木の匂いまで閉じ込めたそのからくり箱の中には、六角柱に加工されたきれいな青い玉(ぎょく)が入っていた。
「うわぁ…きれい……」
ユウヒはそれを手にとった。
丁寧に磨かれた六角形の玉を、日の光が撫でるように照らしている。
光沢を称え、深い青色をした玉は、よく見るとわずかだがその先端が斜めに削られていた。
いったい何のために成された加工なのかと見つめているうちに、ユウヒはある事を思い出した。
「あ、そうだ!」
ユウヒは玉を握り締め洞穴の中に戻り、自分の剣を取り出した。
剣を抜くとその場に二本とも無造作に置き、鞘の先端に付着していた土や埃を掃った。
「やっぱり…」
鞘の先端には、からくり箱から取り出した玉がちょうど収まる六角形の穴が開いていた。
ユウヒは手にしていた玉を、鞘の先端の穴に差し込んでみた。
思った通り、穴は玉の大きさにピタリとあったが、奥まで差し込んでみても何も起こらなかった。
ユウヒは玉を少し回転させて、また同じことをやってみたが、今度もまた何も起きなかった。
そして5度目に玉を差し込んだ時、ついに穴の奥の方に今までとは違う手ごたえを感じた。
「ここだ…」
ユウヒがもう少し奥まで玉を押し込むと、カチリと音がして鞘の寄木細工がきれいにはずれた。
もう一方の鞘にも同じように玉を差し込み、寄木細工を取り外した。
そこには、鞘を補強するかのように、紙がきっちりと巻かれていた。
何かが書いてあるのが透けて見えている。どうやら手紙か何かのようである。
「まったく…手の込んだ事を。よくやるよ、あいつも…」
ひとまず鞘を置き、ユウヒはからくり箱を取りに洞穴の入り口まで戻った。
玉を取り出した時のままに放置されていたからくり箱を手に取ったその時、ユウヒは自分が震えている事に気が付いた。
「覚悟できてたはずなのに…なんだかすごく怖いや」
からくり箱を持った右手の手首を左手でぎゅっと掴む。
そしてもう一度守護の森を見下ろすと、ユウヒは大きく深呼吸をした。
「大丈夫…逃げないって、決めたんだから…」
そう言って自分を奮い立たせて、ユウヒはまた洞穴の中に戻った。
いつの間にか日の光が、洞穴の中にまで差し込んできていた。
そこは思っていたよりもずいぶん広い空間になっていて、その隅に紙が不自然に巻かれた剣が二本置かれている。
ユウヒはその一本を手に取ると、紙が破れないように丁寧に巻き取った。
一本目の紙を巻き取り終えるとそれをその場に置き、もう一方の剣に巻かれた紙も同様に巻き取る。
すべてを巻き取り終えたユウヒは、自分宛のその手紙を大事そうに傍らに置いた。
そして先ほどはずした寄木細工の鞘を2枚合わせ、玉を引き抜いてユウヒは鞘を元通りに固定した。
よく見ると、その六角形の玉には紐が通せるくらいの小さな穴が開けられていた。
ユウヒは剣の柄に付いている紐を数本抜いて、器用に細い紐を編み上げると、玉の穴に通して首にかけられるようにした。
胸元を飾るきれいな玉を満足そうに撫でると、ユウヒは巻き取った紙を二本とも手にして、また洞穴の入り口の方へ歩いていった。
洞穴の外に出ると、吹き上げる風で手紙が煽られてしまう。
そうならないようにユウヒは、洞穴の入り口近くの比較的明るい場所に腰を下ろした。
手紙は二通。そのうちの一つをユウヒは手にして読み始めた。
見慣れた文字の並ぶそれは、祖母でありホムラ郷の年寄り衆の一人でもあるチコ婆からのものだった。
「チコ婆様…」
久しぶりに見る懐かしい祖母の文字に、ユウヒは思わずその名をつぶやいた。
『ユウヒへ』の文字で、その長い手紙は始まっていた。