オウカの言葉にシキが続く。
ソウケンはまるで今にも泣き出しそうな顔をしてユウヒの顔を見た。
それでもユウヒはかける言葉が見つからず、ただ見つめ返すことしかできない。
だがそれでもその視線からは絶対に逃げるわけにはいかないと、むやみに高鳴る鼓動を持て余しながらソウケンの瞳をまっすぐに見つめ続けた。
「まったく……まるで信用されてないな、私は。これでは必死になって主張するこっちが馬鹿みたいではないですか。この期に及んで自分の命を粗末にするような真似はしないつもりですよ……でも、ユウヒさんのために振るうと誓ったこの剣で、私の家族を護っても良いと、そう仰るのであれば……」
詰めていた息を、はぁっとソウケンが一気に吐き出す。
ユウヒはホッとしたように緊張を解いて言った。
「そんなに難しいことじゃないんだよ、ソウケン。こんな時だから、お父さんが近くにいてくれた方が子どもは心強いかなぁ、なんて気持ちもあったりで。ねぇ、場所は違っても私達は同じ方向を目指して進んでいるはずでしょう? だったらその剣、私のために振るってることにはならないかしら? その、思いは同じっていうか何ていうか」
そう言ったユウヒの言葉は支離滅裂で、こじつけと言われても反論はできないようなものだったが、思わず噴出したサクが口を挿んだ。
「……はずれちゃいないが、変な理屈だな」
「確かに。命をどうこういう人を説得するには、あまりにお粗末な言い分だ」
カロンが続ける。
そして二人は顔を見合わせ、サクが再び口を開いた。
「それでも……お前の思いはちゃんと伝わってるよ、ユウヒ。そういう事ですからソウケン殿。我々はあなたに同行を頼むわけにはいきません。あなたのご家族のすぐ側で、この黒州で、あなたのできることをして下さるとありがたいです」
ユウヒはカロンとサクをちらりと見やってからソウケンに言った。
「まぁ、そういう事です」
ソウケンはユウヒを見つめて何かを言いかけたが、背後の兵士達からも同じような囁きが小さく聞こえ始め、さすがに諦めたのか、膝を掴んだ手にぐっと力を籠めて頭を下げた。
「わかりました。仰せのとおりに」
やっと折れたソウケンのその言葉に、ユウヒは安堵の表情でオウカを見た。
オウカはまるで礼を言うかのように、笑みを湛えた穏やかな顔で静かにユウヒに向かって頭を下げた。
ユウヒはふぅっと一息吐くと、その場にいる一人ひとりの顔をゆっくりと見回した。
「では明朝、王都に向けて出発します。私とサクヤ。カロンは?」
「もちろん」
話を振られたカロンが頷く。
「ではカロンも一緒に。黒州軍からは航空騎兵団を……そちらの方は全て副将軍のシキさんにおまかせします」
「委細承知」
シキが答えると、詰所の中が一気に騒がしくなってきた。
オウカがそれを咳払い一つで静め、ユウヒは軽く頭を下げて礼を言うとまた口を開いた。
「ここから先の話はお任せします。私がお願いしたいのはどちらもクジャの民である以上、敵にも味方にも、周辺に住んでいる人達にもなるべく犠牲は出したくないということだけでしたから。素人が口を挿んでも説明しなくてはならない分時間がかかってしまうだけでしょうし、サクとカロンを置いていきますので話を進めて下さい。サクは文官ですが、王都や城に関する情報はたくさん持っています。カロンは各地にいるっていう協力者の方達との連絡等のことで力になれると思います」
「わかりました」
ソウケンとシキが立ち上がって拝礼する。
ユウヒもそれに礼を返して、一瞬迷ったがそのまま詰所を出ることにした。
すると驚いたことに、ユウヒの後に続いてオウカも詰所から出てきた。
なにごとかとユウヒが声をかけようとすると、オウカが人差し指を自分の口にあてて黙るようにとユウヒを制し、羽扇を持った手をゆっくりと動かしてついて来るようにと促してから歩き始めた。
オウカの後を少し遅れてユウヒがついていくと、回廊伝いに城の裏側の東屋のようなところに連れて行かれた。
そこにはいつの間に手配したのかお茶の用意がされており、オウカとユウヒの姿を見つけた女官が大急ぎで茶菓子を持って近寄ってきた。