神の宿る祭


 ――よしっ

 両手で剣の柄を逆手にぎゅっと握り締めて残り三段の階段をいっきに駆け上がると、そのままススーッと舞台の中央まで歩み出てぴたりとその足を止めた。
 下を向き、足をわずかに開いてまっすぐに立ったユウヒは、剣の柄を握り締めたままの状態でまったく動かない。
 見物客の息を呑む音まで聞こえてきそうな静寂があたりを包み込んだ。

 ――ドドンッ ドドッドドッドドッ ドドンッ ドドッドドッドドッ……

 大小すべての太鼓が、同じ調子で拍子をきざむ。
 最初はぴたりとそろっていたそれが、少しずつ拍子を変えて、やがて二つの波となる。
 その二つの波は、互いが互いに覆いかぶさろうかとしているかのように、あとからあとから追いかけてくる。

 ユウヒは剣を握る手に力を込めると柄をぐっと下げ、そのまま真横に剣を勢いよく抜いた。
 畳み掛けるように響き渡る太鼓の波が、その銀色に光る二振りの剣に切り裂かれた。

 いっきに伸ばした腕の手首をくいっと返して、ユウヒは両方の剣を同時に順手に持ち替えた。
 両腕を大きく広げて剣をかまえ、そのままやや腰を落として円を描くように舞台の上を回る。
 そしてもといた位置に再び立つと、剣を構えたままで腕を下におろし、掛け声とともに両方の剣を真っすぐに投げ上げた。

「ハッ!」

 ――ドドドッ ドンドンドンドンドンドン ドドドッ ドンドンドンドンドンドン……

 大きく速く三回。いっきに音が小さくなって、徐々に大きくゆっくり六回。
 どんどんせまってくるかのように繰り返される太鼓の音は、大きくなり小さくなり、ホムラの夜空に響き渡る。

 その合間に、ぶんぶんと風を操るような音とともに、剣から反射した橙がかった銀色の光がくるくると走る。投げ上げられた剣を、柄ではなく柄ぎりぎりの紐を握って受け止めたユウヒが、そのまま手首をつかってぐるぐると剣を回し、自らもまわっているのだ。

 時に頭上で回した剣を大きく自らの身を反らせてかわし、足元で低く回した剣は飛び上がり、足を振り上げてその刀身をよける。
 すばやい動きの中、回された剣は勢いを失うことなくクルクルと円を描き続けている。

 右手を緩め紐を離して勢いのままに飛んでいく剣を、紐を引いて手元に呼び戻す。
 手のひらの中にしっかりとおさまった剣を確認すると、今度は左手の紐をパッと離した。
 解放されたもう一方の剣は、すぅっと飛び出し、紐の長さいっぱいのところでやはり引き戻され、ユウヒの左手にピタリとおさまった。

 剣を順手に持ったユウヒは、その腕を顔の前で交差させ、剣も交差させると、その場にストンと小さく座り込んだ。

 すると、それを合図にユウヒの後方にある階段から、剣を持たない舞手が次々と舞台の上へと上ってきて、左右へと散っていった。
 社の外から、大きな歓声が沸きあがり、その振動が舞台の方まで伝わってくる。
 娘達のあとから今度は、両手に剣を持ったアサキ、ニイナ、レイ、マナの4人が、二人ずつに分かれて上がってきた。
 ユウヒの右側にニイナとレイ、左側にはアサキとマナ。ぶつからない程度の間合いをとって、前後に並んで立った。
 順手に持っている剣は自然に下げられたまま、その出番を待っていた。

 剣舞の4人が並び終え、顔を上げて一息ついた時、社の外から一際大きな歓声が上がり、そのどよめきで空気が揺れた。
 濃い灰色の装束をまとった、リンが舞台に姿を現したのだ。
 他の4人とは違い、リンはユウヒと同様に腕を交差させ、剣もまた同じように交差させていた。
 リンの上がってくる気配で、ユウヒは座ったままの状態でススーっと足を運び、舞台中央の前方で止まり、その後方でリンも動きを止めた。
 二人は静かに息を吐いて、そのままじっと動かず太鼓の合図を待つ。
 舞台の上にいる者は皆、それぞれの場所で動きを止めて、じぃっと息を潜めていた。

 うずまく熱気、そして篝火の煙とで、社の敷地内、舞台の上に薄く靄がかかり始めていた。