「どうしました?」
青龍が言うと、スマルは困惑した顔でその場の2人に告げた。
「これは…今のは俺じゃない。今のは…今のは黄龍が…」
「黄龍? 黄がどうかしたんですか?」
青龍が聞き返すと、スマルはまだ戸惑った様子で玄武と青龍に事の次第を伝えた。
「何となくわかりかけてきた頃に、突然黄龍の声が聞こえたんです。だらしない、って。これくらい造作もない、って。そしたら…」
「地すべりが起きたってことか?」
玄武が確認するように言うと、スマルはこくりと頷いた。
「俺がやったとは思えません。あれは黄龍がやったんです」
「…そういう事かもしれませんよ?」
青龍と玄武が顔を見合わせていると、背後で見ていた朱雀が声をかけてきた。
「どういう事?」
青龍が訊くと、朱雀はゆっくりと頷き、スマルを見て話し始めた。
「私達が解放したのは、スマル本来の力というより、黄龍の力を引き出す力、なのかなって思ったんです」
「黄龍の力?」
スマルが聞き返すと、朱雀はまた頷きそのまま続けた。
「そうです。今までは考える必要がなかったから誰もわからなかったけれど、土使いの力っていうのは、そういうことなんじゃなないかしら?」
「土使いの身体を媒体にして、黄が力を貸してくれている、ということか?」
玄武が言うと、スマルが口を挿んだ。
「たぶんそうだと思います。あの…今の感覚をまだ覚えてるうちに、もう一回…何か試してみてもいいですか?」
驚いたように朱雀、玄武、青龍がそろってスマルを見たが、スマルにはもう戸惑った様子も迷いもなく、三人をまっすぐに見つめ返していた。
「そういう事なら、やってみましょう。白虎は、また立たせますか?」
青龍が訊くと、スマルは首を横に振り、必要ないと答えた。
「わかった」
玄武が頷き、青龍、朱雀とともにスマルの後方に下がった。
スマルはそれを確認してまた掌を地面にぴたりとつけて、大きく息を吐いた。
「よし…」
そう小さくつぶやくと、スマルはまた意識を集中した。
そして今度は、それと同時に黄龍に呼びかける。
――黄龍、俺に力を貸してくれ。
念じるように、意識をどんどん集中するスマルは、また暗闇の中に光を見つけるあの感覚を思い出した。
――気付いたか、小僧。よし、いいだろう…。
感心するというよりも、まるで茶化すようなその声は、紛れもなく黄龍のものだった。
その声が聞こえると同時に、スマルは掌に意識を集中した。
その時だった。
スマルが手をついた、その少し先の地面に小さな亀裂が入った。
――よし、いけっ!
そしてその瞬間、スマルが全ての気を掌に集中すると、どんという大きな音がして地面が割れ、ユウヒのいる少し手前までの地面がぼこぼこと大きく隆起した。
「ほぅ…」
感心した玄武から思わず声が漏れる。
隆起した地面の向こう側では、呆気にとられたユウヒが立ちすくんでいたが、その後白虎と共にものすごい剣幕でスマル達の方へ走ってきた。
青龍と朱雀も感心した様子でスマルに労いの声をかけようとしたが、その手を払い除けて白虎とユウヒが割り込んだ。
「危ねぇじゃんかよっ、スマル! 地割れなら地割れって、言ってからやれよ!!」
スマルに飛びついた白虎が、その首を背中側から腕で締め付けるようにして叫ぶと、ユウヒも負けじとスマルの腹に殴りかかる。
「そうだよ、馬鹿ひげっ! びっくりしたじゃんか、危ないなぁ!!」
白虎とユウヒはそう言いながらも、楽しそうにスマルをばしばしと叩いている。
「悪い悪い…本当にうまくいくとは…」
「思っていたでしょう?」
言い訳をしようとするスマルに、青龍が声をかけた。
「うまくいくって、わかってたんじゃないですか?」
追い討ちをかけるように言われて、スマルは観念したように頷く。
「はい…まだ力の加減がよくわかんないんですけど…」
「だろうな。でも、たいしたものだ。俺も驚いたよ」
玄武がそう言って笑うと、青龍と朱雀も顔を見合わせて笑った。
「どうしますか、ユウヒ。もう十分じゃないかと思いますよ」
朱雀が声をかけると、ユウヒはスマルの服を掴んでいた手を離して言った。
「えっと…スマルはどうなの?」
ユウヒに訊かれて、スマルは背中に白虎を背負ったままで答えた。
「もう大丈夫だと思う。俺の力じゃないから、鍛えるとか、そういう類のもんじゃないんだよ」
「スマルの力じゃない? どういう事?」
問い返されて、スマルが続けて口を開いた。
「俺の力は、黄龍の力の受け皿になる事っていうのかな? 俺自体がそういう力を手に入れるって事じゃなくて、黄龍が力を使うための魂の拠り代になるって事なんだよ。土使いって、結局はそういう事だったんだな」
白虎がスマルの背から降りて、その言葉を確認するようにスマルをのぞき込む。
スマルが頷くと、他の四神達も念を押すかのように大きく頷いた。
「そっか。じゃ、このへんでいいか…どうする? 帰る?」
ユウヒに言われてスマルが頷く。
「ちょっと買いたいものもあるし、戻ろう、ユウヒ」
「わかった。皆、ありがとう、もう大丈夫みたいだ」
ユウヒがそう言うと、四神は嬉しそうに笑みを浮かべて、その影にすぅっと吸い込まれるように消えていった。
「私達もいこっか?」
ユウヒはそう言って、きょろきょろと辺りを見回して手を上げた。
すると、来る時に乗ってきた騎獣達が、嬉しそうに近寄ってきた。
「帰ろう、スマル」
ユウヒはそう言って騎獣に飛び乗り、大地を蹴って宙へと駆け上がる。
スマルもそれに遅れないように、騎獣に乗って宙へと浮かび上がった。
眼下にある、つい先ほどスマルが作った地割れを二人で見下ろし、少し寂しそうな笑みを互いに浮かべると、黙ったまま、都に向かって守護の森の空を風に乗って駆け出した。