「なんでそうなっちゃうの?」
ユウヒが白虎に向かって聞くと、白虎は自信なさそうに言った。
「いや、手紙には土使いの話が何もなくって、その代わりに俺達が知らない神の遣いの話が載ってたから、何となく…」
「何となく!?」
ユウヒがつい呆れたような声を出し、ハッとしたように慌てて口を押さえた。
その声に少しムッとしたように顔を歪め、ユウヒを睨むように見つめて白虎はさらに続けた。
「それにさ…森で会ったユウヒの友達、いるだろ?」
「え? キトとスマルのこと? それとも別の…」
「いや、スマルってヤツかな? ユウヒと喋ってた髭の…」
「それならスマルだね。あいつがどうかした?」
ホムラ一行を助けに行った時、白虎はユウヒの中に入っていたので、その一部始終をユウヒの目を通して見ていたのだ。
「あいつの首から提げてある石、あれは黄龍の涙って玉じゃないのか?」
「え? 何? その…」
「それにさ、俺本当にびっくりしたんだけど」
「え? 何が?」
何が何だかわからないでいるユウヒと、戸惑った様子の朱雀、青龍、玄武に向かって、白虎は思いもかけない言葉を吐いた。
「あの男、なんであんなにヒリュウに似てんだ?」
「えっ!?」
ユウヒの顔が強張った。
「何? スマルが何だって!? ヒリュウと似てるって…それに何か意味あんの?」
わけがわからず、どうにかユウヒは言葉を繋いでいたが、そんなユウヒを白虎を含めた四神全員は真剣な眼差しで見つめていた。
「それは本当か、白虎」
青龍が言うと、白虎は黙って頷いた。
「そうか…」
青龍はそう言って、何か考えを巡らせているかのように、難しい顔して黙り込んだ。
「えっと、よくわからないんだけど、シロはひょっとしてスマルが土使いだって言ってるの?」
「それは俺もわからない。ヒリュウに似てるからそうかもしれないなんて、そんなの馬鹿げてるって自分でも思う。だけど朱雀の話を聞いてたら、なんかそんな気がしてきたんだよな」
そういう白虎は、何か気まずそうな顔をしてユウヒを見ていた。
ユウヒが見た事もないような、泣きそうな、悲しそうな、そんな顔をしていたのだ。
「なんてな! そ、そんな事ないか。そう何でも簡単に見つかったり片付いたりするわけないよな」
その場を取り繕うように無理に明るく白虎が言ったが、ユウヒはしきりに何かを考えているようで何も反応はなかった。
そんなユウヒを見て白虎が困り果てていると、玄武が静かに口を開いた。
「おい。それは間違いないのか?」
その念を押すような玄武の口調に、白虎の顔から作り笑いがすぅっと消えた。
そしてユウヒの様子を気にして一瞬言い淀んで下を向いたが、すぐに顔を上げて口を開いた。
「玉についてはちょっと自信ないけど…ヒリュウに似てたっていうのは間違いないよ」
「そうか…」
そうつぶやいて玄武が青龍に目をやると、青龍は黙って頷きユウヒに声をかけた。
「まだそうと決まったわけではありませんが、一度会ってみる必要はありそうですね」
「神の遣いか確かめるっていうこと?」
「…土使いかどうか確かめるということです」
聞き返したユウヒの言葉に青龍がすぐに答えた。
「黄龍の涙をもしも所有しているのだとすれば、彼が土使いである可能性は非常に高くなります。第三者から譲り受けたのではなく彼自身の物であるとすれば、彼が土使いだと見てまず間違いありません。それを確かめたいのです」
そう念を押されて、ユウヒはびくりと身を強張らせた。
ユウヒの中で何が起こっているのかわからない四人は、ただ黙って主の様子を伺っていた。
四人に見つめられる中、ユウヒは手にしていた祖母からの手紙を元のようにくるくると器用に巻くと、紐でささっと手早く結わいて留めた。
それを手にスッと立ち上がると、荷物を入れている布袋のところまで歩いていき、その中に手紙をごそごそとしまいこんだ。
その間ずっと無言でいるユウヒの背中を四人が心配そうに見つめていると、背を向けたまま、つぶやくような小さな声でユウヒが言った。
「土使いだと、何かあったりするの?」
なかなか顔を向けようとしないユウヒに、迷いながらも朱雀が返事をした。
「これは、まだユウヒにも言っていなかった事なんですが…」
「…うん、何?」
朱雀は一息ついてから言った。
「王である蒼月と、五行の一要素であるその土使いの者は、それまでとはまた違った時間を生きることになります」