覚悟


 布袋を持つユウヒの手がピクッとして止まる。
 依然として顔を四人の方に向けないままでユウヒが問い返した。

「違った時間? どういう事?」

 ユウヒは四人に背を向けてはいるものの、その全神経がこれからの答えに向いていることは明らかだった。

「その蒼月がどう国を治めていくかにもよるのですが、国にとって良い王であればあるほど、そこに流れる時間はとてもゆっくりとしたものになります」

 朱雀は一気にそう言うと、そのまま不安そうに他の三人の方に視線を投げた。
 なかなか顔を向けようとしない主の様子を気にしつつも、発言に問題はないだろうと皆で頷き合い、ユウヒの方に視線を戻した。

 ユウヒは布袋の口を締めて、四人の方にゆっくりと向き直った。

「もうちょっとわかりやすく。つまりどういう事?」
 少し苛立ったような雰囲気でユウヒが聞くと、それには青龍が答えた。
「つまり、その王の治世が少しでも長きに渡って続くようにと、老いていく早さが人よりも遅くなる、ということです。不老不死というわけではありませんが、その一生は人間のもともとのそれに比べて、ずいぶんと長いものになります」

「……そう…」
 ユウヒは立ち上がり、四人の座る場所まで戻ってきた。

「わかった。そうね、確かに王だけ残っても、五行の均衡が崩れるようじゃ困っちゃうしね、まぁ、そうなるのが当然なんだろうね」
「…はい。あの、ユウヒ? 大丈夫ですか?」

 心配そうに声をかけたのは玄武だった。

「クロ…ありがとう。何かね、自分だけの問題だって、私が踏ん張ってりゃまぁどうにかいけるかなぁってやっと思えたところにさ、他の人を巻き込んじゃってるんだって事にちょっと驚いちゃって…でもまぁ、大丈夫…と思う。かなり複雑だけど」
「ユウヒ…」
「大丈夫大丈夫、そんな顔しないで。ただ、土使いの人がスマルであれ、他の人であれ、その人に今の話をするのはちょっと、勇気がいるかもね」
 そう言って笑うユウヒの顔は少し沈んでいて、四神はよりいっそう心配そうにユウヒの顔を覗き込んだ。

「ユウヒ、本当に大丈夫か?」

 そう声をかける白虎の前を通り過ぎ、ユウヒはまた四人に囲まれた中心に戻るとおもむろに横になり、頭の後ろで腕を組んだ。

「はぁ…そんなにだめそうに見える?」
 ユウヒが心配そうに覗き込む白虎に声をかける。
「見える!」
 白虎は即座に答えた。
 ユウヒの顔に思わず笑みがこぼれ、そしてそのままゆっくり目を閉じた。

「なんだかねぇ、自分でもどうしていいのかわからないよ。気分がさ、浮いたり沈んだり、全然思うようにならないよ」
「そっか…」
 白虎が相槌を打った。
 ユウヒは目を閉じたままで話を続けた。
「でも、私一人じゃもっと大変だっただろうな。皆がいてくれて、本当に良かった。出会ってからまだそうは経っていないけれど、でも本当に心から皆といられて良かったと思うよ。ありがとう」

 返す言葉が見つからずにいる四人が照れくさそうに笑うと、眠りに入ろうとしているユウヒにもその雰囲気は十分に伝わった。
 ユウヒは少し眠たそうに言葉を続けた。

「土使いが誰だかわからないけど、わかったらすぐに皆を紹介しなくちゃね。いろいろ不安はあるけど、一つずつ片付けてくしかないし…まずは森を出て、土使いを探そう」

「はい。森を出たらどこへ? いよいよ都へ行かれるのですか?」

 聞いたのは青龍だった。
 ユウヒは首を振って答えた。
「いや、都にはまだ入らない。もうちょっとこの国の現状を知っておきたいんだよ。そりゃね、今すぐにでも都に上がって、王の名乗りを上げた方がいいにはいいんだろうけど…自分の目指しているところと今の状況がどれだけ違うのか、それを先に知りたいんだよ。自分のできる事、やるべき事が何なのかを知りたい」
「そうですか…で、どこか当てでもあるのですか?」

 青龍が再度聞くと、ユウヒがさきほどよりもさらに寝入りそうな声で答えた。

「まぁね。港町のカンタ・クジャに行こうかと思ってるんだよ」
「カンタ・クジャに、ですか? またそれはどうして?」
 玄武が問い返した。