教わった。自分が何者なのか、この国がどうあるべきなのか、本当にたくさんの事を教わったんだ」

 心配そうに見つめるスマルに、ユウヒは静かに微笑みかけると、茶碗の酒を少しすすり、また話し始めた。

「スマルも皆に会って欲しいんだけど、いきなりだと絶対に驚くから先に言っておく。会ってもらいたい友人ってのは朱雀、青龍、玄武、そして白虎。この国の守護する四神なんだ」

「……っ!」

 スマルが目を見開き息を呑んだが、ユウヒはかまわず続けた。

「皆は今も私と共にあるけど、ここで呼び出すのはちょっとマズいだろうから。それはまた今度…」
「おい、待てユウヒ」
「え!?」
「待ってくれ」

 スマルが手の平を前に突き出してユウヒの言葉を遮った。

「どうかした?」

 ユウヒが聞くと、スマルは手を上げたままで下と向き、そのままぶつぶつを何やらつぶやいていたが、顔を上げるとうろたえたような声で言った。

「話が途方もなくでかいな…えっと、四神?」
 聞き返すスマルに、ユウヒが頷いた。
「そうか。やっぱりその四神なんだな…」
 スマルは自分の言った言葉をゆっくりと咀嚼し、自分なりに理解すると、また口を開いた。

「それなら俺も知ってる…が、伝説とか、そういうもんだと思ってた。本当にいるのか?」
 ユウヒは力が抜けたようにふっと笑うと、また話を続けた。
「いるよ。皆、スマルに会いたがってる」
「俺に?」
 ユウヒは頷き、また口を開いた。

「そうだよ。どうやら前に森で会った時にはもう、スマルのその首飾りに気付いてたらしくてね」
 ユウヒはさっきスマルに返したばかりの勾玉を指差した。
「それ、私は気付かなかったけど、皆は気付いてたの。それを持ってる人間には、特別な役割があるからって、だから…」

 ユウヒはまた黙った。
 伝えたい事があまりに多すぎて、言いたい事を一気に離す事ができないのだ。
 頭の中を整理しながら、ユウヒは言葉を探した。

「あぁもう…言いたい事が多過ぎて。何から言やぁいいんだよ?」
 頭を掻きながらそうぶつぶつ言っているユウヒを見てスマルが笑った。
「何でもいいから言えよ。わからなかったら訊くから」
 スマルに言われて、ユウヒは頷いた。

「あんた相手に深刻ぶっても仕方がないか。でもちょっと、何ていうか…郷を出る前、私にこれ渡すの、スマルは渋っただろう?」

 そう言って、ユウヒは自分の首から提がっている六角柱の青い玉をスマルに見せた。
 ばつが悪そうな顔をしてスマルが頷くと、ユウヒも同じような顔をしてスマルに言った。

「あの時のスマルの気持ちが、今はすごくよくわかるよ。私も心のどっかで、なかった事にできないかなぁ…なんて思ってるから」
 ユウヒは黙って青い玉を見つめて、そしてまたスマルの方を向いて話し始めた。

「何だかウジウジしてて自分で自分が嫌になるよ。まぁいい…話を続けるよ」

 スマルがゆっくりと頷いたのを確認して、ユウヒも応えるように頷いた。