スマルが城に着いた時には、もうすっかり日も暮れて夜がすぐそこまで近付いていた。
故郷であるホムラの郷に城からの一行が着いたのがちょうど夕方頃。
どう言いくるめたのか、カナンの計らいでリンは到着から程なくして実家に戻ることを許された。
禁軍の兵士達とスマル、そして郷で出迎えた面々が顔を合わせ、さて、これから護衛についての打ち合わせをと思った時、空から突然の訪問者が現れた。
憔悴しきったシオを乗せた騎獣は、スマルに向かってまっすぐに降りてきた。
何という言葉を交わさなくとも、城でユウヒの身に何かが起こった事は容易に想像ができた。
スマルは長老とチコ婆からすぐに城へ戻るようにと言われ、とりあえずキトと護衛に関する簡単な引継ぎを済ませ、シオの乗ってきた騎獣でそのまますぐにホムラを発ったのだ。
シオはユウヒの友人として、チコ婆に引き渡され、城から来た人間からとやかく聞かれる前におそらくユウヒの実家に運ばれた事だろう。
そのあたりについては、郷の人間を信用して任せておけばいいとスマルは思っていた。
気になるのは城の方だった。
いったい何が起こってユウヒはシオを騎獣に乗せてホムラ郷へと送り込んだのか。
嫌な予感がした。
胸騒ぎがしてならなかった。
だからこそスマルは、騎獣を気遣いながらも大急ぎで城へと戻ってきたのだ。
陸路を行くのとは違い、騎獣での移動は段違いに速い。
それでもスマルが城に着いた時には、もうすでに辺りは暗くなっていた。
執務時間はとうに終わっているというのに、城の中は不自然なほどに慌しい。
だが一番スマルが気になったのは、自分に集まる同情にも似た周りからの視線だった。
――…なんだ?
妙な違和感を感じながら、スマルは騎獣を連れて厩舎に向かった。
「あ、スマルさん、ですよね?」
見知らぬ男が声をかけてきた。
どうやら厩番をしているらしいが、スマルが口をきくのはこれが初めてだった。
「えぇそうですが、その…何か?」
訝しげな表情でスマルが聞き返すと、その男はささっとスマルに駆け寄ってきて小声で言った。
「申し訳ありません。自分はここで厩番をやってるエンウという者です。その…今朝の事はもうお聞きになりましたか?」
スマルから騎獣の手綱を受け取りながらエンウはそう言った。
何のことだか要領を得ないスマルが、不思議そうに言葉を返した。
「いや、たぶんまだ…今戻ってきたところですから」
「…ですよね。実はその…ユウヒが罪人を逃がして捕まったんですよ」
「はぁあ!? どういう事ですか?」
驚いてスマルがエンウを見ると、エンウは困ったような顔をして口を開いた。
「俺も遠巻きに見てたんでよくわからないんですけど…収監されたのは、たぶん間違いないと思います」
スマルは小さく舌打ちして中庭の方を振り返った。
二人でヒヅルに見せるからと剣舞をしたその場所で、あの後いったい何が起こったというのか。
スマルは軽い眩暈を感じた。
「えっと、エンウさん…でしたか?」
「エンでけっこうです」
「あ、あぁ…教えてくれてありがとう、エン」
スマルはエンウに礼を言うと、自室には向かわず、そのままユウヒの部屋へと足を向けた。
歩き出した足が、徐々に早足になっていく。
気が急いて、どうにも落ち着く事ができない。
ユウヒの部屋の前に辿り着いたスマルは、息を整えて扉を軽く二度叩いた。
「…どうぞ」
男の声で返事があった。
スマルはごくりと息を呑み、その扉を一気に開けた。