「サヤ? カヤもいるの?」
ユウヒが思わず声に出して言うと、リンの傍らに佇むサヤがはっきりと見え、そして自分のすぐ側にカヤらしき気配を感じることができた。
リンは驚いた様子だったが、すぐに納得したように小さく頭を下げた。
「はじめまして。ホムラ……いえ、リンと申します」
そう言って拝礼すると、カヤとサヤは申し合わせたようにユウヒとリンの手をとって、その手を月華の柄に添えさせた。
「私達の事はそのうちユウヒから聞いてね、リン。そして……私達の言葉を受け取ってくれてありがとう」
「言葉? えっと……あ、夢のことですか?」
リンが言うとサヤが嬉しそうに笑って頷いた。
「ユウヒ。さっき妹さんが言ってた通り、これからこの国を本来の姿に戻すわよ」
「うん」
カヤの言葉にユウヒが神妙な顔で頷く。
サヤとカヤは重ねられたユウヒとリンの手に自分達の手を添えて言った。
「あなた達の望みは何? この国をどんな風にしていきたいと思ってる?」
突然の問いにリンは戸惑ったような顔をしたが、ユウヒの方はやや上方を見つめるような仕草を見せてからすぐににっこりと笑って口を開いた。
「すごい欲張りな、でっかい事言っちゃってもいいのかな」
リンが驚いたようにユウヒを見て訊ねる。
「ちょっと姉さん、何を言おうとしているの?」
ユウヒはそれこそ驚いたようにリンを見つめ、それからさくさくっと言い放った。
「別に。いつもあんたと私がお参りなんかの度に言ってた事だわ」
「お参りって……あ、あぁ。って、えぇっ!?」
「わかった? あれってさ、まぁ言っちゃなんだけど、たぶんこの世に存在する全ての者達を網羅しちゃうんじゃないかと思うのよ」
リンは困ったように顔を歪め、カヤとサヤはその様子に何事かと首を傾げる。
ユウヒは構わず言葉を継いだ。
「具体的にどうしたい、こうしたいっていうのはまだまだこれからの私達にはわかんない。でも、私が王様になってもいいって思えたのは、いつも願ってるばかりだったそれを、自分の手で実現に近づけられると思ったからよ。いや、自分達の手で、かな」
もう既に姉がを言おうとしているのか気付いているリンが、呆れたようにユウヒを見つめている。
それでもユウヒの表情は変わらず、その意志を貫こうとしている事は容易に知れた。
月華を握るユウヒの手と、それに添えられたリンの手に熱が灯り、力が籠もる。
「わかったわ。私も姉さんのそれに乗っかる。まったく……心配症のくせにやる事が大胆で困っちゃうわ」
諦めたような口調のリンだったが、それでも顔は笑っていた。
昔からよく見ていた、迷いなく明るい、可憐な妹の笑顔だった。
ユウヒは安心したように微笑み返して、サヤとカヤを見つめて言った。
「私達の望みは昔からただ一つよ」
そして二人の声が重なる。
「願うはただ一つ……『私と、私の周りの人達と、そこから繋がって拡がっていくそのすべての者達が幸せでありますように』」
ユウヒとリンが顔を見合わせて嬉しそうに笑い、サヤとカヤはそれを驚いたように見つめていたが、やがて同じように嬉しそうに微笑むと月華に添えた手をすっと動かしてユウヒ達二人を促して月華をライジ・クジャの方へと誘った。