共鳴


 時は少し遡る――。

 王都へと向かう一団は、遥か上空を静かに移動を始めていた。

 黒州軍の副将軍であるシキを先頭に、騎獣に乗った集団がクジャの空を悠々と進んでいる。
 辺りへの警戒のためか口数はほとんどなく、緊張した空気が漂っている中、突然ユウヒが小さく声をあげた。

「ひゃ……っ!」

 いきなり緊張の糸が切れ、周りにいる者達の視線がユウヒに集まった。
 ユウヒは騎獣の手綱を離し、着ている服をぎゅっと握って胸元を押さえていた。
 振り返ったシキには、地上に降りる必要のない事を伝え、ユウヒは首飾りを引っ張り出した。
 そこへ黄龍とサクがすぅっと近付いてきた。

「どうした?」

 声をかけたのはサクだった。
 ユウヒは首飾りにしている青い玉を手のひらの上に乗せてじっと見つめた。

「その玉がどうかしたのか?」

 サクが問いかけると、ユウヒは何かを言いたげに一瞬黄龍の方を向いたが、すぐにサクの方に視線を移して口を開いた。

「何だかね。これがいきなり熱くなってさ」
「熱く?」
「うん。それでちょっとびっくりしただけ」

 それを聞いたサクは黄龍に言った。

「何か、心当たりでもあるのか?」
「……なぜそう思う?」

 その言葉にサクはちらりとユウヒを見やり、黄龍からの答えを待った。
 黄龍もどうやらそれで理解できたらしく、ユウヒを見て言った。

「別にこの男が仕込んだ細工の類ではないようだが……」

 やはり何らかの形でスマルは黄龍の中に存在しているようで、黄龍の言葉はスマルとの記憶の共有なのか、内側にいるスマルからの情報なのかはわからないが、それでも黄龍が知っているはずのない事だった。
 言葉を途中で切った黄龍は、何が気になったのか、王都ライジ・クジャの方角を見つめている。
 どうしたのかとユウヒが訊ねようとしたその時、黄龍はぼそりと小さく言った。

「……来るぞ」

 それがいったい何なのか、その場にいる者達が疑問に思ったのとほぼ同時に、空気を揺るがす波のようなものがライジ・クジャの方から伝わってきた。
 ユウヒが思わず耳を押さえる。
 周りの男達も不快感に顔を歪めた。

「何、今の?」

 そう言ったユウヒは思うところあって、風よけ布の下、服の袖を肩までめくり上げた。
 その腕にはいつかのあの青い火炎のような痣がくっきりと浮かび上がっていた。

「ユウヒ。お前それ……」
「うん。なんか熱いなって思って。それにこの石も……なんか違う。光ってない?」

 サクが視線を移すと、確かにユウヒの言う通り、青いその玉は青白い光を微かに放っていた。
 ユウヒはそれを握り締めると、黄龍と同じようにライジ・クジャの方向を見つめた。

「あ、もう一回さっきのが来るよ」

 ユウヒが言うとほぼ同時に、空気を伝わる波紋のようなものが前方から来て後方へと通り過ぎていく。
 玉を握り締めていたユウヒは、ハッとしたように黄龍を見た。
 黄龍が頷く。

 すると今度はユウヒが呼んでいないにも関わらず、四神達が半分透き通っているような儚げな様子で、その姿を表した。