「ショウエイ様、大丈夫ですか?」
心配そうにホムラがその顔を覗き込み、カナンは手にしている上質な布で、ショウエイの額の汗や、頬の汚れなどを拭いてやった。
「……ありがとう」
そう言って微笑むショウエイに、カナンは丁寧に拝礼して数歩分後ろに下がった。
ホムラはその様子を少し寂しげに見やり、そしてショウエイに話しかけた。
「カナンに薬を持ってこさせましょうか? それともこちらでお待ちいただければ、イルの方を連れて参りますが」
その言葉にショウエイは静かに首を振って言った。
「いや、少し休めば大丈夫。それより……やる事があるのでしょう? さっきから随分と落ち着かない様子だ」
「あ、それは……」
気付かれていたのかとホムラは少しだけ頬を朱に染めて俯いたが、すぐに顔を上げてショウエイに言った。
「それでは……お言葉に甘えさせてよろしいでしょうか」
「……いいですよ。で、どうなさるんです?」
「はい……」
ホムラは小さく息を吐いてから言った。
「王を、シムザを助けに行くんです」
その言葉に、ショウエイは思わず笑みをこぼした。
なんの計算もない、そんな柔らかな微笑みだった。
「……ショウエイ様も、もう大丈夫のようですね」
そう言ってホムラは立ち上がると、カナンに声をかけた。
「カナン、私が出たらここを閉めて。ショウエイ様を頼みます」
「わかりました。ホムラ様、お気を付けて」
カナンの言葉にホムラは笑みを浮かべて頷いた。
「大丈夫よ、カナン。じゃ、あとは頼むわね」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ、わが君」
カナンがそう言って膝をついてホムラに向かって拝礼する。
ホムラは祠の扉のところで振り返って手を振ると、そのまま外へと飛び出して行った。
言いつけ通りにまた施錠して、カナンはショウエイのところに戻った。
ショウエイは術を使い過ぎたせいか蒼褪めた顔をして、ただぼんやりと祠の床を見つめていた。
「失礼ながら……ショウエイ様は女官達の噂で聞くよりも、随分と不器用でいらっしゃいますね。でも、たまにはそのようなところも見せていただけた方が、親しみを感じるといいますか……好感が持てますわ」
ホムラ付きとはいえ、大臣の自分とは比べものにならない程に身分も格も下の女官のその言葉に、ショウエイは思わず噴出し、くつくつと声を殺して笑った。
ショウエイの表情から、暗い影が消えてなくなっていた。
それを見たカナンは安心したように微笑み、そして無礼を詫びて平伏した。
「いいよ、顔を上げなさい。私も……まさか女官に諭される日が来るとは思いもしなかったよ。みっともないところを見せてしまいましたね」
顔を上げたカナンが笑みを浮かべて首を横に振る。
ショウエイもそれに応えるかのように柔らかな笑みを浮かべて、そして静かにつぶやいた。
「どうかこの事は内密に……特に女官達の評判を落とすような事は、どうかあなただけの秘密にしておいて下さいね」
カナンはくすくすと声を立てて笑い、そして目の前の大臣に対して心からの敬意をもって丁寧に拝礼をした。
ショウエイはそれを受けてゆっくりと頷くと、そのまま静かに目を閉じた。