囚われた王


「あの、解放の儀式をご存知なのですか?」

 嬉しそうにそう言ったホムラに、ショウエイは少々強い口調で言った。

「いえ。私はその場合の結界をどうすべきかと存じ上げているだけです。月華の解放はホムラ様、あなたのお仕事かと……」
「そうですね、えぇ……そうでした」

 少し戸惑っているようなホムラの様子に、シュウはたまらず声をかけた。

「どうしました? 何かわからない事があるようならば、それを調べてからでも遅くは……」
「いいえ、それでは駄目よ」

 そう言い放ったホムラは、ユウヒととてもよく似ていた。
 シュウは思わず言葉を呑む。

「わからない事などないのです。最近の私は、自分でも戸惑うほどに『よくわかる』のです。なぜなのかはわかりませんが、私はそれを知っているんです」

 戸惑いの表情をシュウが浮べたのとは対照的に、ショウエイはゆっくりと頷いてホムラに向かって言った。

「なるほど。通りであの鳥が見えたわけです。わかりました、それでは手をお貸ししましょう。術の発動はこの場所からでよろしいのですか?」

 そう言いながらショウエイがホムラに近付いてくる。
 ホムラの方からもショウエイに歩み寄り、そしてシュウも近くに来るようにと手招きをして呼んだ。

「月華をこちらに」

 ホムラが口を開く。
 すると、それまでは全く音の響くことの無かった祠の中にあって、ホムラの声だけが反響して幾重にも音を重ねて響き渡るようになってきた。

「ついてきて下さい。この街の力の中心、ライジ・クジャをお見せします」

 まるで幻術にでもかかったかのように、ホムラの声だけが頭の中でぐるぐると回りだしたかのように反響する。
 ほろ酔い気分にも似たふわふわした感覚を感じながら、ショウエイとシュウは歩き出した。
 ふと、シュウの体がぴくりと強張る。

 ――な、なんだ?

 訝しげにシュウが月華に視線を落とした。

 ――月華が、熱を帯びている……。

 少し温かくなった月華は、心なしかほとんど白に近いような蒼白い光を光を放っている。
 シュウはその柄を無意識にぎゅっと握り締めていた。
 するとそうなる事がわかっていたかのように、ホムラがシュウの方に手を差し出した。

「さぁ、月華を。月華を私にお預けになって下さい」

 何が起こっているのかが把握できないうちには月華を手放さない方が良いと、そう思っているのに体が勝手に動く。
 シュウは月華を持ち替えて鞘の中心あたりを掴み、差し出されたホムラの手にそれを預けた。