「そうか…でも、私にはそんな力あるとは思えないし…」
青龍が苦笑し、代わりに玄武が話を続けた。
「そうですね、ユウヒには…と言いますか、蒼月にはそういった力は備わっていません。蒼月を王として立てるようになった時点で、私達は五つの要素の内の一つを欠くことになりました」
「…黄龍、だったのかな?」
思いついたようにユウヒが言うと、玄武は驚いたような顔したが、そのままさらに話を続けた。
「えぇ、まぁ、そうです。でも黄は封じられていますしね。ただ我々が本来の力を発揮し、さらにこの国を守護する存在であり続けるためには土の要素が不可欠です。その均衡と安定を保つ必要があるからです」
「昔はどうしていたの? 前に蒼月がいた時には、どうやってその欠けた要素を補っていたの?」
ユウヒは興味深げに身を乗り出して玄武に聞いた。
玄武はその様子に少し笑みを浮かべると、また口を開いた。
「大地の力を操る者が、ホムラから出るのです。ヒリュウ殿もそうでした」
「ヒリュウが? え? 大地の力を操るって…呪術の類か何かなの? ヒリュウは禁軍将軍だったんだよねぇ?」
「そうです、禁軍将軍でした。ですが、呪術というふうには聞いておりません。潜在能力のようなものでしょうか? あと、何故そういった者が出るようになったのかも我々にはわかりません」
「え? あなた達がやっているのではないの?」
ユウヒがそう言うと、四人はそれぞれに首を振った。
「違います。それはおそらく…私達は『大いなる意志の力』と呼んでいるのですが、この国を保っていくためにその大いなる意思がそうしたのだろうと思っています」
そう答えたのは朱雀だったが、この言葉にユウヒは首を傾げて考え込んだ。
「ん〜、ちょっとよくわからないな。どういう事?」
「私達もこうだとはっきりした答えがあるわけではありませんが、黄龍の強大の力の一部を受け継いだ者が、王を支える者として生まれ出るのではないかと考えております。それがこの国を護っていくために必要であるから、そうなったのではないかと、そう思っています」
「ん〜。その大地の力をどうこうできるっていう人間も、ホムラから出るんだね?」
「はい。それは間違いありません」
「あの郷にそんな大それた秘密があったとはねぇ、知らなかったなぁ。でも、そんな力を持った人間なんていたかな?」
膝に肘をついて頬杖をつき考え込んだユウヒを見て、四神達は笑みを浮かべた。
「特別な訓練だとか、あるんだろうか? 見かけたことはないと思ったけど…」
「その事なのですが…」
朱雀が口をはさんだ。
少し迷いのあるようなその声が気になってユウヒは、朱雀の方に向きを変えた。
「何?」
「はい、あの…思い違いかも知れないのですが、気になることがあるのです」
まだ話すべきか迷っている朱雀に向かって、ユウヒは笑みを浮かべて先を促した。
「かまわないから言うだけ言ってみて、アカ」
「はい。実はその、ユウヒのお婆様からの手紙にまで話が戻るのですが、よろしいですか?」
驚いたようにユウヒは目を見開いたが、すぐに頷き、先を話すように朱雀に言うと、手紙を取りに立ち上がった。
ユウヒに促され、朱雀は、では…、と話し始めた。
「以前、と言っても二百五十年前までの話ですが、王の下には必ず土使いが存在しました。先ほど言いましたヒリュウ殿もそうです。ただ、お婆様の手紙にはそう言った類の話には、全く触れられていませんでしたよね?」
そう言われて、ユウヒは改めて祖母からの手紙を紐解き、順に目を通したが、朱雀の言うとおり土使いについての記述はどこにもなかった。
ユウヒは顔を上げて朱雀に向かって頷いた。
朱雀はまた話を続けた。
「ただ、その手紙には我々の知らない話も載っていました。それがその神の遣いについての件です。私達が蒼月に仕えていた昔、神の遣いなどという者の話は聞いたことがないのです」
ユウヒは驚いてもう一度手紙に目を通した。
――お前が生まれる前の年、神の遣いと言われる子がホムラの郷に生まれたんだ。
もちろんみんなただの迷信だと思っていたし、この言い伝えに隠された真実を知っている者はほとんどいない。
だが私にはわかってしまったんだよ、この先1年ほどの間に生まれる子どもの中に、この国の王がいるんだって事がね。
そしてお前が生まれた。――
「この手紙を見る限りでは、神の遣いが生まれるとそれから一年以内に王となる運命の赤ん坊が生まれるって、そういう事みたいだけど…違うの?」
ユウヒがもう一度手紙の内容を告げると、朱雀は困ったような顔をして頷いた。
「違うとも何とも私には言えませんが…昔はそのような話がなかったというのは事実です。それはもう、間違いありません。ですから私は、何か別の話が形を変えてそのように伝わっているのではないかと考えたのです。何か伝えておかなくてはならない何かが他にあったのではないかと…」
「それって、土使いの話が神の遣いの話に変わったのかもしれないってことか?」
朱雀の仮定を聞いてボソッと吐かれた白虎の言葉にユウヒが驚きの声を上げた。