次にユウヒが気が付いた時には、もうすでに日は昇っており、日の光が暗い洞穴の中をうっすらと明るく照らしていた。
身を起こしてみると、子ども達の姿はもうどこにも見当たらなかった。
ただ不思議とその気配だけは残っているように感じられた。
ふと見ると、妖獣達と闘った際に負った怪我も、折れていたはずの右足もすべてきれいに治っていた。
その右足をさすってみる。
ひょっとすると、すべて夢だったのかもしれないと錯覚する。
少女達との出会いだけではない。
この守護の森で妖魔や妖獣と闘いながら過ごしていた事も、あの日、郷を出てきた事さえも。
心の底にどんよりと横たわるどろどろとした感情の、そのすべてが夢だったのではないかと、そんなふうに錯覚してしまう。
だが、妖獣の返り血を浴びた衣服が、嫌が上にも自分を現実に引き戻す。
体に残る、しびれのような鈍い疲労感が、すべて夢ではないと訴えてきた。
「夢じゃないよね…わかってるさ、そんな事くらい」
返り血を浴びて染みだらけになった衣服を脱いで新しいものに着替えると、ユウヒは洞穴の外に出た。
小高い山のように見える大きな一枚岩の、その中ほどに洞穴はあった。
穴の入り口に立つと、夜になると牙をむく守護の森が、朝日の中で穏やかな深い緑色を輝かせてどこまでも続いていた。
澄み渡る青空の下、明るい日差しが木々を照らし、風が緑の中をゆったりと優しく渡っていく。
ふいに、昨夜の少女の言葉が耳に蘇ってきた。
――姿は見えなくとも私達は常にあなたと共にあります。私達はそういう存在なのです。
少女は自分のことを蒼月と呼んでいた。
あの子ども達は何者で、いったい何をどこまで知っているのか。
様々な謎を残したまま四人の姿は消えてしまった。
「共に、ねぇ…ま、考えてても仕方がないか」
まずは何か食べなければならないし、妖獣との闘いで血だらけとなった服もどうにかしなければならない。
大きく伸びをするともう一度洞穴に入り、多くはない荷物を手早くまとめてまた外に出た。
「この景色を見ながら、一日ここでのんびりするのもいいかな…スマルのからくり箱も、あともう少しで開けられそうだし……」
不思議なほどに気負いが抜けて、気持ちが良い朝だった。
昨晩の四人との不思議な出会いが、また自分の運命を大きく動かした事にこの時はまだ気付くはずもなく、ユウヒは洞穴のある岩場をゆっくりと下りて行き、また森の中へと入っていった。