店内に、またいつもの活気が戻っていた。
料理が上がったというジンの声がして、それに答えるユウヒの声が店内に響く。
そんな賑やかな酒場の前に、慣れない様子できょろきょろと店の中の様子を伺っている二人連れの男がいた。
「ここじゃないのか?」
一人の男がそう言うと、もう一人の男がゆっくりと頷いてから答えた。
「たぶんな。間違っているにせよ、今日はここに入ってみよう」
「だな。さっきからすげぇ良い匂いがしてる。いきなり腹が減ってきたよ」
そう言うと、店の扉をぎぃと音を立てて開け、中に入って行った。
店の中はたいそうな賑わいだった。
時間が遅いせいか満席ではなかったが、それでもまだかなりの数の客が酒を飲みながら大声で話をしていた。
「いらっしゃい! 空いてる所に適当に座って!」
また一組、店を訪ねてきた客をユウヒが声だけで迎え、店の中へ入るように促す。
その声の主を見て、今入って来たばかりの客の一人が驚いたように声を上げた。
「ユウヒ? お前、ユウヒじゃないのか?」
パッと見た雰囲気で常連ではないと判断した客の一人から突然名前を呼ばれ、調理場へ入ろうとしていたユウヒの足が止まった。
「え?」
驚いてその客の方を振り返ると、自分の名を呼んだ男と目が合った。
「お前…キト?」
常連客ではなかったが、そこにはよく見知った男が笑顔で立っていた。
「久しぶりだな、ユウヒ」
「キト! お前、なんでここに…って、そっちはスマルか?」
キトの背後に立つ男に目をやると、照れたように眉毛をぴくりと動かす懐かしい顔があった。
「おぅ」
「キト! スマル…って、お前なんだよ、その髭」
「久々に会ったってのに言うことはそれなのかよ、ユウヒ…これでも前に森で会った時よりはずいぶん減ってんだろうが!」
スマルの言葉にユウヒが笑うと、キトも笑って言葉を続けた。
「最初はよぅ、髪の毛から全部繋がってるみたいな髭が暑苦しくてよぅ。文句言い続けてやっと顎だけになったんだぜ」
「お前…暑苦しいとかって初耳だぞ。何だよこの言われようは…」
キトの言葉にスマルが憤慨したように言い返す。
ユウヒはおかしくてたまらないと言った様子で、皿を落とさないように注意しながらも肩を震わせ、声を出して笑った。
いつもと違う様子が気になったのか、調理場から出てきたジンが後ろから声をかけてきた。
「知り合いか、ユウヒ?」
「あ、はい。郷の友人で、キトとスマルって言います」
簡単にユウヒが紹介すると、キトとスマルは少し畏まってジンに頭を軽く下げた。
ジンは銜えていた煙草を手に持つと、その手をひょいと上げてそれに応えた。
「はじめまして。ユウヒとは同郷で…」
「幼馴染みなんです」
ジンに挨拶するキトの言葉を遮りユウヒが答えた。
「そっか。もうちょっとしたら店の方は落ち着く。そしたら今日は上がれ、ユウヒ」
「え? でも…」
「遠慮するな、ユウヒ」
「…ありがとう。じゃ、そうさせてもらおうかな?」
素直に応じたユウヒに向かってジンは笑うと、また調理場の方へと戻って行った。
その姿を目で追いながら、ユウヒが二人に言った。
「あの人はジン。この店の主だよ。私、ここに住み込みで働いているんだよ」
「へぇ〜。なんか頑張ってんだな」
感心したように言うキトの後ろで、スマルは何とも複雑そうな顔をしてユウヒを見つめていた。
その視線から逃げるようにユウヒは目をそらして、店内を見渡した。
「え〜っと、あそこ。壁際の一番奥の席にどうぞ。飲み物は適当に持っていくから座ってて。今日のお代は私がもつよ」
ユウヒはそう言って皿を片付けに調理場の中に入っていった。
キトとスマルは言われた席まで行くと、向かい合わせに腰を下ろした。