昨日の張り詰めたようなやりとりが嘘のように、穏やかな空気が流れていた。
ユウヒは祖母からの手紙を四神に渡すと、まずは質問よりも自分の事を四人に話していた。
祖母のこと、両親と妹のリンのこと、友達のこと。
そして、祭の夜のこと。
自分という人間を知ってもらいたいという、初めて湧き上がってきた感情。
うまくは話せないけれど、言葉を選びながら懸命に話すユウヒを愛おしそうに見つめながら、四神は黙って耳を傾けていた。
「と、まぁ、こんなところかな」
ユウヒはそう照れくさそうに言って頭を掻くと、ふぅっと息を吐いて笑みを浮かべた。
「なんだか妙な気分だよ。私は自分のことを話すのはどうも苦手でさ…」
目の前の朱雀が頷きながら聞いている。
「苦手なんだけど…なんだろうな。みんなには聞いて欲しいって、知って欲しいって思ったんだよね。それに…いろいろ聞きたいのに、自分が何も言わないっていうのも変な話でしょう?」
ユウヒが照れくさそうに笑うと、青龍がつられて笑みを浮かべる。
「そんな事はないでしょう。でも、話して下さったのはとても嬉しい…です」
「青龍、お前固すぎ。ユウヒがさっき…」
白虎が言うと青龍が困ったような顔をして、それを見たユウヒが笑った。
「いいよ、白虎。きっとそれが青龍の普通なんだよ」
「あの…はい。ありがとうございます」
「うん」
嬉しそうに礼の言葉を口にする青龍に向かって、ユウヒも嬉しそうに頷いた。
「ふ〜ん。まぁユウヒがいいならいいや」
白虎がニカッと歯を見せて笑った。
その様子を見ていた玄武と朱雀が、嬉しそうに顔を見合わせて笑っていた。
「で、ユウヒ?」
「ん? 何、青龍?」
「はい。あの…いろいろ私達に聞きたいと言っていたのは?」
「あぁ、そうか…」
ユウヒは少しの間いろいろと考えを巡らせている様子で黙り込んでいたが、 その姿をじっと見つめ、何を聞かれるのかと身構えいる四神に気付き、思わず噴出した。
「ふふっ、そんなに怖い顔をして…あ、そうだ!」
突然ユウヒが思い付いたように顔を上げた。
なぜか困ったように、顔を歪めている。
「どうしたんですか?」
朱雀が訊ねると、ユウヒが照れくさそうに言った。
「あの…ね、呼び方なんだけど」
「はい?」
首を傾げる朱雀に向かって、ユウヒはもごもごと言葉を継いだ。
「幼名のままじゃ、ダメかな?」
「え?」
朱雀がユウヒの顔を驚いたようにまじまじと見つめている。
他の三人も、同様にユウヒを見ていた。
「さっきから、名前を呼ぶたびに妙な汗が出るというか…」
「…? なぜ?」
ユウヒが本当に困った様子でいるので、朱雀もどうしていいのかわからずに顔がどんどん曇ってきた。
周りの気配が少し変わったことに気付いたユウヒは、申し訳なさそうに口を開いた。
「さっきも言っただろう? ずっと神様と教えられてきたのに、いきなりその主だと言われたんだよ? 主だからってそんないきなり…ねぇ、その…」
その言葉を聞いて、四人は顔を見合わせてクスクスと笑い始めた。
「そういうことですか…」
朱雀が笑いながら言った。
「好きに呼べばいいさ、ちょっと照れるけど…」
「そうですね。構いませんよ」
白虎と青龍が続くと、玄武も口を開いた。
「だな…ただ、我々の力を使う時には、名前を呼んでもらうしか…」
「力を使う? どういう事?」
ユウヒが不思議そうに聞くと、玄武がにやりと笑って言った。
「それをこれからお話しようと思ってるんですよ」
そう玄武が言うと、他の三人も頷いてユウヒの方を見た。
ユウヒを囲む四人が、神妙な顔つきに変わった。