共鳴


「みんな! いきなりどうしたの!?」

 ユウヒが思わず訊くと、それぞれ人の形をして現れた四神達がおもいおもいに話し始めた。

「ユウヒ……いえ、蒼月。月華が解放されたようです。わかりますか?」

 そう言ったのは青龍だった。
 青い長い髪が上空を流れるように拭く風に煽られて揺れている。
 ユウヒは玉を握った手をゆっくりと解くと、周りを護るように現れた四神達をぐるりと見渡してから言った。

「そっか……さっきのはそういう事なのね。で、それをやったのは……リン、だね?」
「はい。ホムラ様です」

 答えた朱雀が、そのまま続ける。

「思っていたよりも早いですね。月華の解放を知っている者があの城にいたとは」

 少し驚いたような朱雀の様子に、サクが口を開いた。

「俺でもあなた方から聞いて初めて月華解放の事を知りました。もしもあの城でそれを知っている者がいるとするなら……青龍省大臣のショウエイ殿くらいしか」
「違うよ、サクヤ」

 ユウヒが口を挿み、何か思いついたようにまた首飾りの青い玉を握り締めて目を閉じる。
 ついにはその歩みを止め、先頭からユウヒの側にきたシキも含め、皆がユウヒを見つめている。
 やがてゆっくりと目を開いたユウヒは、微かに笑みを浮かべて言った。

「リンだよ。なんでだろう、わかるんだよ。これはリンがやったの。私が全てを知った時のように、リンは今ホムラ様として全てを『わかって』やってるんだわ」
「大いなる意志、というやつか?」

 サクの言葉にユウヒが頷く。

「そうだよ、サクヤ。リンはそれに突き動かされるように、でも自分の判断で動いてる。で、月華が解放されたって事は……シュウが出るね。いよいよ禁軍が動くよ」

 その言葉にシキの手綱を握る手に汗が滲んだ。
 指揮官の緊張はまるで波紋のように部下である黒州軍の間に拡がっていく。
 それを感じたユウヒは、大きく深呼吸をしてから声を上げた。

「退くならこれが最後の機会よ。無理に一緒に来いとは言わない。この先には中央群が、そして城では間違いなく禁軍が待ってる。残る者は今すぐここから去りなさい!」

 ユウヒの言葉がどう伝わったのか、そこから動こうとする者は誰一人いなかった。
 シキは少しだけ安堵の色をその表情に浮べて、ユウヒにゆっくりと近付いてきた。

「申し訳ない。禁軍と聞いて少なからず動揺してしまったようだ」
「ううん。無理ないよ、同じ仲間なんだもん。こっちこそ、嫌な思いをさせてしまっているようで申し訳ないよ」

 そうは言ったがユウヒは頭を下げなかった。

「あなたは?」

 唐突にユウヒがシキに問う。

「……はい?」

 質問の意図がわからずにシキがユウヒに問い返す。
 ユウヒはもう一度シキに言った。

「あなたは大丈夫?」
「もちろん。大丈夫ですよ」

 シキはそう言って、ユウヒに向かって大きく頷いた。
 そして今一度誰も動かないことを確認したユウヒは、シキに向かって言った。

「わかった。行こう、シキ」
「はい……」

 返事をしたシキはそのまま一団の先頭の方へと進んで行き、ユウヒはその後ろ姿を何となく見つめていた。