封印解放


「スマル。あんたもう大丈夫?」

「ぁあ? あ、あぁ大丈夫、大丈夫だ。問題ない」

 ユウヒとスマルの顔に緊張が戻ってくると、その雰囲気は四神達にも伝わった。

「皆はどうなの? 封印解放のあとって、疲れとか…大丈夫? なんか模様が出てるじゃない」
 ユウヒに心配そうな顔で訊かれて、四神は皆、顔を見合わせて問題ないと頷いて答える。

 それを確認したユウヒは安心したように一瞬だけ笑みを浮かべ、またすぐに緊張した面持ちに戻るとスマルを見て言った。

「スマル。大地の力とか、私にはよくわからないんだけど、どうにかそのあんたの中に眠ってるっていう力を呼び起こして欲しいの。これからそれが必要になった時に使えないような困るし…まぁそんな時が来るかどうかもわかんないんだけど」
「言いたいことはわかる。で、俺はどうすれば? 白虎の言うように腹に妙な熱は感じるが、それ以外にはこれと言って変化も何も俺には感じられない」

 スマルの言葉にユウヒは四神の方を向き、どうすればいいのかと首を傾げて答えを催促する。
 すると白虎が申し訳なさそうに口を開いた。

「俺達は封印を解いただけ、扉の鍵を開けてやったようなもんなんだよ」
「えぇ!? あんなに派手にやらかしといて? …ぁ!」
 ユウヒが呆れたように本音を漏らし、慌てて口を塞ぐ。
 思わず噴出しそうになった青龍が、笑いをこらえながら先を続けた。
「はい…あれだけやらかしてそれだけなんですよ、ユウヒ。…くっ、あ…すみません…で、ですからね、中のものを取り出すのはスマル自身に頑張ってもらうしかないんです」
 どうやら口を開くと笑いがこみ上げてくるようで、青龍は衣服からむき出しになっている腹を両腕で抱えるようにして下を向き、肩を震わせて必死に笑いを堪えていた。

「ごめんってば、アオ。でも、えっと…そういうことなら、やっぱりここでどうにかしてから都に帰りたいな。どうしよう?」

 ユウヒが居並ぶ面々の顔を順に見つめると、玄武が何か思い付いたように口を開いた。

「実際に力を使ってみる、とか? 何か一つできれば、あとは同じようなものだと思うんですが…」
「力を、ねぇ…うん、いいかもしんない。私とかスマルみたいな感覚人間は、頭で理解するよりその方が早い」
「何だよ、それ。褒められてる気がしねぇんだけど…」

 ユウヒの言葉にスマルが言い返すと、白虎がしきりに頷いてから言った。

「いやいやいや、ユウヒの言うとおりかもしんない。ユウヒも実際にやって見せてからはあっという間だったし…」
「だからって俺もそれでうまく行くかどうかなんて」
 スマルが戸惑ったようにいうと、ユウヒがスマルの肩を勢い良く叩いて言った。
「いや、たぶんうまく行く。それに本当に感覚的なもんなんだよ、感じ取って、自分で見つけてもらうしかないんだ、スマル」
 確信に満ちた顔でまっすぐに見つめてくるユウヒに、スマルはごくりと音をたてて息を呑む。
「わかった。やってみるわ」
 スマルはそう言って肩に置かれたユウヒの手をスッとはずすと、玄武の方を見た。

「あの、どうすりゃいいんっすか?」

 そう問われて、玄武は少し何かを考えた後、顎をしゃくってこっちに来るようにスマルを促した。

 玄武とスマルが歩き出し、それに他の三人が続く。
 ユウヒはその場に残って、五人の背中を見つめていた。
 少しだけ離れた場所で立ち止まった五人は、丸く円を描くようにその場に腰を下ろした。

「さて…スマル」

 玄武に呼ばれてスマルが緊張したように黙って頷く。

「ここは一つ、地すべりでも、起こしてみるか?」
 愉快そうにそういう玄武に、スマルは驚きの声をあげた。

「地…っ、地すべり、ですか!? いきなりそんな…」
「大丈夫! できるよ、スマル!」
 白虎が楽しそうにそう言って、スマルの背中を遠慮なしに何度も叩いた。
「で、どうするつもりだ? 玄武」
 青龍が訊くと、玄武は頷き話を進めた。

「これはもうユウヒが言っていたようにその感覚を掴んでもらうしかないんだよ。スマル、さっき黄の言葉を思い出した時の、あの感覚を思い出して欲しいんだよ。できるか?」
「黄…龍の、ですか? えぇ、できると思います」

 スマルの返事に玄武が頷く。

「あれが『知る』という感覚だ。思い出す、と言ってもいいかもしれない。自分にはわかるんだ、できるんだと信じる。微塵も疑う事なくそういう自分を思い描く。あの時、なんで黄の言葉がわかったか、思い出せるか?」

 玄武に訊かれて、スマルは目を閉じてあの時の事を思い出そうとした。
 ほんの少し前の事だから、その感覚はまだ身体に残っている。

 スマルは目を開いて言った。

「なんか…言葉を聞き取ったってんじゃなくて、わかったんですよ。言おうとしていた事を感じ取ったっていう方が正しいかな?」

 その答えを聞いて青龍と朱雀が納得したように顔を見合わせて頷くと、それを見て玄武がまた口を開いた。

「そう、それ。その感覚をよく覚えておいて。じゃ、手始めに…この森の声、聞いてみるか」
「え? 森の声、ですか?」

 また戸惑ったような声をあげるスマルに、青龍が声をかける。

「大丈夫。あなたには覚悟がある。私達と共に五行の一角を成そうとする覚悟が…だから、大丈夫。できますよ」

「はぁ…」

 溜息とも何ともつかぬ声を漏らして、スマルは辺りを見渡した。